投稿日:2025年6月23日

電析無電解めっきの基礎と腐食トラブルおよび防食対策

はじめに:製造業現場で求められる「めっき」技術の再認識

製造業において「めっき」は、言うまでもなく素材の表面機能を飛躍的に高める極めて重要な技術です。

半世紀以上前から自動車、電子部品、さらには医療分野まで、多様な産業の礎として発展してきました。

しかし、現場では「昭和時代」から抜け出せていない古い知見や慣習がいまだに根強く存在するのも事実です。

昨今は、腐食トラブルや品質不良の再発防止が厳しく問われる時代となり、サプライヤーもバイヤー視点で徹底的な技術理解が不可欠となっています。

本記事では、現場で実践的に役立つ「電析めっき」「無電解めっき」の基礎と、腐食トラブル発生メカニズム、その具体的な防食対策まで、第一線で得たナレッジを軸に解説します。

バイヤー志望の方、部材供給側の担当者にも「本音と実践」が伝わる内容を意識しています。

電析めっきと無電解めっきの基礎知識

「電析めっき」とは何か?

電析めっき(Electroplating)は、金属製品や樹脂部品などの表面に金属の薄膜を生成するプロセスです。

電解液の中でワークとしたい製品を陰極、めっきしたい金属を陽極として電流を流すことで、金属イオンが陰極側(ワーク)に析出し金属皮膜を作ります。

例えば、鉄素材への銅めっきやニッケルめっき、装飾クロムめっきなど、耐食性、耐摩耗性、導電性、美観性といった多様な機能付与が可能です。

現場の工程管理やライン設計においては、電流密度の調整、pH管理、沈殿速度の制御など、トラブル防止のためのノウハウが求められます。

また、多層めっき(複数の金属を重ねて皮膜構成とする)の場合、各層で前処理・中間洗浄が肝心で、ここを省略するとピンホールや割れが顕在化しやすくなります。

「無電解めっき」とは?

無電解めっき(Electroless Plating)は、いっさい外部から電気を加えず、化学反応の自発性を活用して金属皮膜を析出する表面処理技術です。

最も有名なのは「無電解ニッケルめっき」です。

還元剤(たとえばヒポ磷酸ナトリウムなど)と金属のイオン(ニッケルなど)が溶存した浴液に被加工物を浸漬することで、被膜が均一に析出します。

最大のメリットは、形状の複雑なワークや内面、微細な部分においてもムラなく均一な厚みの被膜形成ができる点です。

加えて、「電食」現象が発生しにくいため、機構部品や微細加工品、あるいは樹脂基材などにも非常に適しています。

用途や得られる機能の違い

電析めっきはコストパフォーマンスに優れ、ライン生産の安定化に強みがあります。

自動車部品をはじめ産業機械や家電部品など、短時間で多量処理が求められる量産現場では主流の技術となっています。

一方、無電解めっきはコスト面でやや不利な側面もありますが、部品形状に対しての追従性や物理的特性(内面防食、高硬度、自己潤滑など)が要求される分野では欠かせません。

電子基板や精密機械部品、油圧・空圧部品、さらには医療デバイスのような特殊分野で多用されています。

バイヤーや購買担当者としては、単なるカタログスペックだけでなく、現場へのマッチング(部品用途・形状・求められる性能)を本質的に理解し、最適な手法選定ができるかが競争力につながります。

腐食トラブルの実態と起こりやすいメカニズム

「素材」と「下地めっき」の選定ミスが招くトラブル

強固な「めっき皮膜」を得るために最も見落とされがちな点が、素材選定と下地処理です。

鉄鋼、アルミ、亜鉛ダイカスト、ステンレス、銅など、母材の種類・表面粗さ・残留応力には敏感に反応するため、事前の成分分析や表面前処理(脱脂・活性化・酸処理など)の出来不出来が仕上がり結果に直結します。

たとえば、アルミへ直接ニッケルめっきを行うと“剥離・浮き”現象が多発します。

そのため、ジンケート皮膜(亜鉛置換)やアンダーニッケル下地を挿入し、密着性を高めることは業界の「常識」です。

現場では、「この程度なら大丈夫」といった油断が腐食やピンホールの原因となることが多いため、設計段階で母材とめっき仕様を紐づけることが重要です。

ピンホール腐食・ブリスター(膨れ)・割れ等の多様な現象

めっき工程で典型的に発生する表面トラブルには、大きく分けて以下のようなものがあります。

– ピンホール腐食:表面皮膜の極小欠陥から発生し、後に孔食や大きな腐食の原因となる
– ブリスター(膨れ):密着不良などに由来し、皮膜が母材から剥がれ浮き上がる
– 割れやクラック:応力腐食や皮膜内のガス残留で生じやすい
– ステイン・変色:浴液のコンタミや処理トラブルに起因する

これらのトラブルは見た目だけの問題ではなく、長期使用での構造物健全性・機能保証に多大な影響を及ぼします。

もしもトラブルが発生した場合、板金加工工程〜めっき工程の全履歴を速やかにトレースし、母材分析、皮膜構造(層厚・成分)の再検査が必要です。

サプライヤー側では「見過ごし」や「部分修正」で済ませがちですが、バイヤー目線では一連の再発防止策の提示が強く求められます。

経年劣化による「点錆」「もらい錆」「孔食(ピッティング)」

昨今、JIS/ISOなどの規格要件が年々厳格化していますが、使用現場で最もリスクとなるのが「もらい錆」です。

これは異種金属と接触することによる「ガルバニック腐食」と呼ばれる現象であり、想定外の環境下で一部だけ変色・腐食してしまうことも珍しくありません。

設備産業やインフラ系の現場では、特に大型構造物の継手部や据付穴などで多発しています。

また、海外クライアントへの輸出製品では長期塩水噴霧試験(SST: Salt Spray Test)による合格判定が厳守されています。

バイヤー・購買側としては、これらの腐食メカニズムを熟知し、適切な下地選定や表面保護のための追加要件を最初から仕様化することが肝要です。

防食対策の実際:現場目線での勘所と工夫

材料選定段階での「腐食設計思想」確立の必要性

腐食トラブルを未然に防ぐためには、製品設計段階で「腐食設計思想」を持つことが最重要です。

たとえば、屋外仕様部品ならクロムめっき、ニッケルめっきの多層構造。

電子部品では無電解めっきによる均一厚付けとピンクロア防止処理、油圧部品には高リン系無電解ニッケルなど、必要な機能ごとにベストな皮膜選定が求められます。

また、「ガルバニック腐食」対策としては、異種金属の直接接触部に絶縁膜や封止剤を使う、組み合わせる金属のイオン化傾向差をあらかじめシミュレーションして材料決定することも推奨されます。

従来の「コスト最優先」の思考から、「全体最適(TCO観点)」にラテラルシフトすることが現代バイヤーの必須マインドです。

めっきプロセス管理における現場の勘どころ

実際の製造現場では、DX(デジタル変革)や自動化ラインが進む一方、依然としてプロセス管理の細かな「勘どころ」が人の経験則に多く依存しています。

– 洗浄工程での水質変動(硬度・導電率)や薬剤の積層沈着
– ヘッダーラインの流量不均一や液温異常
– 定期的なめっき浴の分析・交換頻度
– 作業者ごとのピックアップタイミングの統一

こうした「現場力」を高めるためには、IoTによる工程連続モニタリングやデータ蓄積と合わせて、“なぜこのパラメータを守る必要があるのか”という根本理解の周知徹底が重要です。

また、現場主導の「カイゼン提案」が活発になることで、サプライヤーとバイヤー両者のリレーションシップ強化にもつながります。

検査・品質保証体制の高度化

最終的な「皮膜品質」の保証には、X線膜厚測定、走査電子顕微鏡(SEM)、ミクロ断面観察などの最新設備を活用した物理検査が必須です。

加えて、現場納品後の定期的な抜取評価(赤錆/黒錆試験・テープテスト・耐摩耗試験)も組み合わせることで、部品寿命を事前に予見しやすくなります。

サプライヤーには「検査判定基準」を明示化し、定期的な技術レビュー(QC活動・監査)を両社で共同実施することが、再発防止のみならず信頼強化の観点でも大きな効果を発揮します。

まとめ:バイヤー、サプライヤー、人材すべてが勝つための「現場知」とラテラルな発想の重要性

電析めっき・無電解めっきは、昭和から令和に至るまで不変の基盤技術でありながら、工程設計や防食設計の「ほんの小さな差」が、製品価値全体に影響する分野です。

複雑化・多様化する顧客ニーズにどう対応するか。

バイヤーは単なる価格交渉役ではなく、「現場知」(技術的深掘り→納入仕様書レベルへの落とし込み)を自らの引き出しに増やす必要があります。

サプライヤーもまた、単なる下請けではなく、自社のプロセス改善・解析力を武器に差別化していくことが存続のカギとなります。

今後は、AIやIoTを活用したプロセス監視、トレーサビリティ管理、品質予兆の抽出といった新しい潮流を積極的に取り入れる企業こそが、レガシーな製造文化から脱却し、グローバルで勝ち続けていける土台を手にします。

日々変化する業界動向を敏感に捉え、“基礎を深く掘り下げる姿勢”と“未来志向のラテラルシンキング”を持った一歩先のバイヤー/サプライヤーを目指しましょう。

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