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塑性加工FEMの基礎と解析精度向上のポイントおよび例

目次
塑性加工FEMの基礎と解析精度向上のポイントおよび例
はじめに:塑性加工FEMとは何か
製造現場において「FEM(有限要素法)」は、金属の板金成形や鍛造など、さまざまな塑性加工プロセスの解析ツールとして近年ますます重要性を増しています。
かつてのアナログ手法だけでは読み解けなかった現象を数値的に可視化し、プロセス設計や品質改善、コスト圧縮に大きく寄与しています。
しかし昭和の現場では「FEMなんて使い物にならない」「現場感覚が一番」といった声も根強くあります。
今こそ、業界の壁を乗り越え、FEMを味方につけることで新たな地平線を切り開く時代です。
塑性加工とFEMの関係性
塑性加工とは、金属に力を加え、材料が元の形に戻らないような変形を意図的に発生させる成形方法です。
この過程で起こる「材料の流動」や「ひずみ集中」、「割れやしわ」といたトラブルを、実験のみに頼って抑え込むのはコストも時間も膨大にかかります。
その点、FEMは理論と現場の橋渡し役となり、量産前のシミュレーションやトラブル防止、材料置換や工法開発など幅広い用途で活躍します。
FEM解析では、製品や金型を微小な「メッシュ」と呼ばれる要素に分割し、それぞれの要素ごとに力や変形を計算します。
この「分割」「連成」「再計算」を繰り返すことで、全体の動きと力学挙動を精密に予測できるのです。
塑性加工FEMの基本ステップ
塑性加工FEMを使いこなすには、下記の基本ステップが重要です。
塑性加工FEMにおいて最も肝心なのが材料データです。
流通規格の引張試験データだけでなく、応力‐ひずみ曲線、ヤング率、ポアソン比、各温度領域での物性値など「実際に加工する条件に合わせたデータ」を準備しましょう。
2. メッシュ作成
成形部品や金型の3Dモデルをもとに、解析用のメッシュを作ります。
高精度化したい箇所(例えばR部、絞り部、エッジなど)はメッシュを細かく、影響が少ない箇所は粗くと、メリハリが命です。
3. 境界条件・荷重設定
実際の成形工程にできるだけ忠実に、押し当てるパンチやダイスの動き、圧力、摩擦係数などを正確に入力することが重要です。
現場での観察や、生産管理部門との密な連携が肝心です。
4. 解析実行・結果評価
シミュレーションを実行し、限界ひずみ、残留応力、金属流動、成形荷重などを評価します。
「結果通りに現物は動かない」場合は、必ず材料データや条件のフィードバックを繰り返しましょう。
解析精度向上のポイント
FEM解析は万能ではありません。
「理論値」と「現場実態」のギャップを埋めるのは技術者の腕にかかっています。
精度向上の要点を押さえ、業界の常識を超える現場活用術をご紹介します。
1. 材料試験は自社流で徹底的に
本やネットで拾った標準データでは本当の現象は見抜けません。
現場で使う実際の材料を、実際の成形条件(温度、加工速度)で独自に試験し、そのデータをもとにFEMに入力しましょう。
材料ロットが変わったら追試も必要です。
2. 摩擦・潤滑条件へのこだわり
プレスや鍛造、押出成形では「摩擦」や「潤滑油」の有無が結果に大きく影響します。
油の種類や塗布量、工具表面粗さを現場で測定し、現物と同じ設定値をFEMに落とし込みます。
3. 初期欠陥やエッジ形状もモデル化
実際の現場部品には「微小な傷」や「わずかなエッジR」「バリ」など初期欠陥がつきものです。
CADデータやメッシュ作成の段階で、これらも意図的に再現すると、現実に即した解析結果を得やすくなります。
4. 工程ごとの仮想トライ&エラー
単発工程だけでなく、前後の成形プロセスもセットでFEMシミュレーションすることで、予期せぬ変形や累積ひずみ、割れ発生位置などを先読みできます。
一歩踏み込んだ仮想トライを現場と連携して進めましょう。
5. 検証サイクルの「見える化」と共有
FEMと実際の現場トライ品の形状・寸法・割れ位置などを写真や図面で比較し、仮説、解析条件、結果とセットでレビューします。
サプライヤー、バイヤー、生産技術、設計部門と横断的に成果や課題を共有することで、認識のズレが減り、現場力が大幅に向上します。
実践活用例:アルミ自動車部品の深絞り成形
1. 得意先からの「より軽く、安く」の要求
エンジン周辺のアルミ部品で、軽量化とコスト削減、なおかつ割れゼロの品質がバイヤーから求められました。
従来工法では割れるため「FEMで可能性をガイドしてほしい」とサプライヤーに依頼されます。
2. FEMによる材料グレード・金型条件の最適化
複数材料グレードと金型パラメータ(R部、小絞り比、パンチ速度)をFEMで同時検証。
限界ひずみ到達位置、板厚分布、成形荷重、割れ発生リスクを比較し最適案を抽出。
FEMを用いて「最も割れにくい条件」と「コスト優先条件」の二案を提案しました。
3. 現場実験でFEM再検証
実際にプロト金型+新材料でトライを実施。
FEM結果と現品評価(割れ位置、絞りしろ、板厚減少率)を詳細に比較し、微調整をフィードバック。
結果、FEMで予測した通りの工法で歩留まり率95%を実現し、サプライチェーン全体の信頼性が大きく向上しました。
昭和型アナログ現場とのハイブリッド活用術
いまだアナログ主義の多い製造業現場でFEMを導入し「使いこなす」ためには、「理論100%」「現場100%」ではなく、その折衷や融合が肝です。
例えば「現場でこの形状なら割れるぞ」とベテラン職人が感じる直感を、逆にFEM解析条件として再現してみることで、現象の本質理解が進みます。
現場目線の地道な観察結果と、FEMの理論的シミュレーションを相互にぶつけあう「ハイブリッドPDCA」が、現代製造現場には求められています。
業界の常識や「前例」にとらわれず、「FEMでもわからなかったが現場ではこう動いた」あるいは「FEMで見えた意外な割れメカニズム」を次の提案や製品開発にダイレクトに反映しましょう。
まとめ:FEMは工場の未来を切り開くラテラルツール
製造業は変革期にあります。
FEMを用いた塑性加工解析は、経験や直感だけでは到達できない新しい品質保証や競争力向上への扉を開いてくれます。
バイヤーとサプライヤー、設計・技術・現場が横断的にFEMで得られた知見を共有し、議論を重ね、現物検証を徹底する。
その積み重ねが昭和的な経験主義からデジタルxリアルなものづくり力への進化につながります。
塑性加工FEMの基礎を押さえ、現場目線で精度向上にトライし、業界横断の知見として広めていくこと。
こうした実践的な地道さこそが、今後の日本の製造業を世界に誇るものへ育てていくと信じています。
現場の声とデジタル手法、そのどちらも活かした価値創造へ、共にチャレンジしましょう。
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