投稿日:2025年7月5日

高周波信号測定と共振回路設計で学ぶ高周波技術基礎

高周波信号測定と共振回路設計で学ぶ高周波技術基礎

はじめに ― 高周波技術が製造業にもたらす価値

現代の製造業において、高周波技術の活用は電気・電子機器メーカーだけに限定されるものではありません。

工場の自動化、品質管理、IoTの導入など、さまざまなフィールドで「高周波」を正しく測定し、制御する知識は必要不可欠です。

昭和時代のアナログな現場では、回路設計や信号測定も経験則と勘が重視されてきましたが、現代のグローバル競争社会のもとではそのような姿勢だけでは限界が生まれています。

本記事では、「高周波信号測定」と「共振回路設計」という2つのキーワードを軸に、高周波技術の基礎を現場目線で解説します。

これからものづくりの現場に携わる方、調達や購買として部品調達に踏み込もうとしている方、サプライヤーとしてバイヤーとの共通言語を身につけたい方にも役立つ内容です。

高周波とは何か ― 現場感覚で理解する

高周波(High Frequency、HF)とは、一般的に数MHz(メガヘルツ)から数百GHz(ギガヘルツ)までの高い周波数領域の電気信号を指します。

工場設備や産業機械向けセンサ、無線通信機器はもちろんのこと、自動車や医療機器、最近ではスマートファクトリーで活用される無線ネットワークや誘導加熱装置など、現場の至るところで高周波技術が活躍しています。

昭和の時代は低周波アナログ回路の設計ノウハウが中心でしたが、デジタル制御の高度化やIoTの波を受け、現代工場の担当者にも高周波設計や測定の基本が問われるようになっています。

高周波信号の特徴と注意点

高周波信号は伝送線路での減衰やノイズ、インピーダンス整合、大地ループによる共振など、低周波では意識しなかった問題が多く発生します。

見逃しがちなのは、部品・配線の実装そのものが「寄生容量」や「寄生インダクタンス」として回路性能に影響する点です。

また、工場の現場ではシールドやアース対策が疎かになりがちで、EMC(電磁両立性)不良や高周波ノイズによる予期せぬ動作不良にもつながりやすいのです。

高周波信号測定のポイント

テスターだけでは通用しない高周波測定

昭和の現場では万能テスターやアナログオシロスコープが主流でしたが、高周波領域ではその限界が顕著です。

「1MHzを超えたら普通のテスターでは波形が見えないよ」とベテラン技術者が口をそろえます。

なぜなら、高周波はプローブやケーブル自身がアンテナとなって信号を吸収したり、反射ノイズを誘発したりしやすく、測定そのものが「回路に干渉する」現象が起きるからです。

主な高周波測定器の特徴

高周波信号を適切に測定するためには、専用の測定機器とその正しい使い方が不可欠です。

オシロスコープ

近年はデジタルタイプが主流で、帯域幅は数百MHz~数GHzまで対応できます。

ただし、プローブや測定系のインピーダンスに注意しないと、測定誤差が大きくなりやすいです。

スペクトラムアナライザ

信号を周波数成分に分解して解析します。

高周波ノイズ源の特定、回路からの不要なスプリアス成分(妨害波)の検出、IoT機器の無線性能確認などに使われています。

ネットワークアナライザ

特に共振回路やフィルタ、アンテナ評価など高周波設計で必須の測定器です。

インピーダンス整合やSパラメータ解析により、現場での「現象」の数値化が容易になります。

現場での測定トラブルあるある

「プローブの測定位置で波形が全く違う」

「ケーブルを伸ばすとノイズが乗る」

「工場のシールドルームに入れると現場で出ていたノイズが再現できない」

こうした現場トラブルは、ケーブルや測定器、作業環境そのものが『高周波設計の一部』となっている証拠です。

測定する前にきちんとグランドを取り、ケーブルやプローブは可能な限り短くし、周囲のノイズ源を遠ざける。

現場では「どうせ遊び配線だから」と考えがちですが、高周波に限って言えばその一手間が品質と信頼性の分水嶺になります。

共振回路と高周波設計の基礎

なぜ共振回路が注目されるのか

共振回路は特定の周波数だけを強調・選択する回路のことです。

製造現場ではRFIDのリーダー/タグ通信、誘導加熱装置の発振回路、EMC試験のノイズフィルタなど、多彩に応用されています。

IoT機器の無線通信モジュールや、工場の設備間ネットワーク(例:Wi-Fi、Bluetooth)でも、共振回路なしには安定動作が保証できません。

LC共振回路(タンク回路)の基本

最も基本的な共振回路は、コイル(インダクタンスL)とコンデンサ(キャパシタンスC)を並列、ないし直列に接続したものです。

並列共振回路は特定周波数だけ大きく振幅します。

直列共振回路は特定周波数のみインピーダンスが極小となり、電流が最大化します。

共振周波数fは f = 1 / (2π√LC) で求められます。

部品のばらつき、温度変動、実装レイアウトの違いで共振周波数がシビアに変動するため、現場では実測とシミュレーションの両方での検証が求められます。

高周波設計における業界動向と現場のギャップ

最近では、基板設計CADの高性能化や、EMC対策部品の標準化が進む一方、中小工場や協力メーカーでは「紙ベースの回路図+ブレッドボード試作+現場で微調整」のアナログな手法が今でも根強く残っています。

これが部品調達や量産立ち上げのタイミングで品質トラブルやコミュニケーションロスにつながるため、バイヤー目線でいえば「標準化・数値化・根拠を明示する姿勢」と「現場での柔軟な対応力」の両輪が求められていると言えるでしょう。

業界では“寄生容量・寄生インダクタンス”対策が必須スキル

たとえば共振回路では、配線パターンそのものが寄生容量(配線間の見えないコンデンサ成分)や寄生インダクタンス(配線長に比例したコイル成分)を生み出します。

昨今の高集積一体型ICではピンピッチも狭く、実装密度が高いため、ちょっとしたパターン変更や部品交換で想定外の共振を起こしやすくなります。

業界の最新動向として、部品メーカー・基板メーカー・装置メーカーが「定量的なインピーダンス管理」や「モデリング手法」を共有し合い、標準化する動きが加速しています。

この流れを学び取り、現場に落とし込めるプレイヤーは今後ますます価値ある人材となります。

バイヤー・サプライヤーから見る高周波技術の実践ポイント

バイヤーに求められる目利き力

高周波回路や部品の調達では、単にコストだけでなく、仕様書にある「静電容量」「許容誤差」などのスペック以上に、「実際の使用環境」と「現場の測定データ」を加味した判断力が不可欠です。

たとえば、EMC規格(CISPR22、VCCI等)をクリアするために、何が現場で問題を引き起こしやすいか。

これを理解して部品選定やサプライヤー交渉を進めることが、調達購買の新しい価値と言えるでしょう。

サプライヤー側の現場知識の強化

サプライヤーの現場担当者や営業もまた、バイヤーが何を気にしているか――「全数検査できるか」「量産時にバラつきが少ないか」「現場で測定誤差が出にくいか」――など、単なるスペックだけでなく、現場で起きがちな課題をくみ取ることが信頼構築に直結します。

互いの現場課題・測定手法を開示し合い、数字と実体験を両輪で比較検討することが、今後のものづくり現場を支えます。

まとめ ― 高周波技術の基礎を現場目線で捉え直そう

高周波信号測定と共振回路設計は、もはや一部の専門部署だけの仕事ではありません。

現場の調達・購買や生産管理、サプライチェーン全体で「どのような信号環境で設計し、どう測定し、どう品質を保証するか」が問われています。

アナログな業界風土が残る工場でも、現場力がますます重要となる時代です。

高周波信号の本質と共振回路の振舞いを現場で体験し、「測定は実力、設計は現場感覚」の姿勢を大事にしましょう。

この基礎力が製造業の今後10年、イノベーションの根幹となるはずです。

製造業に関わるすべての方が、一歩先の高周波技術をつかむための第一歩として本記事が役立てば幸いです。

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