投稿日:2025年6月17日

画像処理・フィルタリングの基礎とノイズ除去・欠陥検出への応用

はじめに:製造現場における画像処理の重要性

製造業において今や欠かせない技術の一つが、画像処理です。

近年は、品質管理や自動化、生産性向上だけでなく、取引先企業からの「不良ゼロ」要求や、トレーサビリティ確保の観点からも画像処理への期待が急速に高まっています。

しかし一方で、依然としてアナログな手法が残る現場も多く、「画像処理って本当に使えるの?」「現場で使いこなせる人が少ない」といった悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。

本記事では、実際の製造現場の目線から、画像処理・フィルタリングの基礎と、ノイズ除去や欠陥検出といった実践的な応用について詳しく解説します。

バイヤーやサプライヤー、そして現場のエンジニアまで、あらゆる立場の方に有益な内容を目指します。

画像処理の基礎知識:どこから始めるべきか

まず、画像処理の基本を押さえましょう。

画像処理とは、画像データに対してアルゴリズム的な処理を施し、目的に合わせて画像を変換・分析・認識する技術です。

製造業では主に、目視検査工程を自動化するため、不良品や異物混入、寸法不良などの検出に画像処理システムが多用されています。

画像処理の主な流れ

1. 画像の取得(カメラ撮影やスキャン)
2. 画像の前処理(フィルタリング、コントラスト調整など)
3. 特徴抽出(エッジ検出、色成分の分離など)
4. 欠陥検出・判別(しきい値処理、パターンマッチングなど)
5. 判定結果の出力(OK/NG判定、座標出力等)

この一連の流れを理解しておくことが、製造現場で画像処理を有効活用する第一歩となります。

フィルタリングとは何か?現場での役割と必要性

画像処理の中核をなす工程が「フィルタリング」です。

フィルタリングとは、画像の品質や内容を目的に合わせて加工しやすくするための「前処理」と言えます。

例えば撮影環境の影響によるノイズ(ランダムな色のブレやザラつき)を除去したり、欠陥を分かりやすく強調したりする際に活用されます。

主なフィルタリング手法

製造現場でよく使われるフィルタリングには、以下のような手法があります。

・ 平滑化フィルタ(平均化フィルタ、ガウシアンフィルタなど):ノイズ除去やボケ効果
・ シャープ化フィルタ(エッジ強調フィルタ):輪郭や傷の強調
・ メディアンフィルタ:塵やランダムノイズへの耐性が高い

特にメディアンフィルタは、一点の異常値に弱い平均化フィルタの欠点を補うため、粉塵や細かいバリ、ランダムな傷の検出前処理に多用されます。

ノイズ除去の実践:なぜ必要かと最新の動向

昭和から続く多くの工場では、撮像環境が必ずしも理想的とは限りません。

照明条件のバラつき、ゴミ・埃、ライン搬送によるブレなど、多様な「ノイズ」が画像データに混入します。

ノイズを正しく処理できなければ、AIやルールベースの判断システムでも誤検出・見逃しが頻発します。

フィルタリングによるノイズ除去の実例

・ 絞り込み(ROI設定)で対象エリアのみ解析し、背景ノイズを抑制
・ 連写・合成撮影により搬送ブレを低減
・ 適切な平滑化フィルタの活用でザラツキ・色むら解消
・ メディアンフィルタにより粉体や繊維状の異物を削減
・ 非線形変換(ガンマ補正など)でコントラストを補正

現場で失敗しないためには、ただシステム導入に頼るだけでなく、「カメラ、照明、フィルタ、ソフト」の総合チューニングが必須です。

近年は、ディープラーニングも活用されつつありますが、前処理(フィルタリング・ノイズ除去)の品質がAI活用の土台となることは変わりません。

欠陥検出への応用:どこまで自動化できるのか

画像処理が最も力を発揮するのは、欠陥検出工程です。

従来、人による目視検査だった部分を自動化することで、より高い精度と再現性を実現し、不良流出や工数負担の大幅削減につながります。

実践現場での応用例

– 打痕、傷、異物、変色などの外観不良検出
– 射出成型品やプレス品のバリ、寸法異常の判定
– 切断面や溶接部の欠損、溶込み不良検出
– 印字、ラベルズレ、QRコードの読み取り・判定

製造現場のリアルな苦労として、「良品と不良品の差が分かりにくい」「『人の勘』はAI化しにくい」ことがよくあります。

例えば微細な傷やうっすらとした異物、色ムラなど、人間の感覚でしか分からなかった“曖昧な部分”も高度なフィルタリングやAI判定モデルで抜け漏れなくカバーできる時代になっています。

画像処理による欠陥検出の成功事例

某自動車部品サプライヤーでは、従来は3人がかりだった外観検査工程を、画像処理システムの導入で1名体制に。

打痕や異物付着などの重大不良流出が激減し、得意先からのクレームも減少しました。

さらにデータの記録が容易になり、トレーサビリティや不具合解析にも役立っています。

導入時に特に重要だったのは、「現場で発生しやすいノイズやバラつき」を事前に洗い出し、フィルタリングやカメラの条件設定を入念に行ったことです。

昭和的アナログ現場の課題と、画像処理導入の落とし穴

ここまで画像処理のメリットを述べてきましたが、現場目線では「楽観視できない課題」もあります。

人とシステムのギャップ

「人なら当たり前にできる曖昧な基準」をデジタル化する際、どうしてもAIや画像処理モデルとの“溝”が生まれやすいです。

また、現場熟練者が長年の経験で染み付かせた「暗黙知」が、画像処理システム導入時の「壁」になることも多々あります。

このギャップを埋めるには、普段から現場との対話を重ね、「なぜ今までこの基準なのか?」を深掘りしながら、システムの閾値設定やフィルタ調整を繰り返す“共創”の姿勢が不可欠です。

過剰品質や“やりすぎフィルタ”の危険性

また、画像処理やAIを過信しすぎて「完璧すぎる品質」を求めすぎてしまう現象も起こりがちです。

やみくもにノイズを消しすぎたり、欠陥検出レベルを上げすぎると、今度は良品までNG判定になってしまいます。

適切なレベルのフィルタリングと判定しきい値設定が、現場の生産性・歩留まり維持には不可欠です。

サプライヤー/バイヤー視点で押さえるべき画像処理のポイント

調達購買、品質保証、現場管理者など、立場ごとに画像処理導入時の視点は異なります。

バイヤー/調達担当が重視すべき点

・ 設備導入だけでなく「運用・維持のしやすさ」を重視する
・ スペック上の性能と、実際の現場再現性の違いを見極める
・ 保守サポートや現場教育体制も含めて検討する
・ ノイズやバラつきに柔軟なシステム仕様の確認

納入先企業から「厳しい外観基準」を要求されることが増えており、サプライヤーとしては自社の画像処理システムがどこまで適応できるか、現場での検証や打ち合わせが重要です。

現場と経営層の“温度差”に対する心構え

経営層が「画像処理=魔法の杖」と考えがちですが、現場では「本当に歩留まり維持できるの?」という素朴な不安が根強いです。

この温度差を埋めるためには、現場視点から小さく始め、成功事例を積み上げて全社展開に繋げる“地道な一歩”が肝心といえます。

まとめ:新しい時代の製造業に必要な画像処理活用とは

画像処理・フィルタリング技術は、昭和型のアナログ現場からデジタルファクトリーへと進化する製造業に不可欠な基盤です。

しかし、自動化・DX化の“失敗パターン”も多い現実を踏まえ、現場で使える実践的なノウハウを積極的に学び、現場×技術者×バイヤーが壁を越えて連携することが、真の競争力強化への第一歩となります。

画像処理は、単なるITでも機械でもありません。

日本のものづくりが培ってきた「現場力」と「テクノロジー」の橋渡しをする――これこそが、今後の製造業を大きく飛躍させるカギなのです。

ぜひ目の前の現場から、「使いこなせる画像処理システム」を目指して、一歩を踏み出してください。

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