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潤滑技術の基礎と潤滑剤の最適選定およびトラブル対策

目次
はじめに:製造業の根幹を支える「潤滑技術」とは
製造業の現場では、生産効率や品質の向上はもちろん、安全運転や設備寿命の延命など、あらゆる面で「潤滑技術」が重要な役割を果たしています。
意外かもしれませんが、潤滑技術はどの時代も工場の心臓ともいえる存在です。
昭和のアナログ生産が主流だった時代から、最先端のIoT・スマートファクトリー化が進む現代まで、設備・機械の稼働トラブルの多くが「潤滑」の適正化で防げることを、現場経験のある私たちは知っています。
この記事では、潤滑の基本原理から潤滑剤の選定、トラブル対策まで、現場目線と最新トレンドの双方を交えて、実践的かつ読みやすく解説します。
潤滑技術の基礎:なぜ「摩擦」と「磨耗」を制すべきなのか
潤滑の三大目的
潤滑技術の目的は大きく次の三つです。
・摩擦低減
・摩耗防止
・機械寿命の延長
金属同士が直接すれ合えば、膨大な摩擦と熱が発生し、やがて激しく摩耗します。
使用条件に適した潤滑剤を適切な方法で供給することにより、部品と部品の直接接触を緩和し、スムーズな摺動を実現します。
摩擦のタイプに応じた潤滑の考え方
摩擦には大きく分けて以下3種類があります。
1. 固体摩擦(ドライ摩擦)
2. 境界潤滑(潤滑油膜が薄く金属接触を伴う状態)
3. 流体潤滑(潤滑剤が完全に金属部品を分離)
現場で多いトラブルの一つが、「理論上は流体潤滑だけど、実際は境界潤滑状態に陥りがち」というパターンです。
この「油膜切れ」や「部分的な金属接触」が、トラブルや早期摩耗の目立つ原因です。
潤滑剤の種類と特徴:油かグリースか、特殊潤滑剤か
基本となる潤滑油(オイル)
潤滑用のオイルは、流体潤滑を期待する一般的な設備(ギア、ベアリング、油圧機器など)で幅広く活用されます。
オイルには鉱油系、合成油系、バイオ系など多様な種類があり、粘度や添加剤によって現場ニーズに細かく対応しています。
例えば、高温環境や重負荷には、粘度が高く耐酸化性の強いものを選定するのがポイントです。
グリース(潤滑脂)の実力
グリースはオイルを増ちょう剤で固めたものです。
回転速度が比較的低く、給油の手間を減らしたい箇所や密封性が求められる箇所で重宝します。
ただし、高温下では分離や変質が起こりやすい点や、使い回しによる汚染リスクがあるため、定期管理と現場観察が重要です。
時代は進む「特殊潤滑剤」
最近では固体潤滑剤(モリブデン、PTFE、グラファイトなど)、環境配慮型潤滑剤、ドライタイプのコーティング剤も注目されています。
高負荷や極端な温度環境、無給油化が求められる工程では、従来の油やグリースでは対処しきれない場面が増えているのです。
このように新素材や新技術への柔軟な更新が、コストダウンや環境対策にも大きく貢献しています。
潤滑剤の最適選定:現場が見落としがちなポイント
選定で重視すべき7大チェックポイント
1. 設備の稼働条件(速度、荷重、温度等)
2. 使用環境(高温・低温、多湿、粉塵、薬品雰囲気など)
3. 給油・交換サイクル
4. 周辺部材への影響(ゴム・樹脂等の劣化)
5. 安全・衛生(食品、医薬品用途等)
6. 環境負荷(廃油処理、揮発性、SDGs対応)
7. コスト(初期費用・ランニングコスト)
現場では「とりあえず今使っているものをそのまま使う」「メーカー専用品に頼りがち」といった“思考停止”が起こりがちです。
しかし、設備の老朽化や生産条件の変化、時代(規制や環境配慮)の変化に合わせて、定期的な最適化が必要です。
メーカー任せにしない“現場主導”の選定がトラブルを減らす
「どの潤滑剤使えばいいか」は必ずしも机上のカタログだけでは決まりません。
一番大切なのは、現場設備が目指すパフォーマンス値と安全性、交換作業性までをトータルで見極めたうえで、メーカーと協力して最適な提案をもらうことです。
潤滑油メーカー各社の「無償現場診断サービス」や「油解析サポート」を積極活用するのもひとつの手段です。
現場でありがちな潤滑トラブル事例と実践的対策
事例1:油膜切れによる早期ベアリング焼き付き
ベアリングの焼き付きは、油膜不足(油量不足、粘度不足、高温等)が圧倒的な原因です。
現場では「給油量の自己流調整」や「オイル劣化の見逃し」に注意しましょう。
対策は、
・推奨粘度と交換サイクルを厳守
・自動給油装置の導入や給油管理の可視化
・目視確認+温度モニタリング
が有効です。
事例2:潤滑剤の混用による性能ダウン
グリースや潤滑油は“絶対に混ざってはいけない”ものも多いです。
異なる増ちょう剤やベースオイルが反応し、逆に潤滑性低下や固化・分離のリスクを招きます。
複数の設備やラインがある場合、潤滑剤管理の「統一」と「ラベル表示」「作業員教育」を徹底しましょう。
事例3:過剰な潤滑が逆にトラブルを誘発
「潤滑は多ければ多いほど良い」は大きな誤解です。
例えば封入タイプのベアリングで過剰グリースを加えると、攪拌抵抗増・温度上昇・寿命低下を誘発します。
適量給油はメーカー仕様書とメンテナンスマニュアルで再確認し、作業員教育までセットで行うことが大切です。
製造現場での潤滑トラブル「あるある」への抜本対策
潤滑の「見える化」を導入する
昭和時代は“職人の勘”が重要でしたが、現代はデジタル技術の力も活用できます。
例:
・遠隔温度センサーによる異常検知
・給油インターバルの自動管理
・油分析データで劣化度を判定
こうした「状態監視」を取り入れ、トラブルの兆候を事前に察知できる体制づくりが重要です。
対話と改善サイクルを現場レベルで回す
トラブル事例の共有や改善案の提案は、現場チームが自発的にできるように仕組み化しましょう。
例えば
・KYT(危険予知訓練)に潤滑管理を組み込む
・ヒヤリ・ハット事例として記録運用
・メーカー営業や技術(外部アドバイス)を活用
このような現場力こそ、結果的にムダなコストや設備トラブルを減らします。
最新トレンド:カーボンニュートラル・SDGs時代の潤滑技術
現代の製造業は、単なるコスト・生産効率だけではなく、環境対応(サステナビリティ)がますます重視されています。
バイオ系潤滑油や生分解性グリースの活用、VOCフリー、再生油のリユースといった最新動向は、バイヤー・サプライヤーともに選定プロセスで意識するポイントになっています。
SDGsを意識した情報発信や認証取得(Ecolabel等)は、企業の信用向上や顧客関係強化、不良削減・省エネにも直結します。
バイヤー・サプライヤー協業の要:潤滑技術から生産性革命を起こす
「潤滑剤なんて消耗品の一つ」として考えるか、「設備資産のコアテクノロジー」として位置づけるかは、生産現場やバイヤーの成長姿勢に大きな差を生みます。
バイヤーとしては、カタログスペックや単価だけでなく、トータルコスト(設備寿命、ダウンタイム、交換手間)、サプライヤーの技術サポート、持続可能性を検討材料とすべきです。
サプライヤー側も、単なる「売り込み」ではなく、現場に寄り添った改善提案力・トラブル解決力で信頼を勝ち取りましょう。
まとめ:知っているだけで差がつく「潤滑技術」の真価
製造業において「潤滑技術」は、一見地味ですが現場を支える縁の下の力持ちです。
基礎理論を押さえ、現場観察の徹底、最適な潤滑剤の選定と適正給油、トラブル対策の仕組み化を積み重ねることで、生産性・利益・社会貢献まで大きく前進できます。
今後も設備の変化に応じて「現場起点で考える、挑戦姿勢を持つ」ことが、昭和から令和、そして次世代のものづくり現場を力強く進化させていくのです。
読者のみなさまの現場での潤滑技術活用が、より多くの価値創造と業界発展につながることを願っています。
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