投稿日:2025年6月24日

機械材料の基礎と適切な選定および機械設計への活かし方

はじめに:機械材料選定の重要性とは

製造業、特に機械設計の現場において「材料選定」は、製品の寿命やコストパフォーマンス、加工のしやすさ、さらには信頼性を大きく左右する最重要工程の一つです。

現場では往々にして「いつもの鋼材で」「アルミでいけるだろう」と慣習的に材料が決まってしまいがちですが、グローバル競争・顧客要求の高度化、そしてサプライチェーンの多様化が進む中、材料選定のノウハウはまさに製造業の競争力そのものといっても過言ではありません。

本記事では、機械材料の基礎知識を整理するとともに「どのように適材適所で材料を選ぶべきか」、そして「設計にどう活かすか」という“ラテラルな視点”でお伝えします。

機械材料の種類と特徴:まずは基礎を押さえる

鉄鋼材料(鋼・鋳鉄)のメリットと落とし穴

鉄鋼材料はその高い強度と加工性、コスト面、そして汎用性から、機械材料の王道です。

炭素鋼、合金鋼、ステンレス鋼など種類も豊富で、部品やフレームなど幅広い応用が可能です。

一方で、重量が重い、腐食に弱い(一部のステンレス鋼を除く)、熱処理をうまく行わないと所望の強度が出ない等、設計時・運用時の制約も多くあります。

特に昭和からの慣習で「とりあえずS45C」といった思考停止は危険であり、ニューテクノロジーやグリーン調達の観点からも見直しが求められています。

非鉄金属(アルミ・銅・チタンなど)の台頭

アルミニウムは軽量かつ加工が容易で、耐食性にも優れています。

一方で、鉄鋼に比べ熱膨張率が大きく、接合や摩耗の観点で注意が必要です。

銅は導電性・熱伝導性に優れており、電気機器や冷却部材で活躍しますが、コストが高く、機械的強度が低めです。

また、航空宇宙や医療機器では、チタン合金の高強度・軽量・耐食性という特性が注目されていますが、加工難度が高くコストインパクトも小さくありません。

樹脂・複合材料の進化と設計自由度

樹脂(プラスチック)材料は、近年の材料技術革新により高強度・耐熱性・寸法安定性・摺動特性を飛躍的に向上させています。

POM・PEEK・PPS・PTFEなどのエンプラやスーパーエンプラは、ギア・軸受・電気絶縁部品などの金属代替用途で採用事例が増加中です。

さらにCFRP、GFRPといった複合材料は、軽量化と高強度を両立させ、デザイン自由度を大きく広げる存在です。

ただし、コスト・リサイクル対応・耐衝撃性など、従来材料とは異なる課題も持ち合わせています。

機械材料の選定プロセスの実務的な手順

Step1:要求仕様を明文化する

「何をつくるか」「どこで使うか」「どの程度の寿命を期待するか」「どんな環境下か」「どの程度のコスト上限か」

この最初のステップで仕様要件を書き出すことが、選定失敗を防ぐ最大のポイントです。

設計者だけでなく調達担当・製造現場・品質管理・場合によっては営業や顧客との連携も重要です。

昭和的現場では「なんとなく」進むことが多い部分ですが、失敗事例の多くがこのヒアリング不足、認識齟齬に起因しています。

Step2:候補材料の特性評価と調査

カタログ値だけに頼らず、サプライヤーが持つ生データ、場合によっては過去の不具合データ、既存部品の実績値まで掘り下げて比較検討します。

機械的特性(引張強度・降伏点・硬度等)、熱特性、耐食性、摩耗抵抗、電気特性、環境負荷、調達安定性など多角的視点が欠かせません。

また、昨今はRoHSやREACHといった規制対応、LCA(ライフサイクルアセスメント)の観点もバイヤーには求められています。

Step3:加工性・コスト・納期・量産性までも見極める

いかに魅力的な材料でも、加工できなければ意味がありません。

自社設備でNCやプレス対応が可能か、試作や量産時の安定調達が確保できるか、小ロットでも歩留まり高く生産可能か、など「ものづくり目線」の冷静な検証を行いましょう。

また、材料費単体でなく部品化までの総コスト(加工費、余剰在庫、歩留まり不良、2次加工や表面処理コストなど)が最終的な決定打となります。

最新の業界動向:アナログ慣習からの脱却がカギ

デジタルマテリアルデータベースの活用

近年では、材料メーカーやサプライヤーのデータベースが大幅に拡充され、CAD/CAEと連携してシミュレーションベースで材料選定を進める流れが拡大しています。

従来の「前任者ノート」「現場勘」に頼るやり方から、根拠ある“みえる化”へ大きく舵が切られているのです。

これにより、設計変更時や新材料採用時のリスク低減、R&Dスピードの向上が期待できます。

リサイクル・カーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーの潮流

環境規制の強化・ESG投資の拡大により、材料そのもののサステナビリティ(再生材の活用、省資源化、CO2排出削減インパクト等)が調達購買の評価軸となりつつあります。

国産材料調達化やサプライチェーン途絶リスク対策を目的に、複数代替材料を確保(マルチソーシング方針)する企業も増えています。

バイヤーとしては、材料サプライヤーに「製造証明書」「原産地証明」「含有化学物質データ」などの提出を求め、リスク把握や迅速なトラブル対応が今後ますます重要になってきます。

設計にどう落とし込むか:現場で意識すべきポイント

最適化設計(コスト・性能・環境の三位一体)

昨今の日本・世界のモノづくり現場で問われるのは、単純な強度の追求だけでなく「いかにコスト・性能・環境配慮を最適バランスにおさめるか」ということです。

単なる材料変更だけでなく、部品設計そのものを見直し「共用化・内作化・モジュール化」でコストダウンや在庫削減を図るのも有効です。

また、材料歩留まり工夫、材料削減設計(トポロジー最適化を活用した軽量化設計)、“無駄な”表面処理排除も見直しポイントです。

流用設計・共通化で材料選定効率を上げる

できるだけ既存生産ラインで使われている材料や部品を流用・共通化できれば、調達購買の負荷低減や生産性、納期短縮につながります。

特に人手不足や多品種少量生産が常態化する現代では、部品点数削減や材料種類の統一による在庫一元化、自動発注システムとの親和性を高めることが現場のカイゼンの出発点となります。

バイヤー・サプライヤーそれぞれの視点

バイヤーが重視すべき観点

バイヤーとしては、メーカーの設計意図を丁寧にくみ取る“通訳者”としての役割が求められます。

単なるコストカットではなく、サプライチェーン全体のリスク・サステナビリティ・安定供給・トレーサビリティまで視野に入れ、

「品質・納期・環境・コスト」の4軸でサプライヤーと日々対話していくことが、次世代のスマート調達への第一歩です。

サプライヤーが知りたいバイヤーの考え

サプライヤーにとっては、バイヤーがなぜその材料スペック・納期・価格を求めるのか、背景にある設計思想や顧客要求、納入実績からくるリスク管理志向をくみ取ることが受注拡大のカギです。

ときには材料メーカー・加工会社・物流業者が一体で提案型アプローチをとり、バイヤーの困りごと(短納期・在庫削減・品質データ・グリーン調達対応等)を先回り提案することで、“下請”から“共創パートナー”への脱皮が可能となります。

まとめ:製造業の未来を支える材料選定力

機械材料の知識と正しい選定力は、工場の現場力を高め、企業競争力の原点となります。

アナログな業界慣習に甘えず、「どうしてその材料なのか、今後もそれでいいのか」を問い続ける姿勢こそが、

変化激しいグローバル製造業を生き抜く大きな武器になるのです。

これから材料知識を磨きたい方、バイヤーとしてもう一段成長したい方、サプライヤーとして現場目線で提案力を強化したい方へ、

ぜひ本記事を参考に、新たなマテリアル調達・設計革新の道を切り拓いてください。

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