投稿日:2025年6月16日

材料力学材料工学の基礎と強度設計への活かし方

はじめに

材料力学や材料工学は、製造業に携わる全ての人にとって基本中の基本です。
特に製品の「強度設計」と直結してくるため、設計者に限らず調達購買や生産管理、品質管理部門にいる方にも必須の知識と言えます。
一方で、昭和時代から続くアナログな現場では、“なんとなくの経験値”で片付けられることも多く、体系的な知識が現場全体に浸透しているとは言い難いのが現状です。
この記事では、現場の目線から材料力学と材料工学の基礎を整理し、それをどのように製品の強度設計に活かしていけるのか、実践的かつ新しい視点で解説します。

材料力学の基礎とは

材料力学とは何か

材料力学は、文字通り「材料(マテリアル)」に「力(フォース)」が加わったとき、どのように変形・破壊するかを解析する学問です。
具体的には、引張り、圧縮、せん断、曲げ、ねじりといった、現場でよく遭遇する様々な外力に、部品や構造物がどう応えるかを数式や理論で導き出します。
これを理解していることは、単純な『壊れにくいモノ』を作るだけでなく、『最適なコスト』『最適な材料選定』といった、実務での競争力にも直結します。

重要な基本用語

– 応力(ストレス):材料が外力を受けた時、単位面積あたりに発生する内部抵抗力
– ひずみ(ストレイン):外力による材料の伸び縮みの度合い
– ヤング率:材料の弾性(元に戻る性質)の尺度
– 耐力・降伏点・破断強さ:どこまで力を加えたら変形や破壊が起きるかを示す指標

現場では、これらの基礎用語が図面や仕様書、試験成績書などに頻繁に出てきます。
数字だけで流すのではなく、“なぜこの数値になっているのか”という裏側に目を向けることが重要です。

材料工学の基礎とは

材料工学とは何か

材料工学は、金属、プラスチック、セラミックス、複合材料など、ありとあらゆる「材料」の特性を研究し、製品や部品に最適な材料を選定・加工・改良していく学問です。
「材料力学」が力との関係を重視するのに対し、「材料工学」はその材料自体の成り立ち・微細構造・物理化学的性質などの知見から最適解を探ります。

材料工学で押さえるべき視点

– 材料の種類別特徴(金属、樹脂、セラミックス、複合材、アロイ、スマートマテリアル)
– 組織や結晶構造と強度・靱性・脆性との関係
– 熱処理、加工条件による材料特性の変化
– 耐食性や加工性、調達コスト等の実務的観点

現場でありがちなのは「今まで使っていた材料だから」「この材料は調達しやすいから」といった保守的な理由で材料決定がされてしまうケースです。
こうした固定観念から一歩踏み出すためにも、材料工学の基礎を日常業務の中で振り返る姿勢が不可欠です。

強度設計と現場のギャップ

なぜ強度設計が重要か

強度設計とは、製品や構造物が所定の負荷条件下で安全かつ効率的に機能するように、その寸法、形状、材料、加工方法をトータルで決定する設計プロセスです。
「安全側に倒しておく」「壊れなければOK」といった感覚的な判断がいまだに根強い現場も多いですが、過剰設計はコスト高、重量増、調達困難、工数増加など現代的な競争力の低下につながります。
逆に、強度不足によるクレームや重大事故のリスクも常に意識しなければなりません。

現場でよくある“昭和的強度設計”の例

– 過剰な補強リブ追加や肉厚増し → 無駄なコスト・重量増加
– 一律で大きな安全率の設定 → 材料コスト・納期圧迫
– 製品不具合が出た時、“感覚”で手直し(原因本質の未解決)
– 部門ごとの縦割りで情報断絶:設計、調達、生産現場がバラバラに判断

こうしたアナログな強度設計から抜け出し、理論立った材料選定や合理的な設計変更の基準を現場に根付かせるためには、材料力学・材料工学の基礎が欠かせないのです。

材料力学と材料工学を強度設計に活かす実践的アプローチ

合理的な安全率の設定

材料力学の理論値に、材料工学的な実際のばらつき(ロットごとの強度差、加工時の影響、取引先品質のばらつき等)を現実的に加味して、安全率を算出します。
部品ごとの使用条件別に「求めたい性能(使用荷重、繰り返し回数、環境温度等)」と「許容されるコスト・重量」をバランスさせましょう。
これにより、条件ごとに適切な材料や形状を選定し、必要以上の余裕を持ちすぎない設計が可能です。

材料選定の“ラテラル”な発想

材料工学の知見から見直すと、意外と知られていない代替材料や新しい加工技術を採用するチャンスが存在します。
たとえば、鋼材ひとつ取っても、HSLA(高張力鋼板)、析出強化系、焼結材など、従来材料よりも軽量で同等以上の強度を発揮するものもあります。
樹脂も多種類あり、ガラス繊維強化、エンプラ、PBT、PPSなど特性を理解して使い分けることで、強度・耐熱性・量産コストの最適解が生まれます。
従来の「これは鉄・これはアルミ・これは汎用樹脂」のような固定観念から脱し、サプライヤーや最新技術情報を積極的に活用する姿勢がこれからのバイヤー・設計者には求められます。

サプライヤー・バイヤー間の情報共有の強化

必要な強度や材料特性について、サプライヤーとバイヤーの間で“なぜこの仕様になっているのか”“なぜこの材料/加工条件じゃないといけないのか”まで本質に踏み込んだ対話が重要です。
単なる「図面通りにつくる」から「設計意図を共有し、最適な提案を持ち込む」現場力が会社の競争力となります。
サプライヤー側の立場からは、設計思想や用途・実際の使用環境まで理解することで、より合理的な材料提案や工程簡素化に繋がります。

昭和からの脱却とDX活用の可能性

昭和的な「経験と勘」だけに頼る強度設計は、現代の複雑な製品開発や多品種少量生産には限界が見えています。
ここ数年で加速しているDX(デジタルトランスフォーメーション)やシミュレーション技術の活用は大きな鍵になります。

CAEシミュレーションと現場の知の融合

設計段階でCAE(コンピュータ支援工学)解析を活用した検証が進んでいます。
現場のノウハウとCAEによるフィードバックを双方向で学習し続けることが、「根拠のある強度設計」を短期間・低コストで実現する武器となります。
「解析は設計者用」「現場は現場の感覚で」といった分断を避け、工場長や現場リーダーがCAE結果に基づく改善提案を推進することが、DX下の製造業に不可欠です。

人材育成と現場知の伝承

材料力学・材料工学の知識は一朝一夕に定着するものではありません。
座学だけでなく、現場のトラブルや変更対応を通じて「なぜこの設計になっているのか」「なぜこの材料選定なのか」を徹底的に掘り下げる教育が効果的です。
OJT、社内勉強会、設計変更事例の水平展開などを組み合わせ、若手だけでなく調達、品質、現場監督者まで全員で“実践知”を蓄積していきましょう。

まとめ:未来の製造業を支える「材料力学・材料工学」

材料力学・材料工学の基礎は、すべての設計・調達・製造・品質業務の土台です。
製造現場こそ「なぜこうなっているのか?」と立ち止まり、データや知見の積み重ねと業務改善をラテラル(水平的・多面的)に進めていくべき時代です。
昭和時代の「経験と勘+指示待ち」から、「根拠に基づく現場力+自律的な提案」へと一歩踏み出しましょう。
強度設計の進化は製造業そのものの進化、そしてバイヤーやサプライヤー、品質部門などすべての現場社員のキャリアアップ・価値向上につながります。
今こそ、材料力学・材料工学の活用で“新しい製造業の地平”を共に開拓しましょう。

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