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ミキシング技術の基礎とスケールアップへの応用およびトラブル防止のポイント

目次
はじめに:ミキシング技術の重要性
ミキシングは、製造業の多彩な工程で不可欠な基礎技術です。
化学・食品・医薬品・化粧品など幅広い業界で原材料を均一に混ぜ合わせ、極めて高い品質要求に応じるために進化してきました。
私が20年以上にわたって現場で培った経験から申し上げますと、「混ぜる」という単純な行為の裏に、思いのほか緻密な理論と実践知が存在しています。
現場の課題解決や、スケールアップ時の落とし穴、トラブルの原因究明に悩む方々へ、実際に役立つノウハウと考え方をお伝えします。
ミキシング技術の基礎
1. ミキシングの役割:なぜ混ぜるのか
ミキシングの目的は主に以下の3点に集約されます。
- 配合原料を均一に分散・混和する(均質化)
- 化学反応や物理変化を促進する
- 品質バラツキを最小化し、歩留まりやコストダウンにつなげる
混ざらないことで生産ロスやトラブルが多発する現場を、私は何度も目にしてきました。
例えば、微粒子と液体の分散不良は、ダマや分離、色ムラ、沈降といった品質劣化につながります。
2. 「ミキサー」の種類と選び方
ミキシングに用いる機器は大きく「バッチ型」と「連続型」に分かれます。
・バッチ型:処方ごとに材料を投入→所定時間攪拌→排出。多品種少量、品質重視の製造に強み。
・連続型:材料が常時流入・流出。大量生産向け、省人化にも有効。
さらに、機械式攪拌機(プロペラ、パドル)、高速剪断ミキサー、ホモジナイザー、静的ミキサーなど多種多様。
現場の製品特性(粘度、粒径、希望する分散レベル)に応じて、「何を・どの程度・どの仕上がりで混ぜたいか」を的確に見極める必要があります。
3. ミキシング性能の指標
ミキシングの良否を判断する指標はいくつかあります。
・混合均一度(分散指数、標準偏差)
・混合時間(所望均一度に達するまでの時間)
・スケール(仕込量、大きさ)
現場では「仕上がり」を目視や検査値で評価する場合が多いですが、本来は科学的な指標によって再現性を追求することが大切です。
スケールアップの課題と対応策
1. スケールアップで何が変わるのか
研究所やラボスケールでうまくいった処方を量産・工場ラインへそのまま横展開してもうまくいかない——これは現場あるあるの代表的な問題です。
なぜなら、スケールアップすると幾つもの変数が「非線形」に増幅・変化するからです。
たとえば
- 撹拌槽の大きさに伴う流動パターンの変化
- 動力(kW)や周速、混合状態の違い
- 温度制御や原料投入スピード
- 上下/壁際でのデッドスペース出現
これらは現場で「現象論」だけでは対処できません。
2. 実際のスケールアップ事例から学ぶ
私自身が遭遇した典型的なスケールアップ失敗例は、試験装置と比べて数十倍の大型ミキサーではダマが全然崩れなかった、分散が極めて悪化し品質不良が多発した、といったケースです。
これは混合作用のメカニズム(乱流・層流・せん断応力・循環流)が、単純な時間や回転数換算では移し替えできないためです。
そのため、
- 「混合則(Scale-up Rule)」の活用
- 動力数(P/V=撹拌動力/容量)の維持
- 周速一定(プロペラの回転数×半径)での比較
- 類似流動状態のモデル試験
など複数のアプローチを組み合わせることが重要です。
本質的には、「実機テスト」と「データ解析(オフライン分析やプロセスモニタリング)」は切り離せないセットとして導入しましょう。
3. 品質保証と現場作業標準の構築
スケールアップ時、「誰が・どう操作しても同じ結果」を出すには作業標準の徹底が欠かせません。
例えば
- 原料投入順・速度・温度との相関マニュアル化
- ミキサー運転条件のバラツキ分析
- 異常検知(振動・音・流量・トルク監視)の実装
職人ノウハウ頼みの属人的な運転を脱却し、データ主導によるプロセス制御や自動連携(IoT化・データロガー活用)が今後一層重要視されます。
ミキシング現場でのトラブル防止のポイント
1. 発生しやすいトラブルと予防の知恵
ミキシング工程の主なトラブルは以下の通りです。
- 分散不足による品質ムラ・沈降・ダマ形成
- 撹拌翼やシャフトの折損・摩耗
- 運転条件の設定ミスからのプロセス逸脱
- 異物混入・クリーニング不良
現場目線での有効な対策は「チェックリスト運用」と「工程異常の早期発見」につきます。
特に分散系の製品(スラリーやエマルジョン)は、工程内でのサンプル採取・粘度・粒径測定など簡易検査も習慣化しましょう。
2. 伝承・教育面と現場のデジタル化
ミキシング熟練者の技能伝承は、昭和の時代から変わらず「見て覚える」が主流でした。
しかし今日ではデジタル技術による工程診断や、異常値を自動記録するシステムの導入が進んでいます。
音・振動・温度・トルクなど多角的なセンシング情報をもとに、定量的に現象を捉え、異常時のアラートを即座に現場へ伝えられる仕組みづくりが求められます。
「人の判断」と「自動モニタリング」を融合させる現場こそ、今後の日本製造業の競争力の原点となるでしょう。
バイヤー・サプライヤーの立場から考える
1. バイヤー目線でのミキサー・設備選定ポイント
バイヤーがミキサーやミキシング設備を導入検討する際、製品スペックやカタログ値だけでなく、「現場でどう使われるか」「実際にどの作業者が扱うか」といったリアリティに目を向けることが重要です。
また「仕様書どおり」でなく、「現場と設備メーカーの対話」から納入後のトラブル対応・メンテナンス性・消耗部品供給などの付帯条件も必ず確認しましょう。
2. サプライヤーが知るべきバイヤーの真のニーズ
サプライヤーに求められるのは、単なる製品供給だけではありません。
「この装置で実際にどんな課題解決ができ、どう現場の困りごとを減らせるか?」
バイヤーとの共創意識を持ち、現場ヒアリングやデモ運転提案、現地立ち合いサポートを積極的に打ち出すことで、長期的な信頼関係構築につながります。
昭和型の「売り切り御免」から、「使い手視点に寄り添ったパートナー」へ転換する絶好の機会です。
業界動向と今後の展望
1. デジタル技術の浸透と自動化
IoT・AI・データ解析を中心とした工場自動化の潮流は、ミキシングにも着実に入り込んできています。
自動投入システムやオンライン粒径計測、工程全体のトレーサビリティ管理など、手間や人材依存リスクが大きく減少しつつあります。
2. 脱アナログへ:人とテクノロジーの融合現場へ
とはいえ、現場にはまだまだ「経験・勘」が生きる工程や、微妙な仕上がりニュアンスが重視される製品も多く残っています。
これからの時代は、「人」と「デジタル」の両輪で、工程品質と現場力の最大化を目指していくことが業界全体の進化に必要不可欠です。
まとめ:現場の知恵と技術の融合が未来を作る
ミキシング技術は、単なる「混ぜる」という作業を超え、製品品質・安定供給・効率的な工場運営を支える土台です。
スケールアップ時の科学的アプローチ、トラブル防止の現場力、バイヤーとサプライヤーの信頼形成、さらに現場ノウハウとデジタルの融合。
これらすべてが、昭和から令和へと続く”ものづくり現場力”を維持・発展させる鍵となります。
これから製造業を目指す若い人、現場の課題に本気で取り組む方、そして業界に新たな価値を届けたい方に、この現場目線の知識と実践的ノウハウが生きることを願っています。
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