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モーションコントロールの基礎と基盤技術触覚現象を再現するハプティクス製品開発への応用例

目次
モーションコントロールとは何か――産業現場の“動き”を制御する基礎技術
モーションコントロールは、言葉としては耳慣れないかもしれませんが、製造業の現場では非常に重要な技術です。
これは、機械や装置の「動き」、つまりモーターやアクチュエータを高精度に制御し、所定の動きを正確に実現するための技術群を指します。
従来の産業分野では、ロボットアーム、組み立てライン、物流コンベア、自動加工機など、多岐にわたる機械装置の運転・制御が必要不可欠です。
これらの現場で不可欠なのが「モーションコントロール」です。
現代のデジタル制御技術によって、制御精度や生産性の向上、省人化や安全性向上といった多くのメリットが生じています。
本記事では、そんなモーションコントロールの基礎や、欠かせない基盤技術について解説し、さらに昨今注目される「触覚現象を再現するハプティクス製品開発」への応用事例について、20年以上現場に身を置いた筆者の目線から、深く掘り下げていきます。
産業現場におけるモーションコントロールの重要性
昭和から続くアナログ制御の壁
日本の製造業は、これまで多くの現場がアナログ的な制御、熟練工による手作業や経験則に大きく依存してきました。
制御盤のダイヤルを手で回し、計器を見ながら微調整。
こうした「職人技」が、高品質なものづくりを支えてきたことも事実です。
しかし、こうした方法は再現性やデータ取得に乏しく、拡張性や省人化には限界があります。
この“昭和の現場”から脱却し、「動き」をデジタルで正確に制御・管理する必要性が年々高まっています。
モーションコントロールの現場的な効能
1. 高精度な位置決めと速度制御
2. 多軸協調制御による複雑動作の実現
3. 製品ごとの個別対応(生産の多品種少量化)
4. 作業の自動化による省力化と人為ミスの削減
5. データ収集によるトレーサビリティの向上
これらは、単に「機械を動かす」だけでなく、「現場の生産性や付加価値を飛躍的に高める」土台となります。
今、多くの製造業が“動き”の最適制御なくして未来は描けない時代になっています。
モーションコントロールの基礎要素――何が「動き」を操るのか
モーションコントロールを支えている基盤技術には、以下の要素があります。
1. センサー技術
位置、速度、加速度、角度、力、温度といった物理量を高精度で計測するのが不可欠です。
リニアエンコーダやロータリエンコーダといった位置センサ、ロードセルやトルクセンサといった力覚センサが現場を支えています。
こうしたデータがフィードバックされてこそ、狙い通りの動きが実現します。
2. アクチュエータ(モーター・油圧・空圧)
実際に機械を動かすアクチュエータも多様化しています。
主流はサーボモーターですが、目的に応じてステッピングモーター、リニアモーター、近年ではダイレクトドライブ型なども普及。
また、力の制御が重視される場面では油圧や空圧アクチュエータ、圧電素子等も活用されます。
3. コントローラ・FA(ファクトリーオートメーション)機器
PLC(プログラマブルロジックコントローラ)やモーションコントローラーが「中枢」として全体の動きを統括。
多数のサーボをネットワークで繋いで協調制御するのは、今日の工場DXを語る上で不可欠です。
現場の“動きの制御権”は、コントローラが握っていると言っても過言ではありません。
4. ソフトウェア・制御アルゴリズム
上記ハードウェアをつなげ、思い通りの“動きのイメージ”を現実世界に落とし込むのがソフトウェアです。
PID制御、フィードフォワード制御、モデル予測制御(MPC)など、制御理論の進化が現場に寄与しています。
近年ではAI(人工知能)や機械学習を活用した適応制御、ノウハウ継承の自動化も進展しています。
これらの“基盤技術”がモーションコントロールの実現を支えてきたのです。
触覚現象を再現する「ハプティクス」とは――五感を拡張する新潮流
私たち人間の「触る」という感覚は、生産現場でも不可欠です。
部品の組み付け、検査、搬送など、多くの作業が「触覚」に大きく頼っています。
それを“機械でどうやって再現するか”――その挑戦が「ハプティクス」です。
ハプティクス(Haptics)は、英語で「触覚」を意味します。
これを工学技術で再現し、“ものに触れたときの感触”や“圧力”、“滑り感”などを再現・伝達できる技術です。
ディスプレイやVR環境、遠隔操作ロボの世界だけでなく、近年は工場自動化・生産管理の領域でも急速に応用が進んでいます。
ハプティクス技術の仕掛けとは
触覚を人工的に再現する主な手法は、以下のとおりです。
・微細な振動や圧力を指先・皮膚に与えるアクチュエータ
・駆動する素材(例えば、高分子アクチュエータ、圧電素子、電磁石、空気圧など)の精細な制御
・高感度タッチセンサーや圧力センサーによるフィードバック
・AIによる触覚パターンの解析と最適化
これらにより、例えば「つまんだ感触」や「柔らかい素材の押しごたえ」など、人が感じる“リアリティ”の再現が可能になりつつあります。
工場現場への応用が加速する背景
・人手不足の深刻化→技能継承・自動化の必要性
・グローバル化による生産拠点多様化→遠隔操作や遠隔管理のニーズ増大
・高品質・高付加価値製品への対応→繊細な作業の自動化(例:半導体や医療機器など)
これらの課題解決のため、「現場の“触る”技術=ハプティクス」がいま求められているのです。
ハプティクス製品開発への応用例――現場目線で解説
1. ロボットによる組立・検査工程の高度化
従来の産業ロボットは、「決められた動作を、決められた位置で正確に繰返す」ことが求められていました。
しかし、実際の組み立て現場では、微妙なズレや部品の個体差が必ず発生します。
部品を押し込む力が強すぎると破損し、弱すぎると組付けが不完全になる――これは現場なら誰もが経験する“あるある”です。
こうした課題に、ハプティクスセンサを搭載したロボットが大きな役割を果たし始めています。
具体的には、部品同士が触れ合った「微小な力」の変化をセンサで検知し、リアルタイムなフィードバック制御で“人間の手のような”加減をロボットに持たせることができます。
この高度なモーションコントロールと触覚フィードバックの連携によって、高品質な自動組立や繊細な検査工程の自動化が進行しています。
2. VR/ARトレーニングシステムの現場実装
技能の継承や作業標準化という製造現場の課題に対し、VR/AR環境でリアルな“触感”を再現するハプティクストレーニングシステムも注目されています。
たとえば、「ネジの締め付け感覚」や「部品はめ込み時のハマり具合」を、指先のハプティクスデバイスを通じて体験できます。
離れた場所でも現場作業を疑似体験し、熟練工の技術を効率的に伝承できる。
これは新入社員教育や設備導入時の事前訓練など、幅広いシーンに活用が進んでいます。
3. 遠隔作業ロボットへのハプティクス応用
パンデミック以降、「現場に人が行かずに作業できる」遠隔操作ロボットの需要が劇的に増加しました。
ここに欠かせないのが“遠隔地にもリアルな触覚を伝える”ハプティクスです。
例えば、障害物を避ける、繊細な部品をつかむ、液体を扱う――こうした作業を、現場感覚そのままに遠隔地から操作することが可能になっています。
これは医療現場の遠隔手術から、原発など危険環境での作業まで応用範囲が広がっており、製造業でも危険作業の自動化・省人化を支えています。
4. 新素材・新加工技術との融合
従来のモーションコントロールが“位置と速度”中心なら、ハプティクスは“力・感触”の世界へと広げます。
柔らかい材料や微細な部品を扱う新素材の現場では、繊細な“タッチ”を持つ自動機が不可欠です。
これまで不可能だった「ガラスやゴムなど柔軟素材の自動組立」「溶けやすい小部品のピック&プレース作業」など、ハプティクスの力学センサとアクチュエータ制御が“見えない壁”を越えつつあります。
モーションコントロール×ハプティクスの現在地と課題
「人の感覚を機械で再現する」――これは技術的にも極めてチャレンジングなテーマです。
センサの高精度化、応答性とリアルタイム情報伝達、アルゴリズムの最適化、コストや耐久性への対応など、クリアすべきハードルは山積みです。
しかし、仮にすべての部品や作業の「さわり心地」まで含めてデジタル化し、モーションコントロールと融合できた時、現場が抱える「人手不足」「技能伝承」「品質ばらつき」「危険作業」など、多くの課題は一気に解決へ近づきます。
現場では、「ちょっと触ってみないと分からん」「なんとなく違和感がある」といった“暗黙知”が失敗やトラブルを未然に防いできました。
この価値ある「現場の勘」まで可視化し、AIと連携した新しいものづくりの姿が、今まさに幕を開けているのです。
おわりに――現場知×モーションコントロール×未来技術が拓くもの
モーションコントロールは、単なる「機械の動かし方」から、「人・機械・現場の感覚」までを包括する基盤技術へと進化しています。
なかでも触覚=ハプティクスとの融合は、人手不足・技能継承、新製品開発など、日本の製造業の現場課題に直結する注目分野です。
バイヤーとしては、こうした先端技術の動向や、どこまで現場に“フィット”しているか――常に現場目線で情報収集する事が求められます。
サプライヤーとしては、現場のリアルな課題に寄り添う“技術・サービス”をどう実現できるかが、差別化のポイントとなります。
昭和から続く現場の知恵を活かしつつ、新たな基盤技術と人の感性が融合する未来――その最前線を、ぜひ皆さんとともに切り拓いていきたいと思います。
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