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モータの電磁振動・騒音の基礎と具体的な低減対策・実例

目次
はじめに
モータは、現代の産業や日常生活において不可欠な存在となっています。
しかし、多くの現場で課題となり続けているのが、電磁振動・騒音の問題です。
製造ライン、空調機器、自動車分野など、多様な用途で使用されているモータにおいて、振動や騒音の発生は製品の品質や職場環境、さらには顧客満足度に直接影響を及ぼします。
この記事では、電磁振動・騒音の基礎と現場で有効な低減対策、さらには実際の現場での改善事例について、昭和から続くアナログな現場目線を大切にしつつ、実践的に解説します。
これからモータ関連のバイヤーを目指す方、現場で悩む方、サプライヤーとして付加価値を高めたい方のヒントとなることを目指します。
モータの電磁振動・騒音とは何か
基礎から理解する電磁振動の発生メカニズム
モータは電気エネルギーを回転運動に変換する機械です。
ここで重要となるのが、ステータ(固定子)とロータ(回転子)の間に発生する電磁力です。
この電磁力は、主に以下2つの観点から振動や騒音につながります。
1. 電磁力の変動
交流による電磁界を活用するモータは、必然的に時々刻々と電磁力が変動します。
特に、歯(コアの突起部分)に生じる時変荷重や、巻線の配置・巻き数によるコギングトルク(ギクシャクした動き)が主要因です。
2. 高調波成分
理想的な正弦波ではなく、電源や制御方式に由来する高調波(余分な周波数成分)も発生します。
これが機械構造体に共振的な振動を引き起こし、結果として定在波や騒音となって耳に届く形になります。
騒音の種類とヒトへの影響
モータから発生する騒音は、主に以下の3つに分けられます。
– 電磁騒音(コイルやコアが振動して生じる)
– 機械騒音(軸受・ギア・冷却ファンなどの機械的要因)
– 空力騒音(ファンの風切り音など)
このうち、電磁振動・騒音は設計と品質管理による低減が可能であり、人の感性領域で「うるさい」と感じてしまう共振周波数帯を如何にコントロールするかが、現場では重要です。
なぜ今、モータの電磁振動・騒音対策が求められるのか
品質要求の高度化とユーザー視点
従来「多少うるさくても動けばよい」とされた時代から、クレーム発生やユーザーの満足度低下、ブランド評価を著しく下げる要因として騒音トラブルは認識されるようになりました。
特に静音性を求められる家電、自動車、医療機器、半導体製造装置では、数dBの騒音低減が発売可否や市場競争力に直結します。
アナログ現場に根強く残る課題
今も日本の多くの工場では、昔ながらのアナログ的な設計手法や現場勘が色濃く残っています。
現場の作業者や班長、工場管理者が「音は人によって感じ方が違う」とモータの騒音問題を属人的対応で済ませてしまう現実も多々見受けられます。
そのため、計画的かつ科学的な対策導入が後回しになる傾向があり、業界全体で対策の底上げが急務とされています。
グローバル競争とカーボンニュートラルの流れ
国際市場では静音技術・省エネ設計が競争力の決め手になるだけでなく、環境規制(カーボンニュートラル対応)でモータの効率とあわせて低騒音設計が重要視されています。
安価なアジア製品との差別化の意味でも、日本の現場が取り組むべきテーマといえます。
現場で実践できるモータの電磁振動・騒音低減対策
1. 設計段階での低減技術
最も根本的かつ効果が高いのが、設計段階での対策です。
現場の購買・バイヤーや設計担当者にとって、次の観点を押さえることがカギとなります。
– コア歯数やスロット数の最適化
歯数選定やスキュースロット(スロットをわざと斜めに配置する工夫)により、高調波発生を抑制します。
– 材料の高品質化
鉄損の少ない電磁鋼板、高密度積層技術などを採用することで、不要な振動を防ぎます。
– コイル巻線の改良
非対称巻き・分布巻きなど始動トルクと騒音のバランスを見ながら検討します。
– 定常・過渡シミュレーションによる解析
近年は有限要素法(FEA)で電磁界シミュレーションを活用し、設計段階で振動・騒音予測が可能となりました。
2. 製造・組立プロセスで気をつけたいポイント
– 部品精度と組立バラツキの抑制
隙間(エアギャップ)のムラや、ロータとステータの芯ズレが振動を引き起こす原因になります。
– バランス調整
ロータの重量バランス調整が不十分な場合、電磁力とあいまって余計な振動・騒音が増幅されます。
– 積層の圧着精度
コアの積層部が緩いと、積層間で微小振動が起き、「ビビリ音」となって顕在化します。
3. 運用現場・保守でのメンテナンスタイミング
– 軸受(ベアリング)の早期摩耗への対応
注油不足やグリス漏れが起きると、摩耗振動が電磁振動と共振し騒音が悪化します。
– ファンやカバーの緩み
油断しやすい部分ですが、外装部品のボルト締付不足が原因のことも多いため、点検強化が求められます。
– 設置環境の最適化
基礎との固着状態や、周囲の遮音・吸音材の設置で、「伝播音」を抑える手法も根強く用いられます。
実践現場での具体的改善事例
ケース1:ギクシャク音発生の量産工程 現場改善ストーリー
ある大手自動車部品メーカーでは、出荷前検査で「ギクシャク音」が問題となり、対応チームが編成されました。
当初、現場作業者からは「昔からこの音は仕様」「どれも同じ」とされていましたが、分解調査とマイク計測、先端エンジニアリング部の協力によりコア積層部の隠れクラック(微細なヒビ)が主因と判明しました。
そこで製造プロセスの見直し、積層圧着条件の厳格管理による品質向上、さらには現場巡回での「感性官能評価」研修を同時実施したことで、短期間で騒音クレームを90%低減。
こうした徹底的な現場力の発動と設計・製造部門の連携が大きな成功要因となりました。
ケース2:購買バイヤー主導での素材見直しプロジェクト
昭和世代から続く現場では「材料コストダウン」の圧力が大きく、安価な電磁鋼板採用で逆に音圧(騒音)上昇を招いてしまうジレンマが起きがちです。
この事例では、バイヤー自身が自ら工場のアラーム音計測とフィールドテストに加わり、材料サプライヤーと共同で高品質・低損失鋼板の適用テストを実施しました。
最終的に調達価格は若干上昇したものの、騒音抜けのクレームが激減し、結果として保証・修理コストの大幅な削減につながるという、全体最適視点での成果を上げています。
バイヤーが設計・現場と垣根を越えて活躍した好例です。
アナログ現場でこそ求められる「異分野コラボ」のススメ
現場主導×設計連携=新たな低騒音ソリューション
日本の工場では「現場の声」と「設計意図」の情報断絶、縦割り組織の壁が依然として存在します。
しかし、近年は現場主導でスマートファクトリー化やIoTセンシング導入を進め、騒音・振動データを”見える化”する潮流が加速中です。
設計部門、調達部門、現場スタッフが密に連携し、サプライヤーも巻き込んだ定期的なフィードバック会議の開催が、巻込型改善のポイントとなっています。
サプライヤーにとっての”価値提案”という発想転換
従来「安く納めるだけ」のサプライヤーから、客先の事情=騒音・振動対策を深く理解した上で、先回り提案ができるかどうかで大きな差がつきます。
技術資料の提供やコイル設計サポートなど、協業型フロントローディングが契約獲得・シェア拡大のポイントです。
まとめ:モータ騒音対策は「誰かの問題」ではなく「全員経営」の時代へ
モータの電磁振動・騒音問題は、単なる設計部門や品質保証部門だけの「対応業務」ではありません。
調達・購買担当、製造・現場リーダー、さらにはサプライヤーまで一体となった”全員参加型の品質づくり”がこれからの競争力を左右します。
昭和のやり方から一歩前進し、科学的根拠を基にした知見の共有、現場の潜在ニーズの掘り起こし、そしてユーザー目線での静音性価値の再定義が大切です。
ぜひ、事例と解説を参考に、御社の現場・調達戦略、サプライヤービジネスの活性化に役立てていただければ幸いです。
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