投稿日:2025年10月29日

美容業がコスメを製造する際に注意すべき薬機法と表示ルールの基礎

はじめに:美容業界とコスメ製造の複雑なルール

美容業の現場がコスメ商品を自社製造するハードルは、年々高まっています。
その理由の一つが「薬機法(旧・薬事法)」と表示ルールの厳格化です。
単なる仕入れ・販売だけでなく、「こんなオリジナルコスメを!」という意欲のある現場ほど、この壁にぶつかることになります。

昭和の時代であれば、多少曖昧な表示や経験則だけで乗り切れていた業界も、いまやルールを正しく理解し遵守しなければ即トラブルにつながる時代です。
この記事では、工場の生産現場の知見や調達・品質管理の観点から「美容業がコスメを製造する場合」の実践的な薬機法・表示ルールの基礎、最新動向について分かりやすく解説します。

薬機法とは:コスメ製造を縛る根本ルール

薬機法の基本概要

「薬機法」とは、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」の略です。
医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器といった商品の品質と安全性を守るために制定された法律であり、「何を」「どうやって」製造し販売できるかを厳格に規定しています。

ひとことで言えば、「化粧品」として売る以上、薬機法のルールを必ず守らなければなりません。

なぜ美容業の現場が意識すべきなのか

美容業界は、肌や髪への直接的な効果訴求が売上に直結する側面があります。
現場目線で言えば、「実感」「口コミ」の蓄積がブランド価値や差別化につながるため、効能をうたいたくなります。

しかし、薬機法では、効果効能の表現は厳しく制限されています。
つまり、現場の熱量をそのままキャッチコピーや商品パッケージの表示に流し込みたい気持ちを、根本から見直す必要があります。
これはサプライチェーンすべての現場担当者、バイヤー、開発者が知っておくべきポイントです。

コスメ製造で押さえるべき薬機法の主要ポイント

化粧品と医薬部外品の違い

薬機法では「化粧品」と「医薬部外品」を明確に区別しています。
この区別が、許される成分・効能表示・販売ルートなどのすべての基本となります。

– 化粧品:人体に対する作用が穏やかで、外見の美化、清潔の保持、皮膚・毛髪等をすこやかに保つ、かつ人体への作用が緩やかなもの。
– 医薬部外品:効果を謳うことができる範囲が広いが、医薬品ほど強い作用はない。治療目的ではなく、「防止・衛生維持」などが基本。

美容業の店舗が自社コスメを企画・製造・販売する場合、「化粧品」なのか「医薬部外品」なのかで守るべきルールが大きく変わるため、はじめに明確化しましょう。

許される効能・表示内容

化粧品で認められている効能・効果は、薬機法により定められている「56項目」の範囲内に限られています。
「美白」「シミが消える」といった表現は原則として不可です。
「肌をなめらかに保つ」「みずみずしいうるおい」といった表現のみが該当します。

むしろ現場にありがちなのが、等身大の体感やエンドユーザーの口コミをそのまま使って効果を「盛って」しまうケース。
バイヤー、製造現場、マーケティング担当すべてがルールを精査しなければなりません。
違反すれば、行政指導や回収、行政処分など厳しいペナルティが発生します。

表示ラベルの義務表示事項

コスメ商品には、パッケージ(容器・外箱)への「義務表示事項」が定められています。
代表的な項目は以下の通りです。

– 名称
– 製造番号または製造記号
– 内容量
– 使用方法
– 製造販売業者の氏名または名称及び住所
– 全成分表示(平成13年より義務化)

この全成分表示を誤ったり、省略した場合も薬機法違反です。
なお、工場現場でのラベル貼付作業や、生産現場でのQR対応・バーコード管理などは、今や「アナログのまま」では即トラブルにつながります。

製造現場・バイヤーが知っておくべき最新業界動向

デジタライゼーションの波とレガシー体質

製造現場は昭和基地さながらの紙台帳、手張りラベルがいまだに残る分野です。
一方、薬機法違反リスクが高まるにつれ、デジタル化=トレーサビリティ確保は無視できない要請になりました。

品番、製造ロット、ラベル表示の誤記チェックなど、複雑なオペレーションを紙と目視だけで管理することは、今や強いリスクとなります。
ERPやMESとの連動、工場IoTの導入など、アナログな現場にこそ根本改革の余地があると言えるでしょう。

バイヤー・サプライヤー間で発生しやすい表示・品質トラブル

外部OEM工場への生産委託や資材調達の際、もっともトラブルとなるのが「仕様書・標準書と実際のギャップ」です。
バイヤーは薬機法表示可能な内容を仕様化し、サプライヤーへ十分な教育・指示を伝える必要があります。

現場では納期優先やコスト低減圧力から「とりあえず生産」→「あとからトラブル」になるケースが後を絶ちません。
「納期優先」一辺倒、「OK文化」だけで動く製造現場の空気を根本から見直すことが、法規制に対応できる組織力強化につながります。

法規対応をバックアップする体制と人材育成

現実には、法規やラベル表示に知見のある人材は、現場に限っていることが多いです。
製造現場・バイヤー・品証・開発など、異なる部署がそれぞれのルールだと、「誰も最終責任を取らないままリスクだけが積み上がる」という昭和的構造が生じやすくなります。

着実なのは、社内に薬事法務担当を設置し、バイヤーやサプライヤーの教育・トレーニングを継続的に行う体制をつくることです。
また最新情報・事例(行政指導例も含む)を定期的に共有し、組織横断型で「リスク感度」を高めることが重要です。

コスメ製造のための具体的なチェックリスト例

1. 製品コンセプトは「化粧品」か「医薬部外品」か明確に決めたか
2. 効能表示は薬機法に適合しているか(56項目チェック)
3. パッケージ・容器・外箱の義務表示内容は網羅・正確か
4. 表示内容が日英併記等の場合、誤訳や法規制外の表現になっていないか
5. 製造記録、出荷履歴はデジタルで管理・追跡可能か
6. OEM・外注先にも薬機法勉強会を実施しているか
7. 法規制改正・行政指導事例などの最新トレンドを定期的に社内で共有しているか

製造業の現場感覚からすると、一概に「面倒なチェックが増えた」と感じるかもしれません。
しかし、この一手間が後々のリコールや行政指導という大事故を防ぐ「保険」になります。

まとめ:業界の常識を疑い、現場目線で法規制対応を徹底する

美容業界が自社コスメを製造する際、薬機法・表示ルールを正しく遵守することは、ブランドを維持し発展させる最重要基盤です。
古い昭和の現場体質や「ウチは今まで問題なかった」という感覚に頼らず、新しい規制や社会動向をキャッチアップできる組織体制が求められています。

バイヤー・サプライヤー・生産現場・品証・マーケティングまで、全社的な知識と連携が不可欠です。
一見地味に見えるルール遵守の積み重ねが、他社との差別化や、安心・安全なものづくり、日本の美容業界の信頼向上につながります。

ぜひ、現場で働くみなさん、お客様のため、そして自分たちの安心のために、「当たり前」と「最新」を問い直し、日々の業務改善にチャレンジしてみてください。

You cannot copy content of this page