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PID制御の基礎とExcelによるPIDチューニングへの応用

目次
はじめに
PID制御は、製造業のみならず、さまざまな分野の自動化現場において不可欠な制御手法です。
装置の温度管理やモーター制御、ロボットアームの精密な動作など、幅広い用途で活用されています。
しかし、「PID制御の理屈は何となく知っているが、実際の現場でどう扱うのかは不安」という現場担当者や、「アナログな現場からDX推進を目指すが、最初の一歩が踏み出せない」という方は少なくありません。
本記事では、PID制御の基礎原理を「現場目線」でわかりやすく紐解きつつ、Excelを活用した具体的なPIDチューニングの手順を解説します。
昭和時代から続くアナログな現場でもすぐに実践できる内容を盛り込み、製造業に従事する方、調達購買、サプライヤー視点の方にも実務に活かせる実践ノウハウを伝授します。
PID制御とは何か?なぜ必要なのか?
PID制御とは、「比例(Proportional)、積分(Integral)、微分(Derivative)」の3つの制御成分を組み合わせて、対象物を望む状態に近づける自動制御アルゴリズムのことです。
例えば、ある設備の温度を100℃に保ちたい場合、外乱(材料投入や外気温変化)があっても、PID制御によって温度が安定的に維持されます。
PID制御がなぜ現場で重宝されているのか。
理由は以下の通りです。
・設定値と実際の値のズレを最小限に抑えられる
・安定した品質・生産効率の向上につながる
・膨大な実績とテストによる信頼性
・シンプルな理屈でありながら拡張性が高い
現代のものづくり現場では「歩留まり改善」「品質安定」「人手不足対応」「エネルギーコスト削減」など、多くの課題が山積しています。
その解決基盤となるのが、PID制御に代表される自動制御技術です。
PID制御の各成分と現場での役割
PID制御は、P(比例)、I(積分)、D(微分)の3つのパラメータで構成され、それぞれ役割が異なります。
P(比例制御)の役割
比例制御は、設定値と実測値の差(偏差)に比例した操作量を出力します。
例えば、温度が設定値より5℃低ければ、その差分を大きめに加熱するようPIDコントローラが判断します。
現場においては、「とりあえず設定値に向かわせる力」と考えると良いでしょう。
I(積分制御)の役割
積分制御は、時間とともに残り続ける偏差を取り除くために機能します。
現場では、比例制御だけで細かいズレがずっと消えない、いわゆる「オフセット」が発生する場合によく使われます。
要するに、「ジワジワと設定値に押し戻す役割」です。
D(微分制御)の役割
微分制御は、偏差の変化速度(どれだけ早くズレが増減しているか)に応じて操作量を変化させます。
主に、急激な変化や外乱のショックを見抜いて、過ちの先回りをする用途で重宝されています。
現場で多い「装置の応答遅れ」や「オーバーシュート」(行き過ぎ)を抑えたいときに活躍します。
昭和から続くアナログ現場のPID制御事情
多くの工場では、古い制御盤やアナログ温度調節器がいまだ現役です。
機械式のリレーやバイメタル、針付き温度計でのチューニングが残っている現場も珍しくありません。
これらの現場では、
・サーモスタットの微調整が職人技化している
・勘と経験に頼った「アタリ調整」が横行
・パラメータ変更プロセスが属人化
などの傾向が続いています。
また、装置メーカーやサプライヤー任せになっていることも多く、自社でPIDパラメータを最適化する知恵が現場に実装されていない状況も見受けられます。
実際のところ、現代的なPLCやIoT化に対応する前段階として「Excelでのシミュレーション&チューニング」が極めて有効です。
なぜなら、「実機と同じ条件をデスク上で再現でき、パラメータ調整の過程が見える化」できるからです。
ExcelでのPIDシミュレーションが現場を変える理由
「ExcelでPID制御を実践?」と驚かれるかもしれませんが、これは地味ながら現場力を底上げする非常に強力なアプローチです。
その主な理由は以下の通りです。
・専用シミュレーターや高価な解析ソフトは不要(コスト圧倒的低減)
・パラメータの調整結果がグラフで直感的に追える
・バイヤーや他部門と数値根拠に基づく議論がしやすくなる
・現場の教育ツールとしても有効
特にサプライヤーや設備メーカーとの交渉に「再現性のあるデータ」があると、パラメータのすり合わせやトラブルシューティングの際に合意形成が容易です。
また、Excelが使えればベテランから若手まで幅広い層が気軽に参加できる点は大きな利点です。
実践:ExcelでPIDチューニングをやってみよう
ここからは、実際にExcelでPID制御のシミュレーションとチューニングを実施する方法を具体的に説明します。
1. 制御対象の数式モデル化
まず、制御対象(例:炉やタンク)の単純なモデル式を用意します。
ここでは「一時遅れ系」と呼ばれる以下のモデルがシンプルで便利です。
Y(t+1) = a × Y(t) + b × U(t)
Y:出力値(例:実際の温度)
U:操作量(例:加熱出力)
a, b:対象の特性パラメータ
たとえば、
a=0.9, b=0.1 と仮定します。
2. PID制御則のExcelへの組み込み
PID制御則は下記の式にまとめられます。
U(t) = Kp×e(t) + Ki×Σe(t) + Kd×{e(t) – e(t-1)}
e(t):偏差(設定値-出力値)
Excelの表では、
・各時刻での偏差e(t)、累積偏差Σe(t)、偏差の変化{e(t) – e(t-1)}
・それぞれにKp(比例ゲイン)、Ki(積分ゲイン)、Kd(微分ゲイン)のパラメータを設定
・操作量U(t)を計算セルで出す
・上記「制御対象モデル」にU(t)を入れて、Y(t+1)の値を次の行で生成
とすれば、時系列で設定値に追従する過程がExcelのグラフで見えるようになります。
3. パラメータの調整(チューニング)
最初にKp、Ki、Kdの値をいろいろ変えながら、応答曲線(オーバーシュートが大きい、収束が遅い、振動するなど)を観察します。
たとえば、
・最初はKpだけを大きめにして、粗く合わせる
・静的なズレ(オフセット)が残るようならKiを少しずつ増やす
・応答が遅かったり、揺れて収束しない場合はKdを調整する
といった順序で進めます。
Excelの「データの並べ替え」「条件付き書式」「折れ線グラフ」などを駆使すれば、
数値シミュレーションとグラフ可視化が誰でも手軽に可能です。
また、工場内で実測値とExcelでのシミュレーション結果を「見比べる」ことで、現場固有の癖や傾向にも気づきやすくなります。
バイヤー・サプライヤー目線でのPIDチューニングの価値
調達・購買やサプライヤーとの取引現場でも、PIDチューニングのノウハウは武器となります。
商談やトラブル対応の際、
・「先方の設備が不安定で不良品が発生している」
・「現場でしかできない調整作業がボトルネック」
・「納入仕様と実使用条件の乖離がある」
といった問題が頻出します。
その際、「弊社のパラメータはこのように調整」「この条件ならこのくらいの応答時間」などをExcelベースで「証拠を示しながら」説明できれば、相手への説得力・信頼感が大きく向上します。
さらに、サプライヤー側も「このExcelシミュレーションのモデルを参考にして欲しい」と提供することで、余計なやり取りの手間が省略され、協調的な関係性につながります。
レガシー現場の意識改革・デジタル活用の第一歩として
昭和から続くアナログな現場では、「職人の勘」や「ヒストリカルな経験」の伝承のみでノウハウが止まってしまいがちです。
しかし、Excelベースのシミュレーションと「数値で語れるカルチャー」を根付かせることは、これからの現場改善・デジタル化への「最初の一歩」になります。
例えば、
・パラメータ調整がブラックボックス化している職場ほど、「数値の棚卸し」がムダ削減・省力化の鍵
・OJTや新人研修の場でシミュレーションを使えば「なぜそれが必要か」が短時間で腹落ちする
・他部門や取引先との管理レベルの共有が容易になり、隠れた停滞ボトルネックの早期発見も
と多くのメリットがあります。
まとめ
PID制御は、決して難解な専門技術ではありません。
現場のみなさんの「こうなればもっと良くなる」「今よりムダをなくしたい」という思いに寄り添い、誰でも扱える普遍的な道具として活用できます。
年季の入った現場でも、まずは自分たちで「ExcelによるPIDシミュレーションとチューニング」に取り組むことから始めてみてください。
目の前の課題解決に直結するだけでなく、その小さな一歩が現場の変革、そして日本の製造業全体の生産性向上につながっていくはずです。
「現場目線×数字で語る力」を武器に、これからのモノづくりを共に深化させましょう。
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