投稿日:2025年6月22日

プリント基板設計の基礎とその実践留意点

プリント基板設計の基礎と現場実践の重要性

プリント基板(PCB)は、現代の製造業における電子機器の心臓部ともいえる重要な部品です。
スマートフォン、家電、自動車、産業用ロボット…。
あらゆる製品がプリント基板によって制御され、機能を発揮しています。

一見、単なる「電子部品を繋げる板」として軽視しがちですが、現場の観点から見てPCB設計は製品開発・品質・コストを根本から左右する非常に重要なプロセスです。
特に日本の製造業は今なお「昭和のやり方」に固執しがちな部分もあり、生産合理化やデジタル化が進む世界と比較すると大きな課題・ギャップも生まれています。

本記事ではプリント基板設計の基礎から、設計プロセスにおける実践的な留意点、さらには現場で頻発するトラブルや“見逃されがちな落とし穴”まで。
20年以上の現場実体験をベースに、製造業の進化と持続可能な発展のヒントを探っていきます。

プリント基板設計の基礎知識

プリント基板(PCB)とは何か

プリント基板(PCB:Printed Circuit Board)は、導電性のパターンが印刷された絶縁体の板です。
電子部品をはんだ付けし、部品同士の電気的な接続を担います。

大手家電メーカーも中小企業の町工場も、このPCBがなければ現代のモノづくりは成立しません。
基板の品質が製品全体の信頼性を左右し、その設計難易度やコストがビジネスの競争力も決定づけます。

プリント基板の構造(片面・両面・多層基板)

シンプルな電子回路なら片面基板(片側だけにパターン)。
複雑な回路は両面基板(両面にパターン、ビアで接続)。
さらに集積度が高まる製品では4層、6層…と多層基板が不可欠です。

層が増えるほど難易度・コストはUP。
実際の開発現場では「コスト」「納期」「性能」を天秤にかけ、最適な基板構造を選ばねばなりません。

設計フローの概要

1. 要求仕様書の作成と確認
2. 回路図設計(回路図CADを使用)
3. 部品選定ならびにライブラリ登録
4. レイアウト設計(PCB設計CADでパターンレイアウト)
5. DRC(Design Rule Check)・DFM(製造容易化チェック)
6. 試作基板発注
7. 実装・評価・修正
8. 量産用データ出力

特にステップ3以降は、製造現場・品質保証・調達購買部門など多部門との連携が成否を分けます。

設計時の実践的留意点

品質とコストの両立に潜むジレンマ

「高機能化=コスト増」。
「コスト低減=品質リスク」。
現場がもっとも苦しむのはこのジレンマです。

たとえば、
・無駄な層数削減(表面マウント部品配置密度UP)
・安価な海外部品への置き換え
・細線・細ピッチによる基板面積削減
こうした設計はたしかにコストダウンになります。
ですが、トラブルや歩留まり悪化のリスクも増大します。

現場目線の落とし穴は、「設計上は大丈夫」でも「実装現場でトラブル多発」というケースです。

製造現場で起きやすい実例トラブル

・フラックスにじみ/ハンダブリッジ
・電源/GNDパターンの設計ミスによるノイズ混入
・ビアの寸法不良や配置ミス
・部品の実装方向や高さクリアランスのルール違反
・過度な部品集積による熱暴走・放熱不良

現場では「DFM(Design For Manufacturability)」を徹底し、「設計側の完璧主義」と「現場の合理主義」のすり合わせが不可欠です。

調達やバイヤー目線と設計の関係性

設計者はどうしても開発部門の都合を優先しがちです。
ですが、調達やバイヤー目線からは「入手性=納期」「単価」「サプライヤーリスク」こそ死活問題となります。

部品選定時には
・安全在庫が潤沢か
・価格変動リスクはないか
・苦情対応や品質異常時の柔軟なサプライヤーか
・海外リードタイムや為替リスク
など、経営目線や調達リスクも設計段階で織り込むべきです。

この設計-調達間の連携が弱いと「設計はできたが、部品が手に入らない」「量産に進めない」といった致命的なタイムロスにつながります。

アナログ時代からの脱却とデータ活用の現状

「職人技」と「慣習」で走り続けてきた昭和的現場

日本の製造業、多くの現場はいまだに
・手書きの基板図
・紙での設計資料回覧
・設計変更の口頭伝達
・職人のカンやコツ
で回っています。
ロスやヒューマンエラーが頻発し、設計と現場での認識ズレも根深いものがあります。

DX化、設計-製造連携のデジタル化はまだまだ途上です。
とくに中堅・中小現場では「いまだにFAX発注」「紙図面」といったアナログ文化も根強く残っています。

データ一元管理による設計現場の高度化

グローバル競争に打ち勝つためには、
・設計データのクラウド共有(PLM等)
・部品ライブラリの活用
・製造現場との設計データ連携
・3D-CAD/シミュレーション活用による早期DFM/DFT(テスト容易性設計)
が不可欠です。

これにより「設計変更の伝達漏れ」「部品配置・配線の見落とし」「部品入手リスク」など数多くのミス・ロスを削減できます。

優れたプリント基板設計者とは

単なる“設計の巧さ”だけでは足りない

現場目線から言えば、「設計が巧い」=「技術力が高い」ことだけが優れた設計者の条件ではありません。

・現場実装や工程に配慮できる
・バイヤーや調達、サプライヤー視点を取り入れられる
・量産/コスト構造を理解して企画に落とし込める
・現場オペレーターと積極的にコミュニケーションをとる
こうした“現場志向のラテラルシンキング”をもった設計者こそ真に強い設計者と言えます。

リスクマネジメント力と柔軟な視野

設計トラブルの多くは「思い込み」と「コミュニケーション不足」から発生します。
「図面通りに作ったのに組立てられない」「試作は通ったが量産現場で寸法不良連発」といった失敗をいかに未然に防ぐか。

そのためにも現場・調達・サプライヤー・物流など多角的な視点で全体最適を考え、かつリスクを見定める力が必要です。

サプライヤーやバイヤーとの協業で生まれる“最強の設計”

現場主義とコスト競争、新たな時代の設計者像

グローバル調達やサプライチェーンの多様化が進む現代。
設計者はサプライヤーや調達・バイヤーと密に情報共有しながら、
「設計合理化→調達最適化→現場実装性向上→全体品質UP」という全体最適アプローチが主流となってきました。

その実現には
・設計者自身が現場や調達業務に積極的に関与する姿勢
・サプライヤーからの“設計DFM提案”や“部品代替案”を柔軟に受け入れる対話力
・バイヤーや工場長など管理職とのスムーズな意思疎通
が不可欠です。

今後は“設計-調達-製造-品質”がタッグを組み、市場の要請や社会的要請(SDGsや脱炭素など)にも応えられる「次世代型設計者」が求められるでしょう。

まとめ-プリント基板設計と製造業の未来

プリント基板設計は単なる「仕様書通りの設計作業」ではありません。
調達・製造現場・サプライヤー・経営……。
多くの部署が連携しはじめて、全体最適のプリント基板が生まれます。

昭和のアナログ文化を引きずる日本の製造現場も、いま変革の真っただ中です。
DX・データ活用・現場横断コミュニケーションの徹底こそ、強いプリント基板設計者・バイヤー・サプライヤーを育てる近道です。

芯の通った現場志向と、広いラテラルシンキングを武器に。
現場の知恵と最新テクノロジーの融合で、製造業の発展と持続可能な未来を切り拓いていきましょう。

You cannot copy content of this page