投稿日:2025年6月17日

残留応力の基礎と測定技術および適切な除去方法

はじめに:残留応力とは何か

製造業に従事する方々にとって「残留応力」という言葉は、しばしば耳にする専門用語のひとつです。
とくに金属加工や樹脂製品、さらにはセラミックスや複合材料の成形工程など、さまざまな分野で残留応力の影響が製品の品質や信頼性に大きく関わっていることをご存じでしょうか。

今回は残留応力の基礎から最新の測定技術、そして適切な除去方法まで、昭和から令和への変化を踏まえつつ、現場目線で深く掘り下げていきます。
購買担当者はもちろん、サプライヤーや現場技術者、さらには製造業をこれから目指す若手にも役立つ実践ノウハウをお届けします。

残留応力の基礎知識

残留応力とは

残留応力とは、部品や素材が外力(荷重)を受けていない状態でも内部に分布している応力のことです。
これは、成形・加工・熱処理・溶接など多様な工程を経る中で、内部に均一でないひずみや歪みが生じることが主な原因です。

例えるなら「表面上は何も問題なく見えても、内部にストレスを秘めている状態」。
これが蓄積すると、実使用時や後工程で予期せぬクラック(割れ)や変形、最悪の場合には破壊につながるリスクが高まります。

残留応力が発生する主な原因

残留応力の発生原因はいくつかあります。
現場の観点でよく見られるものを挙げます。

– **機械加工(切削・研削・曲げ)**
切削工具との接触面で局所的な温度上昇や変形が生じることで部分的な応力が残ります。
– **鋳造・鍛造・プレス成形**
急冷や冷却速度の不均一さ、強い塑性(そせい)変形による内部のひずみが大きな残留応力につながります。
– **溶接・ろう付け**
加熱・冷却による局所的な膨張と収縮の不均一さが、溶接部およびその周辺に高い応力を残します。
– **熱処理**
焼入れ時など、温度差によって収縮が部分的に異なることで応力が生まれます。
– **表面改質(ショットピーニング、レーザー照射など)**
表面に圧縮応力を与える工程ですが、場合によっては内在的な残留応力に切り替わるケースもあります。

現場主導の改善活動でも、こうした工程起因の残留応力に気づかず後工程でトラブルにつながる事例は後を絶ちません。

残留応力による不具合・リスク

残留応力を放置すると、以下のような問題が生じる恐れがあります。

– 突然の破断・割れ
– 寸法変化(変形、ソリ、反り)
– 疲労寿命の短縮
– 繰り返し応力下での割れ進展(疲労破壊)

こうしたトラブルは、品質保証の観点で致命的です。
また、顧客クレームやリコール、事故原因にもなりやすい点はバイヤー、サプライヤーともに強く意識すべきでしょう。

残留応力の測定技術

なぜ測定が重要か

品質トラブルの多くは残留応力の監視・評価不足による『予知不能な劣化』が発端です。
仮想的な「設計通り」の強度や寿命も、現場で発生する残留応力を無視すれば机上の空論となりがちです。

バイヤー視点で言えば、サプライヤー提案の比較や品質保証体制の評価時に「残留応力の監視」と「測定実績」を押さえておくことで、より深い現場把握が可能となります。

代表的な測定手法

測定の方法は大別して「破壊法」と「非破壊法」に分かれます。
それぞれメリット・デメリットがあり、コストや納期、評価精度に直結するため知識のアップデートが必須です。

破壊法(セクション法、穴あけ法など)

– **セクション法**
部材に切り込み(スリットや切断)を入れ、その直後に現れる変形を測定。
切断箇所は再利用できないため、実製品での利用は限定的です。

– **穴あけ法(ドリル法)**
小さな穴を製品表面に開け、その周辺に発生する歪みを歪みゲージで測定します。
少しだけ表面を破壊しますが、簡便且つ精度が高いのが特徴です。

非破壊法(X線回折法、超音波法など)

– **X線回折法**
材料表面にX線を照射し、原子配列の歪みを解析する手法です。
非破壊で高精度、実装コストはやや高めですが、工程内検査や出荷検査に広く使われています。
なお、最近では携帯型X線残留応力測定器も普及し、現場での“その場評価”も現実味を増しています。

– **中性子線回折法**
X線よりも深部まで測定可能ですが、設備が大掛かりになるため研究用途が中心です。

– **超音波法**
超音波パルスを材料内へ送り、音速や反射パターンから応力状態を推定します。
コスト・スピードの観点では優秀ですが、確度はX線法にやや劣る印象です。

– **磁気法・ひずみゲージ法**
比較的簡便で安価ですが、測定対象材料に条件(磁性体など)が必要な場合もあります。

なぜアナログ現場で測定が遅れるのか

実際のところ“昭和型現場”では残留応力測定が後回しになるケースが少なくありません。
理由は「コストがかかる」「測定の知見が現場に浸透していない」「昔ながらの勘や経験が重視される」など、慣習や啓発不足によるものです。

ここはラテラルシンキングの出番です。
DX推進やスマートファクトリー化の流れとともに、現場の変化点として「見える化」や「自動評価」技術との連携、さらには工程内フィードバックなど統合的な運用が求められる時代になっています。

残留応力の適切な除去と管理

なぜ除去・低減が必要か

測定により「どこに」「どの程度」の残留応力が残っているかを知ったところで、それを制御・除去しなければ本質的なモノづくりの改善とはなりません。
特に精密部品や高付加価値製品では、細部の応力が製品寿命や事故発生率に直結するため、万全の管理が求められます。

残留応力除去・低減の主要方法

熱処理による応力除去

– **応力除去焼なまし**
一定温度で数時間加熱し、ゆっくり冷却することで内部応力を緩和します。
特に機械加工後や溶接後の部品で多用されます。

– **時効処理**
人工的な時効(エージング)を活用し、残留応力を自然緩和させます。

現場では「材料自体の特性」や「母材と熱の伝わり方」、「加熱ムラ」によってバラつきが出やすい点に注意が必要です。
現場主導で炉内温度の均一化施策や、熱間炉の自動監視運用が成熟してきているのも現代的な特徴と言えるでしょう。

機械的手法による応力低減

– **ショットピーニング**
金属球を高速で表面に打ち付け、微小な塑性変形で表層に圧縮応力を与え、内部応力を打ち消す手法です。
主に自動車や航空機部品、機械構造材で多用されています。
ただし、管理が甘いと逆に表面ダメージを与えるリスクもあるため、定量的な検査とセットで実施することが重要です。

– **バイブレーション応力除去**
微細振動を部品全体に与え、内部ひずみを微小に再配分することで残留応力を低減します。
部品が大きい場合や加熱処理が困難なケースに有効です。

最新の自動化動向と今後

AIやIoTの普及に伴い、加熱プロセスやピーニング、応力除去の進行状況をリアルタイム監視し、自動フィードバックする仕組みが先進工場で進化しつつあります。

たとえば、X線残留応力測定の自動ラインインライン化や、温度監視センサー・ひずみゲージによる工程内フィードバック。
また、応力シミュレーションソフトによって「事前評価→リアルタイム補正」が現実味を帯びてきています。

現場目線で見る残留応力「管理と未然防止」

バイヤー・サプライヤーの立場で意識すべきこと

製品トラブルのリスクマネジメントは製造現場だけの課題ではありません。
バイヤー目線では、「サプライヤーの製造工程でどこまで残留応力への配慮・対策が施されているか」を問うことがサステナブルな取引関係の前提です。

たとえば、品質監査やQMS(品質マネジメントシステム)に「残留応力の測定・管理履歴」の提出義務を明文化したり、測定結果に対する根拠やトレーサビリティの担保要求を徹底するといった工夫が不可欠です。

逆にサプライヤー側も、自社の“現場で実践している取り組み”を積極的に可視化・PRすること。
測定→記録→報告まで一貫した流れを整備して「安心・安全なものづくり」に寄与することが、高付加価値ビジネスの鍵となります。

現場改善と未然防止のヒント

– 工程設計段階での「残留応力予知」シミュレーションの導入
– 残留応力測定結果のデータベース化(ビッグデータ活用)
– 重大不具合・事故発生時には応力評価(測定)のルール化
– 教育・訓練による現場力の底上げ

こうした地味な積み重ねこそが、「昭和型現場」から「令和型スマート工場」への進化ポイントです。

まとめ:残留応力管理の最適解へ

残留応力は、目に見えないがゆえに軽視されがちですが、トラブル発生時には甚大な損失につながる“静かなリスク”です。
測定技術や管理手法は日進月歩で進化しており、今後ますます現場DX・スマートファクトリーの中核となっていくでしょう。

バイヤー・サプライヤー、ひいてはモノづくりに携わるすべての方が、「測る・診る・制御する」習慣を日常化することで、未然防止と高品質の両立が実現できます。
残留応力の正しい理解と対応こそが、製造業の未来を切り開くカギとなります。

現場の知恵と最先端技術、その両輪で“昭和型アナログ”から“令和型デジタル”への変革を進めていきましょう。

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