投稿日:2025年6月12日

センサデータ処理技術の基礎と異常検知予測システムへの応用

はじめに ― 製造業におけるセンサデータの重要性

近年、IoTやIndustry 4.0の流れを受けて、工場の現場では多数のセンサが導入されています。

温度、圧力、振動、画像、音声といった様々な種類のセンサは、24時間365日、設備や作業環境の“今”を捉えています。

この膨大なセンサデータを正しく処理・活用することで、予防保全や品質向上、歩留まり改善、そして異常検知に基づくトラブル未然防止が可能になります。

しかし、現場の実態としては、「データがあっても活かせていない」「アナログな運用から脱却できない」「投資効果が不透明」といった課題が根強いのも事実です。

本記事では、20年以上製造オペレーションに携わってきた現場視点で、センサデータの処理技術と異常検知予測システムへの応用方法を実践的に解説します。

昭和的なアナログ管理から脱却し、これからのスマートファクトリー時代へ進化するためのヒントをお伝えします。

センサデータ処理技術の基礎

1. センサデータとは何か

センサデータとは、各種センサ(温度、圧力、加速度、光、画像、サウンドなど)から収集されるアナログまたはデジタル情報を指します。

工場では、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)やDCS(分散制御システム)、さらにはIoTデバイスを通じてリアルタイムでデータが流れ込んできます。

その属性は大きく分けて下記の2種類に分類できます。

1. 連続値データ(温度、圧力、振動などの定量的値)
2. 離散値データ(制御用リミットスイッチ、異常信号のON/OFF等)

データの取得方法・頻度・精度がシステム設計や後のデータ活用の質を左右します。

2. データ収集・前処理の実際

多くの現場では、まだEXCELでの転記や、紙による検針・記録が行われています。

しかし、予知保全やトラブルシュートに本気で取り組むなら、センサデータの「自動連続取得」「時系列でのタイムスタンプ付与」「異常値除外」の3点が不可欠です。

【ポイント】
– 設備やライン単位で最初は要点を絞って収集を始めると、運用現場の負担とコストを抑えやすいです。
– データのノイズ(外乱値、スパイクなど)を現場工の知見でラベリングするプロセスを経ると、後の異常検知AI精度が格段に向上します。

3. センサデータの特徴と注意点

センサデータは「大量・高速・高頻度」で発生します。

同時に「欠損・外乱(ノイズ)・変化点の分かりづらさ」という特徴もあり、以下の処理が重要です。

1. 欠損値の補完(平均値法、前値維持法など)
2. 外れ値(Outlier)の除去または判別
3. 平滑化処理(Moving平均やメディアンフィルタ)
4. 時系列としての前後関係を意識したデータ構造化

現場でありがちなのは、設備改修・メンテ中の“異常データ”が記録として混ざり、その後のAI分析や統計集計に悪影響を及ぼすケースです。

現場へのフィードバックや操作履歴との同期も忘れずに設計しましょう。

異常検知予測システムへの応用 ― なぜ今必要なのか

1. 昭和の感覚から令和の予測保全へ

これまでの現場では、「ベテランの勘・経験」に頼って装置音や振動を“肌感覚”でキャッチし、“怪しい”タイミングでメンテや調整をしてきました。

しかし、少子高齢化・技能伝承難・分業化が進む現代では、こうした属人的なメンテナンスは持続困難です。

異常検知予測システムとは、センサデータから“平常と異なる兆候”をAI/統計的手法で早期に発見する仕組みです。

人の勘を数値化し、再現性のある品質維持とコスト削減に繋げる「令和のものづくり」の根幹となっています。

2. 異常検知の基本手法

主な異常検知手法は次の3つです。

1. 統計的手法(Zスコア、IQR、EWMAなど)
2. 機械学習(IsolationForestやSVMなど)
3. ディープラーニング(LSTMやAutoEncoderなど、時系列の深層学習)

従来型のしきい値監視も“異常値検知”の一つですが、それだけでは設備の複雑化や自然劣化への対応力が足りません。

現場では、「ふだんと何か違う」「この振動パターンは怪しい」といった“微妙な変化”をシステム的に可視化することが特に重要になっています。

3. 現場導入における成功と失敗のポイント

異常検知予測システムの失敗例としてよくあるのは、

– データ連携設計が現場ニーズに合っていない
– 「これで本当に止められるの?」という現場の合意形成不足
– 検出アラートが鳴りっぱなし(誤報、過検知)のため運用されなくなる
– メンテナンスや品質部門とのクロスコミュニケーション不足

です。

逆に成功するポイントは、

1. まずは1ライン・1設備からPoC(小さく始める)
2. 検知感度と誤報率を現場の勘も取り入れて手動チューニング
3. データドリブンな設備改善提案もセットで現場にフィードバック(「これが止まる前兆だ」と納得してもらう)

です。

実践:現場に根付かせるためのプロセスとTips

1. “分析屋”と“現場”の通訳が成功を分ける

現場とデータサイエンティストは使う言語も考え方も異なります。

例えば「Zスコアで3σ逸脱したのでアラート」という指示も、現場から見れば「異常が出た理由が分からない」「対処方法がわからない」となり、結局「無視」されがちです。

必要なのは、
– なぜその閾値判定になったのかの説明
– 過去の実データで現場検証
– 設備メンテナンス履歴とクロス解析
– “変化点”を捉えるノウハウ(例:異音・微振動・消費電流の傾向変化)

です。

ここに、現場で培った“勘”と分析技術をブリッジする役割が求められます。

2. サプライヤー/バイヤーの視点:導入効果のプレゼン術

サプライヤーの立場で導入効果を訴求する際は、単なる「ダウンタイム削減」ではなく、

– データに基づいた根拠のある“再発防止”提案
– 「人の目に頼らない」持続可能な仕組み(省人化・技能継承)
– 生産性や品質指数(OEE, ロス率など)の具体的向上事例
– バイヤー現場のボトルネック・痛みポイントへの共感

そして何より、「現場が使いこなせる」運用設計・教育サポートの伴走が肝要です。

バイヤー(発注側)が何を知りたいか、どこにリスクを感じているかを熟知した提案が信頼に結びつきます。

最新動向と未来の展望 — 異常検知は“現場DX”の核心領域

今、製造現場ではクラウド集約型のIoTプラットフォームの普及で、工場全体のセンサデータが一元管理され、AI分析が容易になっています。

トレンドとしては、
– EdgeAI(現場端末での低遅延認知・推論)
– デジタルツイン(工場の仮想モデルで類似異常パターン検証)
– 標準プロトコル(OPC-UAやMQTTなどによる異機種間連携)

が挙げられます。

一方、日本の多くの製造業現場では、まだまだアナログ文化も強く、「ノイズの多い現場データをどう扱うか」「本当にコストメリットが出るのか」という疑問が残ります。

今後は、現場×デジタルの垣根を越えたハイブリッド人材の育成が重要です。

「データが語る現場」と「現場で語られるデータ」、この両者をつなぐ仕組み・コミュニケーションが“令和の工場経営”の勝ち筋です。

まとめ ― 昭和の経験×令和のデータで現場を強くする

本記事では、センサデータ処理と異常検知予測の基礎から、現場に根付く運用ポイントまでを解説しました。

満足に使いこなせていないセンサデータも、現場の勘とも統合しつつ“小さく始める”ことが、実践の成否を分けます。

バイヤー、サプライヤー、現場メンバーすべての視点で“使える異常検知”を現実のものとし、昭和的な属人技から令和の再現性あるものづくりへ――。

未来の製造業は、現場目線の地に足のついたDX(デジタルトランスフォーメーション)からこそ始まります。

あなたの現場も、今の一歩から“データで進化”できます。

まずは身近なセンサから、始めてみましょう。

You cannot copy content of this page