投稿日:2025年6月20日

自動車における遮音吸音の基礎と音色の改善車内騒音対策への応用例

はじめに:自動車の「音」は課題か魅力か

私たちの身近な移動手段である自動車は、20世紀以降、技術革新の連続によって進化し続けてきました。

その歩みにおいて車の「静粛性」は、快適性・高級感を形成する上で特に重要な要素とされてきました。

一方で、クルマらしいスポーティな「音色」やエンジンサウンドを好むユーザーも多く、全ての騒音を単純に消すのが最適解とは限りません。

自動車設計の現場においては、「遮音」「吸音」を適切に組み合わせ、「不要な音は消し、必要な音は活かす」バランスが求められています。

本記事では、自動車開発に20年以上携わる筆者が、遮音・吸音技術の基礎から、最新車内騒音対策の応用例、さらには昭和的な現場感覚や業界動向まで掘り下げて解説します。

バイヤーを目指す方や、サプライヤーからバイヤーの考えを知りたい方にも、有益な「現場」視点の知見をお伝えします。

自動車における「静粛性」とは

車内静粛性とは、外部や機械から発生する騒音・振動・ざわめきをいかに車内に伝えないか、あるいは、乗員に「快」と感じさせる音響環境をいかに実現するか、というテーマです。

単なる静音化では顧客満足は得られません。

顧客が「高級」「落ち着く」「快適」と感じる微細な音も、妥協なくコントロールすることが重要となります。

何が「騒音」となるか

一口に自動車騒音と言っても、その出所はさまざまです。

– エンジンやモーターの作動音
– タイヤと路面の摩擦音
– 風切り音
– 車体構造部からの共振・ビビリ音
– 外部(他車、工事現場、街の音)

これら全てが車内に伝播したとき、「乗り心地を損なう不要な音」と認識されます。

一方で、欧州車ブランドでよく言われる「ドアの閉まる音」や、走行中の「適度な機械音」は、逆にブランドの世界観を作る重要なファクターでもあります。

「遮音」と「吸音」は何が違う?

静粛化のアプローチは大きく2種類に分かれます。

1. 遮音:物理的に音の伝播を遮断(密閉素材や板金構造を強化する手法)
2. 吸音:音エネルギーを吸収し、反射・透過を抑制(吸音材や特殊ウレタンなど)

両者は目的が異なり、一般的には
– 外部との隔離には遮音
– 室内の余分な残響やこもり感の消去には吸音
と使い分けます。

高級車ではさらに「制振」=振動を抑える材料・構造を追加し、ハイトーン・ローエンド両方のノイズ管理を高度に実現しています。

昭和時代から続く「遮音吸音」現場の知恵

自動車業界で「静粛性」が商品価値となったのは1970年代のオイルショック&高級車ブーム以降です。

しかし現在でも、多くの現場には昭和のモノづくり気質、「実際に音を聞き比べ、目で見る」アナログな試行錯誤が根強く残っています。

職人の耳と五感が活きる現場

例えば、ドア内部の吸音材を貼る位置ひとつ取っても、設計図通りだけでは最良とは限りません。

現場の職長や技能者が
「こっちに厚みを出せば嫌なビビり音が消えるな」
「この小さな穴を塞いだほうが風切る音がピタリと止まる」
といった、五感と経験値に基づく地道な調整が、今も品質差を生んでいます。

特に車種がモデル末期を迎えるにつれて、「同一図面でもパーツ部品や工法バラ付きによる音質差」を現場の手で補正する文化は色濃く残っています。

「現合(げんごう)」という文化

現場主義が色濃い自動車業界では、設計図どおりの工法で目的が果たせない場合、「現合」と呼ばれる手法があります。

これは「実際の部品、実際の現場で音や質感を見て微調整→最適を再設計」という、設計/生産/品質が三位一体で取り組んで解決する昭和時代からの伝統です。

IT化が進む現代でも、「現合で仕上げないとバイヤーからOKが出ない」といった現象はまだまだ日常茶飯事と言えます。

一方、デジタル解析ツールの導入が急速に進みつつあり、このアナログ技術との融合が今後のカギとなっています。

自動車設計における遮音吸音の基礎

どのように「静かさ」「美しい音色」を設計・現場で実現するのか、その基本を解説します。

素材選定と構造設計のポイント

自動車の遮音・吸音でよく用いられる素材は、以下のようなものです。

・厚板鉄(ドア、フロアパネルなどの遮音板)
・高密度吸音フォーム(エンジンルーム/ダッシュボード裏/客室天井)
・断熱・遮音シート(フロアマット下面、ホイールハウス)
・ビチューメン系制振材(ドアパネルやルーフ裏)
・カーペット&フェルト材(床、フロアサイド)

これら素材の配置・厚み・貼り方を最適化し、「コスト/重量/安全/耐久」のバランスで商品開発がなされています。

特に最近はEV(電動車)普及によってエンジン音が減少し、「かえってロードノイズ・モーター音が際立つ」という課題が表面化。
既存素材の“貼り増し”だけでは解決できないため、新素材開発や構造改革も活発化しています。

「選ばれる車」の音づくり

ドアの開閉音や、エンジンルームからの僅かな唸り音――これらは「ブランド音」として各社明確なチューニング指標を設けています。

通常は座席位置での「静かさ」だけでなく
– 音の粒立ち
– 音場の広さ
– 不快な周波数帯の抑制
など、“音の質”に注目した設計と評価が不可欠です。

最近ではAIを活用した「快音シミュレーション」で、設計段階から音色まで再現し、試作レス(小規模試作)の効率化も進んでいます。

車内騒音対策の最新応用例

ここからは、実践現場の視点で見た、車内騒音対策の効果的アプローチ事例を紹介します。

1. マルチレイヤー・グラスの採用

高級セダンやSUVの分厚いフロントガラスは、二重・三重の合わせガラスになっていることが多いです。

これにより、風切り音と外部ノイズの大部分を物理的に遮断。
内外音圧差を確保しながら、「室内に必要な音情報」だけはしっかりと通すテクノロジーが進化しています。

2. アクティブノイズコントロール(ANC)

従来の遮音材では抑えきれない低周波ノイズには、「逆位相音」をスピーカーから出すANCが大きな武器となっています。

これは車内のマイクで騒音成分を検知し、コンピュータが即座に“打ち消し効果”のある音を発生。
物理的な静粛性と、デジタル制御による快適化が両立される例です。

ただし、車種・音響空間ごとに綿密なチューニングと検証が必要です。

3. 路面ノイズへの「ローコスト」対策

全ての車種、グレードで高級素材を導入するのは現実的ではありません。

現場の知恵としては「ドア中空部に安価なエアセル(発泡材)をピンポイント配置する」「ホイールハウス裏に厚手フェルトを追加する」など、ローコスト工夫が多く用いられます。

また、車体シールの打ち方一つにも、現場検証で得られるノウハウが詰まっています。

4. EV/HEV独自の新課題とすり合わせ

EV・HEVでは、エンジン騒音がない代わりに「モーター音や周波数の違う機械音」「高圧インバーター独特のノイズ」が顕著に聴こえるという課題が急激に浮上。

これに対しては、通常の吸音・遮音材だけでなく
– バッテリーパック周辺の発泡遮音材
– 配線経路の共振対策
– 特定周波数帯に効く特殊パット追加
など、従来にないノウハウがサプライヤー・OEM問わず争点になっています。

バイヤー/サプライヤー視点で見る遮音吸音ビジネスの今

自動車製造現場では、バイヤー(調達・購買担当)がサプライヤー(部品メーカー)に
– どこまでの性能保証を求めるか
– コスト上限
– 計測・検証手法(現物かデータか)
を明確に伝達することが非常に重要です。

現場目線では実際にサンプル評価し、
「手で触った、耳で聴いた、現車で走った」
という実体験ベースで安心する昭和型が主流です。

しかしグローバル化・開発工程の効率化が強く求められる今、バイヤー側にも
– データ解析で“遮音効果”を数値化して比較
– 材料仕様と車両全体性能のトレードオフ判断
– 海外サプライヤーに分かりやすく要件指示する力
が不可欠となっています。

サプライヤーも
– 単なる“素材納入”から、“音パッケージ提案”への脱皮
– データにもとづく機能保証と現場での調整体制
– 商品開発段階からの早期参画
=提案型ビジネス
がより重視される時代です。

まとめ:アナログ×デジタルと現場感覚を両立する新時代へ

自動車の遮音吸音は、今なお「人間の五感」に立脚したアナログな現場力と、AI解析・デジタルツールによる高度なシミュレーションの融合が進行中です。

現場では細かな気付き・実地検証が最適品質の生命線です。
一方で、コスト・開発スピード・グローバル対応には確実な数値化・標準化思想が不可欠です。

自動車の「音」は、単なる騒音対策に留まらず、「ブランド個性」や「運転して楽しい・快適」体験を提供するための重要な要素へと進化を遂げています。

これからバイヤーやサプライヤーを目指す方は、五感に根ざした現場哲学と、最先端技術・ビジネス志向の両輪を大切に磨いていくことが、業界の未来を拓く大きな武器となるでしょう。

自動車の遮音吸音技術は、これからも深化し続けます。
ぜひ、現場の手ざわり感と、柔軟な発想、そして新たな技術を武器に「あなたらしい価値の創造」に挑戦してみてください。

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