技術者に必要な技術マネジメントとマーケティングの基礎および優秀な人材育成法

技術者に必要な技術マネジメントとマーケティングの基礎

製造業における「技術者」のこれからの役割

製造業の現場で長く働いていると、技術者とは「ものづくりのプロフェッショナル」としてのイメージが強くなりがちです。

しかし、現代の製造業は今や「高い技術力」だけでは生き残れません。

顧客ニーズの多様化、グローバル化、サプライチェーンの複雑化、さらにはIoTやAIを活用したスマートファクトリー化など、新しい時代の変革が絶えずやってきます。

こうした時代背景の中、製造業の技術者には「現場力」だけでなく、「経営的な視点」や「マーケティング思考」を持つことが強く求められています。

技術マネジメントの基礎：コスト・品質・納期の最適化

技術マネジメントの基礎は、いわゆるQCD（Quality／Cost／Delivery）の最適化に集約されます。

QCDは昭和から令和に至るまで、工場現場で語り継がれる絶対的な指標です。

コスト管理一つ取っても、単純に原材料費や労務費を下げるだけでなく、全社的な視点でのコスト低減や、バリューチェーン全体の効率化など、ラテラル（水平）な視点が不可欠です。

また、品質についても、単に「不良を出さない」＝ゼロディフェクトに留まらず、顧客満足まで視野を広げる必要があります。

故障時の迅速な対応やアフターサービスを含め、トータルでの品質保証が重要視されています。

納期管理は、「絶対に遅れない」だけでなく、需要予測や生産調整など、先を読むマネジメント力が要求されます。

最新のERPや生産管理システムを導入する現場が増えていますが、その本質は「いかに現場と情報システムを一体化して動かすか」にあります。

アナログ業界こそ「横断的」な知見を持つべき理由

昭和の時代から根強い「現場の勘」や「長年の経験」に依存した業界文化も、今後は見直しが必要です。

たとえば購買調達分野では、限られたサプライヤーと長年の付き合いを続けるだけでなく、リスク分散やサステナビリティ調達、地政学リスクへの対応など、より多元的な判断軸が求められています。

また、人材活用でも、ひとりの職人気質に依存する体質から脱却し、知識を「組織の資産」として共有・伝承する体制が必要です。

デジタルツールを使いこなす新世代技術者が台頭する一方で、アナログの知見を持つベテラン技術者の経験も見直されています。

真に強い現場とは、こうした両者の知恵が融合することで生まれます。

技術者に必要なマーケティング思考とは

技術者と経営の壁を壊す：マーケティングを“自分ごと”にする

日本の製造業では「マーケティング＝営業や企画の仕事」と思われがちですが、実際には技術者がマーケティング視点を持つことは不可欠です。

なぜなら、本当の“ものづくり”は「顧客の課題を解決するプロセス」そのものだからです。

顧客が「どんなペイン（困りごと）を抱え、何を求めているのか」「自社の技術でどんな新しい価値を提供できるか」を常に考える必要があります。

海外市場では、技術者が顧客と直接対話し、仕様決定からプロトタイプ開発、量産化までリードするケースも珍しくありません。

これはグローバル化が進む日本の製造業でも、今後さらに求められる姿勢です。

バイヤー・サプライヤー両面から見た「交渉力」

技術者は時として調達購買の現場に立ち、サプライヤーと直接交渉を行う場面も多くなっています。

このとき、技術的な知見だけでなく、マーケティングやビジネス全体の流れを俯瞰する力が不可欠です。

例えば原材料の値上げ要請や、納期の厳しいプロジェクト対応など、バイヤー（買い手）とサプライヤー（売り手）の立場が逆転することもあります。

また、近年は「サステナビリティ」「サプライチェーンの透明性」といった要求も増えています。

こうした時代では、単なる「値切り」や「品質チェック」でなく、「共に価値を創るパートナーシップ」を築ける人材が重視されます。

製造業バイヤーが重視するサプライヤー評価ポイント

ここでサプライヤー側の視点に立って、製造業バイヤーがどのような基準で取引先を評価しているかをまとめます。

– 供給の安定性（納期・品質の安定度）
– 技術力（提案力や自社開発力）
– コスト競争力
– サステナビリティ・コンプライアンス対応
– 迅速なトラブル対応／柔軟性

こうした点を理解し、サプライヤー自身がバイヤーの期待値・ニーズを的確につかむことが、競争の激しい調達市場で生き残るカギとなります。

優秀な技術人材の育成法

現場×経営の架け橋を担う人材の育て方

優秀な技術人材には「現場感覚」と「経営・マーケティングの視点」を両立できることが求められます。

具体的な育成ポイントをご紹介します。

OJTとOff-JTの融合によるスキル強化

現場でのOJT（On the Job Training）は、現実のものづくり課題を解決しながら、実践的な技術力を養ううえで欠かせません。

さらに、近年はOJTに加え、外部研修や社内勉強会などのOff-JT（Off the Job Training）も不可欠です。

たとえば、品質工学や生産管理、市場分析、グローバル人材育成など、座学やワークショップ型の学びも重要になっています。

こうした現場と座学・理論をバランスよく組み合わせることで、従来の「経験至上主義」を乗り越え、知識の標準化・組織化が促進されます。

ローテーション・ジョブ型配置で視座を高める

生産現場だけでなく、購買調達や品質管理、企画部門、マーケティング部門など、多様な部門を横断して経験することは、人材育成上とても大切です。

職種や役割を超えた経験は、「全体最適視点」や「他部門との連携力」を育て、経営者的視野を持つ“次世代リーダー”の土台となります。

特にバイヤーを目指す方や、サプライヤー・製造現場の方は、意識的に異部門プロジェクトや全社横断会議などに参加することをおすすめします。

デジタル活用とアナログ知見の融合を目指す

AIやIoTの普及など、製造現場にもデジタル変革の波が押し寄せています。

一方で、長年培われてきた「アナログ技術」や「匠の知見」を軽視すべきではありません。

本当に優秀な技術者は、ITツールやデータ分析を武器としつつ、現場の暗黙知やノウハウも継承する「越境的な人材」なのです。

これからは、世代や役職を超えたメンタリング（師弟制度）やナレッジシェアなど、「学び合う組織文化」が鍵となります。

評価制度の見直し：挑戦と失敗を称える風土づくり

優秀な技術人材を育てるには、「新しい挑戦」や「失敗からの学び」を高く評価する組織風土も不可欠です。

例えば新製品開発にチャレンジし、うまくいかなかった場合でも、その過程や学び・改善点、発想力をしっかり評価しましょう。

「失敗は許されない」「前例主義ばかり」という風土では、現場が委縮し、創造力や問題解決力が育ちません。

上司や管理職が率先して「挑戦を称え、失敗を許容し、ナレッジとして全社へ共有する」ことが、優秀な技術者を引き寄せます。

これからの製造業人材に求められる「地平線を切り拓く力」

製造業の現場は、デジタル化、グローバル化、持続可能性の追求など、従来にない激しい変化の渦中にあります。

昭和のアナログ現場で学んだ知恵を大切にしながらも、柔軟にデジタルや経営思考を取り入れる“ラテラルシンキング（水平思考）”が、これまで以上に重要です。

バイヤー、サプライヤー、技術者、管理職など、それぞれの立場で世代や部門、国境を越えて「知のネットワーク」を築き、新しい地平線を共に切り拓いていきましょう。

製造業は人材の底力がすべてです。

「現場力＋経営・マーケティング力＋挑戦を称える社風」の三位一体で、業界の未来を共に創っていきましょう。