投稿日:2025年6月12日

テラヘルツ波の基礎とセンシング・イメージングへの応用・例

テラヘルツ波とは何か?基礎知識と特徴

テラヘルツ波は、近年そのユニークな特性から産業界や研究分野で注目を集めている電磁波の一種です。
英語では“THz wave”、もしくは“terahertz wave”と呼ばれるもので、その周波数は0.1THz(テラヘルツ:1兆Hz)から10THz程度の範囲に位置します。
この領域は電磁スペクトルの中でマイクロ波と赤外線の間にあり、いわゆる「テラヘルツギャップ」とも呼ばれています。

テラヘルツ波の利点としては、以下の点が挙げられます。

– 多くの物質を非破壊・高感度で透過や観察が可能
– X線と異なり人体や材料へのダメージが少ない
– 水分や有機物、プラスチック、繊維などの分析に適する

一方で、電波とも光とも異なるため制御や発生、検出の難しさが長らく技術的な課題とされてきました。
しかし近年の半導体技術の進歩や、レーザー技術の発展により、産業用途への適用が加速度的に拡大しています。

テラヘルツ波センシング・イメージングの基本原理

テラヘルツ波センシングの仕組み

テラヘルツ波センシングとは、物体にテラヘルツ波を照射し、その透過や反射、吸収スペクトルを解析することで、材料の性質や組成、形状、構造異常などを非破壊で検出する技術です。
特に注目されているのは、可視光では見えない内部構造のイメージングや、成分分布の解析ができることです。

例えば、食品や医薬品、樹脂製品の内部に混入した異物や欠陥検出、あるいは水分量の分布計測など、幅広い応用が期待されています。

イメージング技術の進化

テラヘルツイメージングは、X線CT画像やMRI画像のように2次元・3次元で材料内部を可視化できます。
これは、材料内部を通過したテラヘルツ波を検出し、その強度や遅延時間(タイムドメイン信号)情報を画像化するもので、非破壊検査や異物・欠陥検出には不可欠な技術です。

また、テラヘルツ波は分子振動や回転に共鳴しやすいという特性があります。
そのため、材料や成分ごとの「指紋スペクトル」を利用して成分分析が行える点も大きな強みです。

製造業現場でのテラヘルツ応用事例

1. 樹脂・プラスチック製品の異物混入検査

従来、目視検査やX線検査が主流でしたが、X線は金属異物しか検知できず、目視では内部混入は見逃しやすい課題がありました。
テラヘルツ波イメージングを導入することで、金属だけでなくゴム片やプラスチック片、有機物異物などの早期発見が可能になり、製品安全性と品質保証レベルが向上します。

2. フィルムや多層構造材料の厚み・接着強度評価

食品包装や半導体プロセスのフィルムで、各層の厚みや接着不良を非接触・リアルタイムで検査できるのがテラヘルツ波の特長です。
可視光や赤外線では難しい多層構造の分離と形状注釈ができ、省人化や工程自動化へも大きく貢献します。

3. 医薬品のコーティング検査・異物解析

錠剤コーティングの厚みや均一性、不良カプセル内の異物検出など、非破壊で短時間に全数検査が実現できます。
また、混合・圧縮不良などの工程異常もテラヘルツ波によるイメージングで発見し、工程改善のフィードバックが可能です。

4. 高度なセキュリティ・異物検査(空港や物流現場)

テラヘルツ波は、衣服や包装材を透過しつつ金属・非金属・有機物を高感度に識別できるため、高度な異物・危険物検知に期待されています。
既存のX線に比べ安全性が高く、人体に無害なことも大きな利点です。

アナログ業界での普及課題と昭和な現場とのギャップ

新技術への“懐疑”と“惰性”

製造業の現場、特に昭和世代から続くアナログ産業では「これまでのやり方」にこだわる傾向が根強く残っています。
新技術導入にはコストと工数、教育投資が必要で、「壊れていないものを無理に変える必要はない」という空気が往々にして支配的です。

しかし、市場ニーズが多様化・高度化し、不良品の流出やリコールリスクの増大、技能継承難による検査品質のばらつきが顕在化している今、現状維持では企業の競争力が維持できません。

テラヘルツ波導入の障壁

テラヘルツ波技術のコストはかつて高額でしたが、近年は機器の小型化・低価格化、多機能化が急速に進んでいます。
とはいえ、現場への導入ハードルは依然として高く、主な理由には以下が挙げられます。

– 既存検査機器との連携経験や情報が少ない
– 操作・保守のノウハウ不足
– 測定データの解釈・分析リテラシーのギャップ
– “工場全体最適”より“現場の手習い優先”志向

そのため、機器メーカやSIerは実際の現場を熟知した提案や、ROI(投資対効果)を明確に示すことが求められています。

バイヤー・調達担当者が注目すべきポイント

バイヤーや調達担当者は、テラヘルツ波関連設備導入時に次のポイントをチェックすることが重要です。

– 検査・イメージング対象物とテラヘルツ波技術との適合性(透過可否、解像度)
– 現場オペレーターの負担増減(実運用の容易性、データ処理の難易度)
– 投資回収期間とトータルコスト(初期導入費用・ランニングコスト)
– メンテナンス体制や保守部品供給の安定性
– KPI(品質不良率/検査スループット/省人化率等)の変化予測

また、ベンダー選定時には、単なる“カタログスペック”比較に留まらず、実際の現場での検証や、ユーザー事例を積極的に参照することが重要です。

ラテラルシンキングで考察する、テラヘルツ波の未来

伝統的な製造現場では「テラヘルツ波=コストが高い特別な技術」と捉えがちですが、DX時代の今こそ逆張り思考やラテラルシンキング(横断的思考)が武器になります。

例えばテラヘルツ波イメージングは、検査だけでなく下記のような用途へも応用が考えられます。

– 生産ラインの“健康診断”や“未然防止”
– サプライヤ間・顧客間での品質トレーサビリティ確立(共通プラットフォーム化)
– 工程改善や省エネ化のためのデータ分析との連携
– 新素材・新製品開発での物性評価プラットフォーム

一社単独の導入ではROIが見合わなくても、サプライチェーン全体で共通化・共用設計することで業界自体の生産性向上や、不良低減、リコールリスク低減など、劇的な経営インパクトも期待できます。

まとめ:製造業が一歩先を行くために

テラヘルツ波は「見えなかったものを見える化」する革新的な技術です。
そのポテンシャルは品質管理・検査分野にとどまらず、設備保全、製品開発、取引透明化など、製造業全体の“攻め”と“守り”の両輪で大きな武器となり得ます。

変化を恐れず、全体最適・本質思考で現場とバイヤー・サプライヤーが共創していくことで、「昭和から令和」への一歩を確かなものとできるでしょう。
次世代のものづくりを担う皆さまが、テラヘルツ波の可能性を先進的に活かし、さらなる現場力向上・産業発展に寄与されることを心より期待しています。

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