投稿日:2025年6月12日

電子機器における熱設計の基礎と熱対策のポイント

はじめに:電子機器における熱設計の重要性

電子機器の進化はめざましいですが、その進歩と比例し、発熱量も年々増加しています。

高性能化に伴う発熱は、半導体や基板、筐体内のさまざまな部品に悪影響を及ぼし、故障や寿命低下の原因となりかねません。

特に製造現場では、計算上の熱設計を実現するだけでなく、実際の運用環境やメンテナンス性、コストパフォーマンスにも配慮する必要があります。

本記事では、現場で即役立つ実践的な熱設計の基礎知識と、業界で今も根強く続くアナログ的な対応にも目を向け、熱対策において押さえるべきポイントを解説します。

熱設計の基礎知識

電子機器の発熱源とは

電子機器において主な発熱源となるのは、CPUや各種IC、電源ユニット、抵抗器、トランス、モーターなどの部品です。

これらの部品は、電力を消費する過程で必ず熱を生じます。

放熱せずに熱がこもった場合、温度上昇により部品の劣化や誤動作を引き起こします。

故障率は温度と強く相関するため、適切な熱設計は安定稼働と長寿命化の鍵になります。

熱伝達の基本:伝導・対流・放射

熱の移動には「伝導」「対流」「放射」の3つのメカニズムがあります。

電子回路設計の現場では、これらをいかに効率よく利用し、各部品の温度上昇を最小限に抑えるかがポイントです。

– **伝導**:部品から基板、筐体へ熱が直接伝わる現象。熱伝導率の高い素材選定や実装方法が重要です。
– **対流**:空気や水など流体によって熱が運ばれる現象。自然対流と強制対流(ファン等利用)があります。
– **放射**:赤外線など目に見えない電磁波による熱移動。筐体材質や塗装も影響します。

熱設計プロセスの基本ステップ

熱設計は、実際の製品仕様・使用環境に合わせて段階的に進めます。

1. 部品単体やシステム全体で発生する熱量(消費電力換算)を積算します。
2. ケースや筐体のサイズ・形状、換気口の有無、部品の配置案を作成します。
3. 必要に応じて熱伝導解析や熱流体シミュレーション(CAE)で予測値を算出します。
4. プロトタイプを作成し、実測で温度分布を確認。必要に応じて対策案を追加・修正します。

このプロセスを繰り返して製品の信頼性と品質を高めていきます。

電子機器の熱対策ポイント

自然放熱と強制冷却の選定

アナログ的な要素が今も根強いのが、この「放熱方法の選定」です。

1W未満の超小型機器やデジタル表示器などは、放熱板や筐体の穴あけによる自然放熱が主流ですが、近年は小型化+高性能化のトレンドで、自然放熱だけでは追いつかない事例も増えています。

5W以上、特に20W超の消費電力となると、強制空冷ファンやヒートシンク、ヒートパイプ、さらには水冷なども選択肢に入ってきます。

ファンの選定では単なる風量だけでなく、騒音、振動、メンテナンス可否(交換のしやすさ)、寿命など複合的に現場目線で判断することが求められます。

ヒートシンク・ヒートパイプ活用の現場ノウハウ

昭和の時代からメーカー現場で受け継がれてきた「ヒートシンク選定」は、単に大きいほど良い、というものではありません。

– 熱抵抗値(K/W)を仕様から逆算し適正サイズを選ぶ。
– 熱源との密着性を高めるため、サーマルパッドやグリスの使い方を徹底する。
– アルミ製シンクが主流ですが、銅タイプへの切替時はコストと質量増を慎重に調整する。

ヒートパイプは高効率ですが、レイアウト次第で効果が大きく変わるため、3D CADや実測結果と付き合わせて設計段階から現場作業者を巻き込むのが成功の秘訣です。

筐体設計の盲点〜現場で起きる「風の通り道」問題〜

現場でもっとも見落とされがちなのが筐体内部の風の通り道です。

図面・コンセプト段階では良いが、実装時に意外な空気の流れが妨げられ、スポット的な過熱が起きる事例が絶えません。

– 配線やケーブルの取り回しで風道をふさいでいないか
– 基板固定用スペーサーや補強板が「風止め」となっていないか
– ドアやカバーの僅かな隙間から局所的な吸気または排気漏れが発生していないか

このようなアナログ的ジョブも、実際に工場の現場での立ち合いや配線作業を観察して初めて気づけるものです。

実測とシミュレーション:最適解を追求する

熱シミュレーションの活用と限界

CAEによる熱流体解析は、部品の発熱予測や最適な配置案の可視化に大いに役立ちます。

しかし、
実際の現場では想定外の要因(ホコリ、外気温、棚とのスキマ、保守作業の都合)で計算通りに行かないこともしばしばあります。

現場では、

– プロトタイプ機に熱電対センサーやサーモカメラを設置し、実力値を採る
– 特定日(高温多湿日や空調停止中)を狙った実環境テストを実施
– 工場のオペレーターやメンテナンス員の声を吸い上げ、地道にデータを蓄積

このような「シミュレーション+現場実測+ヒヤリハット」の3つを融合した対応が最も高い品質を生み出します。

サプライヤー・バイヤー視点から見る熱設計

バイヤーが重点を置くポイント

サプライヤーとして納入部品に熱対策の工夫を持ち込みたい場合、バイヤー(調達購買担当者)が気にする基準を踏まえることが重要です。

– コストは見積書で明快に(熱対策による単価UP理由も明示)
– メーカー保証条件(例:最大周囲温度や取り付け時の熱解放制限)
– 交換部品の可用性(消耗品の明示、メンテナンス性)

現場目線の分かりやすい提案資料、導入後のトラブル例と対策実績、実測データや現場レビューの実例があれば、バイヤーの信頼度が一気に高まります。

過剰設計・過少設計のリスクと適正化

バイヤーが悩むのは、しばしば「過剰設計によるコスト高」「過少設計による故障率増加」です。

現場では、

– 保守部の視点:消耗部品(ファン等)が「手が届かない」設計の見直し
– 品質部の視点:保証温度超過による故障クレーム分析
– 生産管理の視点:熱対策パーツ納期・在庫の最適化

といった部門横断的な最適化が求められます。

製品のターゲット市場や使用環境(室内/屋外、高温多湿/寒冷、高度差)による熱設計ランク区分も、市場ごとに再整理することが大切です。

新しい地平:DX+IoT時代の熱管理

近年は工場のIoT化やDX(デジタルトランスフォーメーション)による「熱管理のスマート化」も拡大しています。

– センサーとネットワークを活用し、リアルタイムで各部の温度やファン回転数を監視
– 予兆保全(異常温度急上昇時のアラームや自動減速)
– データ蓄積による長期推移分析、予防整備への応用

これらは先進的な取り組みと思われがちですが、実際は、手持ちの安価なIoTセンサーを流用した「お手製の温度監視システム」でも十分成果が出ています。

今あるアナログ的工夫+デジタルを刺し込むラテラルな発想が、業界の熱問題のブレイクスルーにつながると考えています。

まとめ〜現場と未来をつなぐ熱設計の“攻めと守り”

電子機器の熱設計は、単なる理論やCAEの範囲を超え、アナログな現場感覚と深く結びついています。

「見える化」「実測」「現場フィードバック」こそ、熱設計の最重要ポイントです。

サプライヤーやバイヤーとしては、顧客や現場の声に真摯に耳を傾け、コスト・性能・信頼性のちょうど良いバランスを常に意識しましょう。

そして、IoTやDX技術も積極的に取り入れつつ、現場の知恵とうまく融合させることで、製造業の新たな地平線が切り開かれるはずです。

温度管理は地味ですが、製造業の“未来を守る”最前線。今こそ主体的に取り組みましょう。

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