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熱疲労高温疲労の基礎とクリープ疲労設計手法および強度評価事例

目次
はじめに
製造業の現場では、製品が実際に使用される過酷な環境下でいかに安全かつ長寿命であるかが常に問われ続けています。
特に高温環境下で長期間稼働する設備や部品においては、「熱疲労」や「高温疲労」、さらに「クリープ疲労」といった現象が大きな課題となります。
こうした疲労現象を十分に理解し、設計段階から確かな手法で評価・対策を講じることが、安定した生産活動やコスト低減、安定供給の実現に欠かせません。
本記事では、これら三つの疲労現象の基礎知識と、最新の設計手法、評価事例について、実践現場で培った知見を交えながら詳しく解説します。
製造業の現場に従事する方や調達・購買に関わる方はもちろん、バイヤーの立場からサプライヤーの技術力・リスク管理力を見極めたい方にも有益な内容となっています。
熱疲労・高温疲労・クリープ現象とは何か
熱疲労(Thermal Fatigue)の基礎知識
熱疲労は、製品や構造体が繰り返しの加熱・冷却サイクルを受けることで生じる損傷現象です。
これは、自動車エンジン、ボイラー配管、化学プラント設備など、実に多くの製造現場で生じる典型的な問題の一つです。
特徴的なのは、温度変化による体積や長さの膨張・収縮が周囲と制約された場合、材料内部に大きな熱応力が発生し、これが繰り返されることで微小な亀裂が生成・進展。
ついには破断に至る点です。
<現場要点>
昭和から現在まで各種プラント、耐火部材、高温環境下の配管において、繰り返し停止・再起動する運転条件がメンテナンスに大きな負荷を与えています。
アナログ運転管理全盛時代から、熱疲労のクラック管理は本質的な現場課題でした。
高温疲労(High-Temperature Fatigue)とは
高温疲労は一般的に材料が再結晶温度以上、すなわち500〜700℃程度の高温域にさらされた状態で繰り返し荷重を受けることによる疲労破壊を指します。
この温度領域では材料内部の変形機構が低温時とは異なり、クリープと呼ばれる時間依存変形とも複合化するのが大きな特徴です。
<現場要点>
ガスタービン、蒸気タービン、発電所配管等では半世紀前からこの高温疲労対策が難題でした。
応力集中部や溶接部近傍での損傷リスクが高く、試験体での耐久データと実機環境でのギャップが課題として顕在化しています。
クリープ(Creep)とクリープ疲労の特徴
クリープは、高温下で一定の応力が加わると、時間とともに材料が塑性流動し続ける現象です。
主に高温部材の長期間使用と密接に関係しており、最大の特徴は「破断まで数千時間〜数万時間かかる長寿命破壊」という点です。
実際の工場運用では、長期運転中の圧力容器や配管でのクリープ破断事例が耐久性設計不十分さの象徴ともなっています。
近年はこのクリープ現象とサイクル荷重(疲労)が合わさる「クリープ疲労(Creep-Fatigue)」の問題が強調され、複合損傷モデルの導入と評価技術が欠かせません。
熱疲労・高温疲労・クリープ疲労が発生するメカニズムと現場課題
メカニズムの違いと混同しやすいポイント
熱疲労は「温度差による応力」が原因、高温疲労は「高温・繰返し荷重」、クリープは「高温・一定応力」――このような整理は基本ですが、実稼働条件下では、往々にしてこれらが複合して現れます。
例えば、
・夜間停止・朝方再起動で高温部材が加温・冷却し熱疲労
・加熱運転中の振動等による高温疲労
・高温・高圧下の長期運転中でクリープ進行
・加温・加圧・荷重変動すべてが作動する複合現象
といった具合です。
現場でのトラブル対応・経年劣化の解析には、個々の損傷モードの識別はもちろん、複合劣化がどのように顕在化するかまでを考慮したアプローチが求められます。
現場で目にした典型トラブルとアナログ時代の苦労
私が現場で経験したケースで言うと、蒸気配管のフランジ部で高温疲労起因の亀裂が発生し、夜間停止・始動を繰り返すたびに少しずつ進行、初見では「熱疲労クラック」と誤診されやすかった事例があります。
また圧力容器内部の微細なキー溝部で、長期間のクリープ変形と繰返し荷重が重なり、不具合判明時には再生工事が難航したこともあります。
デジタル管理台頭前、現場帳票や予知保全のデータも不十分であったため、現象の確定や設計妥当性の検証に膨大な時間とコストがかかっていました。
クリープ疲労設計手法の最前線
安全率任せから科学的設計への転換
昭和時代の設計では、「安全率」を多く見積もった大げさな寸法や保守的な材料選定が大多数でした。
しかしグローバル競争が激化、多品種少量化、サプライヤーへのコストダウン要請が進む今、
科学的根拠に基づく「必要十分な強度評価」が必須となっています。
現代の設計要点:「設計疲労強度」と「クリープ耐久性」
1. 設計疲労強度
各種材料試験(ロータリー曲げ疲労、引張疲労、面外疲労)や、FEM(有限要素法)解析による応力分布評価が基本です。
溶接部や機械加工部など、応力集中しやすい部位は特に低減係数を適用します。
2. クリープ耐久性評価
標準的には、高温下で数百〜数千時間の持続応力をかけたクリープ破断試験データを応用します。
これをラルソンミラー法、時間-温度パラメータ法(例えばNIMS Creep Data Sheet)により、設計寿命方向へ外挿して評価します。
3. クリープ疲労(複合損傷)設計
設計現場では、
・疲労損傷度(疲労評価係数)
・クリープ損傷度(クリープ破断時間/設計寿命)
を個別算定し、合算または複合則(例えば「ライナー則」)でトータル損傷度を管理するのが定石です。
材料選定と調達・購買の視点
バイヤーとしては、部品・素材を調達する際に、サプライヤーの強度データ・社内規格がクリープ疲労評価までカバーできているか、第三者認証(ISO、JIS、ASMEなど)が取得されているかを見極めることが重要です。
またサプライヤーの現場担当者には、「うちのお客さんは何年・何度・どれだけ稼働させる想定か」を必ず確認し、全寿命期での安全性・信頼性を証明できる材料を選ぶ必要があります。
現場での強度評価事例/解析事例
配管部材の応力解析事例
某発電プラントでの高温蒸気配管(600℃級)において、運転サイクルごとにFEM解析で熱応力・機械的応力を可視化。
計算結果として、
・繰返し荷重下での熱疲労クラック発生位置
・溶接部近傍でのクリープ損傷集中
が判明。
設計変更時には、応力集中部形状を見直すことで設計寿命が大幅に延伸できた事例があります。
熱交換器チューブのクリープ破断寿命推定
過去20年の運転履歴から温度データ・負荷履歴を整理し、クリープ破断試験データと照合。
NIMSのクリープデータシートを活用し、計算上30年の寿命設計を20年経過時点で見直し、定期交換計画が立案されたケースもあります。
工場の自動化と健全性監視(SHM: Structural Health Monitoring)
IoT化が加速する中、最新工場では温度・ひずみセンサーによるリアルタイム健全性監視が一般化しています。
例えば、ボイラーの場合は溶接部ごとにひずみゲージを複数設置、閾値変動時はアラート発報。
このようなデータが蓄積されることで、予知保全や最適交換時期の自動計算が可能となっています。
まとめ:現場目線の疲労設計・評価の進化と今後
熱疲労、高温疲労、クリープ疲労——いずれも製造業現場の“安全大黒柱”といえる基礎物理現象です。
アナログ一辺倒だった昭和世代の安全保守設計から、科学的根拠とデジタル評価技術を融合した現代設計への進化が、これからのグローバル製造業競争を生き残るカギとなります。
現場で働く方には、設計・購入前段階での懸念点洗い出し、サプライヤーへのエビデンス要求が品質・コスト最適化につながります。
また、バイヤーやサプライヤー双方の立場を理解し、現場情報を設計・材料選定に活かしていくことが、製造業全体の進化と競争力の強化につながるはずです。
製造業の発展と、より安全で持続可能なものづくりを目指し、地に足のついた知識と経験を今後も発信していきます。
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