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時系列データ解析モデル化の基礎と予測検証分析への応用

目次
はじめに:製造現場における時系列データ解析の重要性
近年、AIやIoTの進展によって、製造業の生産現場では膨大な量のデータが日々自動収集されています。
設備保全、需要予測、不良品検出、工程最適化など、時系列データを活用した解析は、現場の生産性と品質の向上を大きく左右する時代になってきました。
しかし、実態としては多くの工場が昭和型のアナログ業務にとどまり、データをうまく使いこなせていません。
時系列データの特性や、モデル化の考え方が十分に理解されておらず、最新のAIツールも「ブラックボックス」のまま導入している企業が少なくありません。
そこで本記事では、時系列データ解析の基礎から、実際の現場での効果的な活用、モデル化の進め方、そして結果の検証と業務への反映まで、一連の流れを現場感覚でわかりやすく解説します。
サプライヤー、バイヤー、現場マネジメント、これからデジタルに挑戦していく皆さんの一助になることを願っています。
時系列データの基礎理解:なぜ工場で「時間の流れ」を意識するのか
「カイゼン」現場でも無視できない時間軸
従来のQC活動やものづくり改善活動は、各データ点の高低やバラツキばかりに着目しがちでした。
しかし、例えば温度・圧力・生産量・仕掛品数などは、これらが「どの時刻に・どんな変動で」発生しているかという「時間の並び」が極めて重要です。
時系列データ解析では、連続的に記録されたデータの「変化パターン」や「周期性」「トレンド」「季節性」など、時間軸の情報を活かすことができます。
これらを無視した単純な平均値比較やグラフでは、「本当の異常」「先読みできる兆候」を見落とす危険性があります。
時系列データの主な特徴
時系列データには、代表的に以下の特徴があります。
– トレンド(長期的な上昇・下降傾向)
– 季節性(時間帯や曜日など周期的な変動)
– ランダムノイズ(予測しきれない突発的変動)
– 自己相関(直近の値が次の値に影響する)
これらを正しく理解し、分析やモデル設計に反映させることがカギとなります。
時系列データのモデル化:最も基本的なアプローチたち
1. 移動平均と指数平滑法で「流れ」を捉える
もっともシンプルな時系列解析は移動平均法です。
一定期間の平均値を取り、グラフ化することで、ノイズに惑わされず全体の傾向を把握できます。
もう一歩進むと、指数平滑法(Simple Exponential Smoothing)が有効です。
これは直近のデータほど大きく重み付けすることで、「今の現場の空気感」を敏感に捉えて先読みしやすくなります。
例えば5分前・10分前の温度変動傾向を鋭く反映した指標づくりなど、現場で「何を重視して予測したいのか」という目的を明確にすることが重要です。
2. ARIMAモデルによるモデル化と異常検知
より本格的な時系列予測にはARIMAモデル(自己回帰和分移動平均モデル)が広く使われます。
この手法は、「直近数値(自己回帰)」「過去の傾向の積み重ね(和分)」「ランダム性(移動平均)」をパラメータとして呼び出し、複雑な時系列データの予測に有効です。
たとえば設備の故障発生回数や、ライン上の製品欠陥数などに使い、「通常パターン」と「異常パターン」をあぶり出せます。
現場で多い誤用は、「データを十分に前処理せずにモデル構築する」ことです。
欠損値や極端値が混入していると、予測モデルが正しく学習しません。
最低でも、以下の項目は事前にチェックしましょう。
– 欠測・外れ値・誤入力の補正
– 単位・フォーマットの統一
– 異常値・例外事象の分類(例:緊急停止・メンテナンス日など)
3. ディープラーニング(LSTM・GRU)との付き合い方
近年はLSTMやGRUといった「時系列特化型ニューラルネットワーク」も盛んに使われています。
AI導入のハードルが下がった今、PoC(実証実験)としてSIerやベンダーがこれらの手法を提案することも増えてきました。
ただし現場目線で言えば、深層学習はパラメータが多く、何が原因でどんな出力になっているか「説明性」に乏しい傾向があります。
「なぜ予測値が急に跳ねたのか」「この異常検知の根拠は何か」といった現場からの問いに「AIがそう判断しました」だけでは納得されません。
よって、生産現場では従来モデルとのハイブリッド運用や、AIの「中間層の状態」を簡単に可視化したりと、説明可能性(XAI)にもこだわる視点が求められます。
予測と検証:現場に根付かせるための分析手法と落とし穴
1. モデルの「検証」と「現場運用」の違い
モデルを一度作っただけで終わりではありません。
予測モデルの本当の価値は、「作って検証し、現場で回して修正し続ける」ことにあります。
まずは過去データを一部「検証用(テストデータ)」として残し、どれほど予測値が実観測値と一致しているか評価します。
このときの指標としては、
– MAE(平均絶対誤差)
– RMSE(二乗平均平方根誤差)
– MAPE(平均絶対パーセント誤差)
などがよく用いられます。
複数回トライ&エラーを繰り返し、最適なパラメータを追い込んでいくサイクル(PDCA)が重要です。
2. 生産現場で「活用」されるためのしかけ
ただし、現場で本当に活用されるためには、分析担当やバイヤー部門だけでなく「現場作業者」とのコミュニケーションが不可欠です。
せっかくの高度なモデルも「なぜ警告ランプが急に点灯したのか」「どのさらに現場対応をしたらいいのかわからない」では意味がありません。
現場に予測結果をフィードバックし続け、「モデル原因」と「現場事象」がリンクするよう工夫すべきです。
たとえば、異常値発生時の作業ログやヒアリング、設備操作記録の保管といった「アナログな情報収集」が、分析の次フェーズでは極めて役に立ちます。
3. モデルの陳腐化対策:継続的な評価と改善
生産ラインの保全予測などにモデルを使い始めると、設備の劣化や人員配置の変更で「データ構造」が徐々に変わってくる現象が必ず起こります。
いわゆる“モデルの陳腐化”現象です。
それを防ぐためには、
– 毎月・毎週など定期的なモデル評価(精度・異常検出率の見直し)
– 新パラメータ・新データの追加学習
– 日々変化する現場の声を吸い上げる仕組み
が求められます。
古くなった設計図や材料表を現場で使い続ける危険性と同じで、「定期的な見直し」はデジタルでもアナログでも現場力に必須です。
バイヤー・サプライヤーの立場から見た時系列データ解析の活用
バイヤーの視点:購買・調達業務の最適化への応用
購買や調達業務でも時系列データ解析は多いに力を発揮します。
たとえば部品や素材の購買予測、生産計画に基づく納期調整、価格変動リスクの見える化などです。
数量需給の「山」と「谷」を予測できることで、在庫過多や納期遅延のリスクを抑えたり、ダイナミックなサプライチェーンマネジメントが実現できます。
もちろん、調達先の納入履歴データや市況価格のトレンドも時系列として分析することで「交渉相手の動向」先読みも可能です。
サプライヤーの視点:顧客ニーズ把握と継続提案力の強化
サプライヤーの皆さんにとっても、バイヤー側の時系列データ活用を理解しておくことは大きな武器になります。
品薄・過剰・納入遅延といった需要の変化を「客先もこのように予測している」と察知できれば、自社として余裕を持った生産調整や先手を打った提案活動ができます。
またIoT機器や設備納入後の稼働データを蓄積し、時系列解析モデルで「性能劣化パターン」や「メンテナンスポイント」を可視化し、提案型アフターサービスに活かすなど、単なるモノ売りからの脱却にも役立ちます。
昭和ルールからの脱却:デジタルとアナログの狭間で生きる現場力
製造業では、「紙帳票」や「口頭引継ぎ」による情報伝達、現場勘に頼ったトラブル対応がいまだ根強く残っています。
一足飛びに全自動化・AI化を夢見る前に、現場でしか見えない「生きた知恵」や「人間の目線」をデータに反映させることが肝要です。
たとえば、異常データ検知も「作業員の日報」や「ヒヤリ・ハット情報」をデータと組み合わせることで、ブラックボックスなモデルでは発見できない「現場固有の兆候」を早期に捉えることができます。
昭和から令和へ、デジタルとアナログを融合し、「現場の声」「人の勘」もデータ活用の一部として取り入れる。
これこそが、他工場・他社との差別化になり、現実に根付くDXの第一歩です。
まとめ:時系列データは「人」と「現場」をつなぐ戦略武器になる
時系列データ解析モデル化の本当の力は、単なる数字処理で終わらない「人と現場の知見」を加えることで、予測の精度も使い勝手も数段アップします。
– データ特性の理解と基本モデルの運用
– 検証と現場コミュニケーションによる継続改善
– バイヤー、サプライヤー双方の業務サイクルへの着実な活用
– 昭和アナログ現場での「デジタルとのハイブリッド型」アプローチ
これらを意識しながら、「現場の知恵×時系列データ」の強みを最大限に活かしていきましょう。
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ここから、製造業の新しい未来が始まります。
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