投稿日:2025年10月25日

現地通貨決済と送金トラブルを防ぐための貿易決済実務の基本

はじめに:グローバルサプライチェーン時代の現地通貨決済

製造業のグローバル化がますます進展する中、購買・調達の現場では日常的に海外取引が行われるようになっています。

この流れの中で、現地通貨による決済や、海外送金に伴うさまざまなトラブルに頭を悩ませている担当者は少なくありません。

特に、今なお昭和的なアナログ管理や、属人化した業務フローに依存している企業では、こうしたトラブルが後を絶たないのが現状です。

この記事では、製造業の実務経験をふまえ、現地通貨決済と送金トラブルを未然に防ぐためのポイントを、現場目線で徹底解説します。

また、今後のサプライヤー・バイヤー双方の立場を理解するための視点も織り交ぜて解説します。

そもそも現地通貨決済とは何か

現地通貨決済の仕組み

現地通貨決済とは、海外のサプライヤー(もしくはバイヤー)との取引において、相手国の通貨で代金支払いを行う決済方法です。

例えば日本メーカーが中国の工場から部品を調達する場合、人民元建てで支払いを行うケースなどが該当します。

これまでは米ドルによる決済(ドル建て取引)が主流でしたが、近年は為替変動リスクや流動性、取引コスト削減の観点から、相手国通貨による決済が増える傾向にあります。

なぜ現地通貨決済が増えているのか

現地通貨建てへの移行は、発展著しいアジア新興国、とりわけ中国・タイ・ベトナムなど地場企業との直接取引が増加したこと、ドル高を発端とするリスクヘッジの必要性、そして各国独自の金融規制強化といったマクロ要因が関係しています。

特に昨今の円安環境では、日本側企業にとって為替変動によるコスト増が大きな課題となり、サプライヤーと協議のうえ現地通貨建てを選ぶ事例も増えています。

現地通貨決済のメリットとデメリット

メリット:為替リスクの分散とサプライチェーン強靭化

現地通貨決済の主なメリットは、為替変動を取引時点で確定しやすく、コストコントロールがしやすい点です。

また、現地サプライヤーにとってもホームカレンシーで受け取れる点は資金繰り・会計処理上のメリットがあります。

サプライヤーとの長期的な信頼関係構築、他社との差別化要素にもなり、サプライチェーン全体の安定化に寄与します。

デメリット:送金実務の煩雑さと決済トラブルのリスク

一方、デメリットとしては為替予約や決済手数料、海外送金時の通信文フォーマットの違い、現地規制による受取遅延、送金内容の誤解釈など、業務フローが一気に複雑化する点が挙げられます。

国内業者へ支払う感覚で取引を進めた結果、「着金エラー」「資金ロック」「名義不一致による返金」など、多くの現場トラブルが発生しています。

現地通貨決済における送金トラブル事例と原因

工場・調達現場でよくあるトラブル事例

・【送金先情報の記入ミス】
サプライヤーの銀行名・支店名・口座番号・SWIFTコード等の記入を誤った結果、資金が宙に浮いてしまい、事務局とサプライヤー間で責任のなすり合いになるケース。

・【決済指図書類の不備】
Invoice(金額・通貨単位)、Packing List、B/L(船荷証券)との内容不一致や、必要書類の漏れによる送金保留。

・【現地規制による送金ストップ】
外国為替管理や、不適合通貨での受取不可、受取人側口座種別制限(法人口座限定など)によるトラブル。

・【リフティングチャージ(中継銀行手数料)忘れ】
中継銀行の手数料が予想外に差し引かれ、サプライヤー着金額が注文金額を下回り、追加請求トラブルに発展。

アナログ業界で根強い原因

昭和型の現場では、送金指示書を紙で回覧したり、FAXやメール添付の伝言ゲーム的なやり取りが主流です。

伝票と現場ヒアリングの二重チェックも、悲しいほど形骸化しており、属人的な運用ゆえヒューマンエラーを助長しています。

また、決済センターと工場間の連携不足も頻発しており、現地担当の意思伝達ミスや書類添付漏れが日常的に発生しています。

現地通貨決済を成功させるための実務対策

1. 支払条件と為替リスクの明確化

契約(Purchase Order)締結時点で、支払通貨・取引金額・インコタームズ(ExWorks、FOB、CFRなど)を明確に定めましょう。

ブレが生じがちな為替レートは、「受発注時点」「請求書発行時点」「着金時点」など、どの時点で適用するかを双方納得のうえ明記します。

現地通貨建ての場合は、金融機関でのカバー取引や為替予約の有無、手数料の負担者明示も必須です。

2. 銀行口座情報の二重・三重チェック

サプライヤーから提示される銀行情報(Bank name, Branch name, SWIFT code, Account name and number)はコピー&ペーストで送金指示書を作らず、必ず正規書面を現地担当経由で回覧し、複眼で確認しましょう。

一度旧銀行名や統廃合前の情報で送金し、資金が行方不明…といった事例は後を絶ちません。

ハンコやサイン回覧に頼るのではなく、できれば基幹ERPシステムやマスタデータで一元管理するのがベストです。

3. 書類不備・名義不一致を徹底予防

Invoice、Packing List、送金依頼書の記載内容一致確認は必須です。

特に英語でのやりとりが苦手な現場担当者には、「テンプレート化」「サンプル文書」「チェックリスト運用」など、工夫によるナレッジ共有が有効です。

電子データ管理に加え、英語表記の確認にAI OCR(自動文字読取)を活用する事例も増えています。

4. 送金ステータスのモニタリングと異常時対応プロセス確立

送金依頼→着金通知までの各プロセスは、エクセルやメール、基幹システムで進捗管理を「見える化」しましょう。

海外送金では、都度サプライヤー側で着金確認の連絡を求めることが肝心です。

万が一、資金ロストなど異常が生じた場合に備え、銀行との窓口、対応プロトコル、証憑提出のフローをマニュアル化しておくと安心です。

5. 取引銀行・現地金融機関との情報共有強化

現地通貨決済や複雑な送金スキームでは、取引先の現地銀行・シティバンクやHSBC、各種日本メガバンクの現地拠点など、事前によく情報収集・勉強会を実施することが重要です。

また、近年は情報漏洩に過敏な現地規制やKYC(顧客確認)ルールの強化も進んでいるため、現地サプライヤーとの共同勉強会など、情報アップデートには積極的に取り組みましょう。

バイヤーとサプライヤー双方の視点を持つことの重要性

製造業の国際取引では、「支払い側」=バイヤー、「受取側」=サプライヤーの双方の都合や制約が絡み合い、決済実務に反映されます。

バイヤーの「リスク回避」「正確な着金」「取引コスト最小化」だけを優先すると、サプライヤーは受取条件に不満を抱き、納品遅延や情報伝達のトラブルを招きます。

また逆に、サプライヤー視点で現地通貨や独自フォーマットを押し付ければ、バイヤー側の経理処理・コンプライアンス違反につながることも。

つまり、双方の責任範囲と現場フローを相互に理解し、トラブルポイントを先回りして協议する姿勢が、強いサプライチェーンをつくる土台となります。

コミュニケーションの質的向上が求められる時代

属人的なやりとりだけに頼らず、取引条件や過去のトラブル事例、各国の金融規制の変化など、定期的に「共通言語」で情報交換できる場づくりが不可欠です。

たとえば共同での業務研修、オンサイトMTG、Webシステムへのトラブル情報蓄積といった“ラテラルシンキング”の導入が、地道ながら大きな効果をもたらします。

DX(デジタルトランスフォーメーション)へのシフト加速と今後の展望

現地通貨決済やグローバル送金実務は、これまで「人間の勘」と「経験」と「根性」に頼ってきた部分が非常に多い分野です。

しかし今後は、AIを活用した決済指示書の自動化、ERPと連動した進捗管理、ブロックチェーンによる送金トラッキングやスマートコントラクト活用へと急速にシフトしています。

急激な技術進化に“あえてついていかない”という選択は、取り返しのつかない大損につながるリスクがあります。

現場担当者も管理職も、ラテラルシンキング的な発想で「なぜ今このアナログ運用なのか?」「もっとスマートな選択肢はないか?」と問い直すことが、製造業の競争力維持の切り札となります。

まとめ:実践的な現場力と新たな視点で貿易決済トラブルを防ごう

現地通貨決済と海外送金の現場実務には、昔ながらの手作業や紙回覧が根強く残る一方で、日々求められるグローバル化への適応、新しいデジタル化へのチャレンジが混在しています。

バイヤー、サプライヤー、それぞれの立場で利害調整や情報共有がうまくできないと、ちょっとしたミスが大きな損失や関係悪化に直結します。

過去のトラブル事例を活かして、現場フロー(人・書類・システム)を一つひとつ点検し、ラテラルシンキングで現状をブレークスルーする勇気と仕組みづくりが、これからの製造業には一層重要です。

地道な勉強や情報交換を惜しまない現場こそが、サプライチェーン強靭化とグローバル競争の勝者となることでしょう。

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