投稿日:2025年7月5日

超音波接合固相溶着の基礎と高信頼性製品応用事例

はじめに:超音波接合固相溶着とは何か

超音波接合固相溶着(Ultrasonic Solid-State Welding)は、金属やプラスチックなどの材料を加熱せず、摩擦と圧力、そして高周波の振動を利用して分子レベルで接合する先端技術です。

現場では「超音波溶接」という言葉で呼ばれることも多いですが、実際には接合部が溶融することなく原子が拡散し、金属同士が一体化する”固相接合”を実現できるのが最大の特徴です。

昭和・平成の大量生産期では溶接=アークやスポット溶接という常識でしたが、EVバッテリーや微細部品に代表される令和のモノづくり現場では超音波接合固相溶着が急速に普及し始めています。

超音波接合の原理と特徴

超音波振動による接合メカニズム

超音波接合固相溶着では、20kHz~40kHz程度の高周波振動を電磁変換素子(トランスデューサ)で発生させ、その振動エネルギーを「ホーン」という工具を通して接合したい部材同士の界面に伝えます。

この振動エネルギーは部材表面を急激に摩擦させながら微振動させ、同時に一定の圧力を加えることで、界面の酸化被膜や汚染を機械的に除去します。

結果として、原子スケールで新鮮な金属面が現れ、原子同士が本来持つ金属結合力により、自発的な拡散接合が進行します。

熱を使わない”固相”接合という優位性

溶融を伴わない「固相」接合のため、部材の結晶粒成長や熱膨張、残留応力などの熱影響がほとんどありません。

そのため、Al(アルミ)やCu(銅)といった異種金属の接合や、局所加熱に弱い電子部品、樹脂と金属のハイブリッド接合などにも積極的に応用が進んでいます。

また、固相溶着は母材に最小限のダメージしか与えず、溶接変形や脆弱な接合部の発生を大きく抑えることができます。

従来手法との比較:超音波接合がもたらす進化

スポット溶接・レーザー溶接との違い

一般的なスポット溶接やレーザー溶接は、母材を局所的に溶融して溶けた金属が再凝固する際に一体化する「溶融溶接」方式です。

一見すると強度が高いように見えますが、実際には
・溶接で母材の特性が低下(脆化)
・熱影響による歪みや寸法変化
・アルミや銅など熱伝導性が高い材料での品質不良
・電子部品など熱に弱いものへの適用不可
といった課題が存在します。

対して超音波接合固相溶着は、熱によるダメージゼロで接合できるため、微細化・高密度化・ハイブリッド化が進む現代製造業にとって極めて有効な工法なのです。

設備投資・生産効率の現場インパクト

超音波接合の機械は、従来の大型溶接設備より小型・省スペース・低消費電力です。

数秒単位でサイクルタイムが完了し、加熱や冷却など無駄な工程も不要なため、高い生産性を実現します。

昨今はDX・自動機化の要請もあり、ロボットに搭載したり多関節アームとインテグレーションしやすい点も導入拡大につながっています。

また、ランニングコストでは消耗材がほぼ生じない点も見逃せません。

超音波接合固相溶着の高信頼性製品応用事例

この章では、現場での実践的な事例をわかりやすくご紹介します。

EV車バッテリーのバスバー接合

EVの心臓部ともいえるリチウムイオンバッテリー。内部セル同士や、モジュール間をつなぐバスバー(導体)接合は信頼性最優先の工程です。

従来のレーザー溶接やボルト締結では、
・熱影響による性能劣化
・ボルトの緩みや接触抵抗増加
・振動による断線
などのリスクがありました。

超音波接合固相溶着は、
・アルミと銅など異材同士の強固な接合
・接合時にほとんど発熱しない
・母材の強度/電気伝導性を損なわない
といった利点で、グローバルトップメーカーの多くが「必須標準プロセス」として採用し始めています。

精密電子部品・ハーネス端子の固相溶着

ミリ単位の基板上で数多くのリード線や微細な金属パターンを接続する必要がある基板組立でも、超音波接合は不可欠です。

従来、はんだ付けが主流でしたが、鉛フリー化や部品密度の増大、作業者のスキル依存など、多くの限界が露呈しています。

超音波接合は、接合品質が安定し、ロボットへの実装も容易なため
・高品位な自動化ラインが構築できる
・人件費や技術者不足のリスク低減
・作業者ごとのバラつきが消滅
と、安全かつ安定した工程への置き換えが進んでいます。

樹脂と金属のハイブリッド構造のボンディング

いまや省エネ・軽量化の観点から、樹脂部材と金属部材のハイブリッド化が幅広い分野で進んでいます。

その代表が、樹脂製フレームとアルミ/銅プレートの一体接合です。

従来のボルト締めや接着剤では「ねじ緩み」や「経年劣化」、「応力集中」等の課題がありました。

超音波接合は、局所的に振動エネルギーを与えつつ材料表面を”潰して”一体化させるので異種材料間でも高い追従性・変位吸収・長寿命を発揮します。

自動車部品、パワーエレクトロニクス、医療機器分野などの開発現場で「現実解」として定着しています。

調達購買バイヤーが注目すべき視点

ここからは、調達・購買バイヤーや、サプライヤーとしてバイヤーの視点を知りたい方に向けて、現場目線での「見るべきポイント」を解説します。

信頼性・品質コスト・リードタイムを総合評価

バイヤーとしては、単に設備投資額だけではなく、
・長期安定供給を担保する超音波接合技術の信頼性
・接合品質のトレーサビリティ(データ取り)
・部品の品質ムラや再工数率の低減効果
・歩留まり向上によるコストメリット
・サイクルタイムの短縮による全体納期圧縮
といった多面的な視点からサプライヤーの技術力を評価することが望まれます。

特に電気・電子業界では「溶接不良が一発で過去数千台のリコール原因」になり得るため、過去不良データや設備改造事例、設備メンテナンス体制などもしっかり確認しましょう。

サプライチェーンへの波及効果も視野に

自社だけでなく、サプライチェーン上流・下流パートナーへの技術導入サポート体制も重要です。

昨今のEVや半導体装置業界では、素材メーカーからモジュールアセンブリまで一貫して超音波接合が求められるケースが増えています。

円滑な技術共有体制や異常時のトラブル対応能力、納入時のトレーニングパッケージ等も評価ポイントとなります。

超音波接合技術への投資がもたらす未来

カーボンニュートラル・省エネ・高信頼性化を加速

固相接合は、
・最小限のエネルギーで高強度接合
・材料ムダ・廃材削減
・加熱不要によるCO2排出抑制
・高強度接合で軽量化・省資源設計
といった、SDGsやカーボンニュートラル目標とも合致した「次代の溶接技術」といえます。

また、溶接部のミクロ組織変化が少なく、高信頼性を長期維持できることもサプライチェーン全体の安定稼働に寄与します。

昭和アナログ業界こそ挑戦すべき

「うちの現場は従来手法で充分」「古い設備を使い続けてきたから大丈夫」という声はいまだ根強く残っています。

しかし、今や世界トップクラスの自動車部品・家電・半導体メーカーはすでに超音波接合固相溶着を導入済みであり、今後はこの技術が使えない企業が「門前払い」となる時代が訪れつつあります。

調達購買担当者、サプライヤー各位には、現場・現物・現実の三現主義を基盤に、小規模な現場実証からでも一歩ずつ「新しい溶接の地平線」へ踏み出すことを強くおすすめします。

おわりに:バイヤー・サプライヤーへの呼びかけ

超音波接合固相溶着は、ただの「新技術」ではありません。

「従来ではつなげなかった」「高品質を維持できなかった」という現場の課題を一掃し、信頼性・生産性・持続可能性という新時代の”ものづくり”の三本柱を支える革新の武器です。

製造業の最前線で働く皆様、これからバイヤー・技術職を目指す方には、時代の先を読むラテラルシンキングと現場主義をもって、新しい地平線にチャレンジして頂きたいと願っています。

この一歩が、日本のものづくり、ひいては世界の産業全体の力強い進化につながることを期待しています。

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