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UX (User Experience) の基礎とUX向上のためのUI設計の勘所

目次
UX(ユーザーエクスペリエンス)とは何か?
UX(ユーザーエクスペリエンス)は、近年の製造業でも無視できない重要なキーワードとなっています。
一言でいえば「利用者が製品やサービスを通じて得る総合的な体験」のことです。
多くの場合、IT・Web業界のバズワードと思われがちですが、実はモノづくり現場でも存在感を増しています。
昭和的な「使えればよい」「とにかく安く作れば良い」という価値観から、令和の今日では「どうやって顧客に心地よい体験をしてもらうか」「現場担当者が本当に使いやすいのか」といった視点へとシフトしています。
この「体験」には、単に製品の操作性だけでなく、購入前後のサポートや、納期、品質対応、運送の手配、問い合わせへのレスポンスの早さなど、現場で肌身に感じるあらゆるやりとりが含まれます。
つまり、バイヤーもサプライヤーも「相手が何を体験し、どんな気持ちを持つか」を本気で考える時代になったと言えます。
なぜ製造業にもUXが求められるのか?
製造業と言えば、従来はモノづくりそのものが主役でした。
しかし近年は、モノ余りの時代、顧客ニーズの多様化、海外サプライヤーとの競争激化により、「選ばれる理由」が従来と大きく変わっています。
例えば、発注管理システムや検査工程の自動化ツールひとつとっても「現場オペレーターが直感的に操作できるか」「繁忙期でも迷わず使えるUIか」といった、使いやすさ(User Interface、UI)が品質や信頼の一部に直結しています。
不慣れな社員や派遣スタッフでもすぐに慣れるかどうかで、現場の生産性も大きく変動します。
また、工場長・調達部門・生産技術・品質保証など様々な立場の人が関わるため、それぞれの立場に配慮した「総合的な体験設計」が不可欠なのです。
つまりUXは「現場で使って本当に意味があるか?」「相手の業務や心情を理解しているか?」という根本的な問いかけです。
製造業における典型的なUX課題
1.現場の声が設計に反映されない
多くの工場で「新しいシステムや設備を入れたけれど、どうも上手く回らない」「担当者が現場で混乱して結局手作業に戻ってしまう」といった事例が少なくありません。
一般的に、購買・導入判断をする上層部と、実際に現場で使う従業員の間に壁があり、本来的な「現場UX」は置いてきぼりにされやすいです。
特に、IT化・自動化が遅れている昭和的な現場では「これまでのやり方が安心」「変化への警戒感」が根強いため、説得や教育の段階で既にUXが失敗してしまうことも見られます。
2.属人的な業務に依存しがち
業界特有の職人技や管理手法に頼っている現場では、新しいITツールや自動化設備に切り替える際「前任者ならすぐできたのに」と、ギャップが生まれやすいです。
結果、導入したUIが本当に現場作業員やパートタイマー、海外実習生にとって分かりやすいものか見過ごされ、結局デジタル化の恩恵が得られないケースも発生しています。
3.日本メーカー独特の「おもてなし精神」の落とし穴
「手厚いサポート」と「過剰なマニュアル・帳票」の境界が曖昧な場合が多く、結局資料が膨大で迷路のようなUIやWebシステムになりがちです。
情報の整理・要点の明瞭化こそUX改善の起点であるにもかかわらず、「相手のことを考えすぎた結果、使いにくい」という逆説も起こりえます。
UI設計の実践的な勘所(現場目線で考える)
UX向上のためには、UI(ユーザーインターフェース)設計が鍵を握ります。
ここでは、私が20年超の現場キャリアで得たリアルな勘所をお伝えします。
1.「使う人の顔」を最初に思い描く
現場で実際にボタンを押すのは誰か、どんなタイミングで使うのか、年齢・ITリテラシー・作業環境などを細かく想像します。
例えば、老眼が進んだ世代でも迷わず操作できるようにボタンサイズを大きく、色分けする。
外国人でもストレスなく操作できるピクトグラムや多言語化といった配慮も現場では極めて有効です。
2.工程を徹底的に観察・BPR(業務プロセス再設計)する
現状分析なくしてUI改善なし、と言っても過言ではありません。
ヒヤリ・ハットの瞬間や、「この帳票毎回手書きで面倒」といった小さな声を集め、できる限り動線をシンプルにすることが鍵です。
たとえば、部品照合の工程で「バーコード読み取り一発で在庫引当~発注まで完結」できれば、現場UXは劇的に向上します。
3.「間違いにくい・気づきやすい」デザインを徹底する
人は、集中力が途切れるとミスをします。
特に夜勤や長時間ライン作業が続く環境では、「危険アラートの色」「承認ボタンの配置」「エラー時の誘導」など、気づきを与えるUIが現場を支えます。
現場作業員や新入社員でも直感的にわかるラベリング、戻る・進むのボタン配置、入力ミス防止のバリデーション(確認画面など)が地味に重要です。
4.現場主体のテスト運用とフィードバックサイクル
導入時には、机上で考えただけにせず、実際に現場でフィールドテストを重ねます。
特定の担当者にだけ把握させて終わらせず、異なる部署・役職・立場の人全員が「試用し、率直な感想を出せる仕組み」を作ります。
現場の「困った」「面倒くさい」「分からない」という本音を見逃さず、すぐにUIを磨き直す“現場発信サイクル”を大切にしましょう。
昭和から抜け出せない現場のUXを変えるために ― これからの一歩
昭和的なアナログ業務が多く残る製造業にこそ、UX向上の余地が広大にあります。
忙殺される日々の中で意識を変えることは決して簡単ではありませんが、まず以下のようなマインドチェンジが有効です。
〜UXはコストではなく、競争力そのもの〜
設備やシステムの導入にはコストがかかりますが、現場のUXを変えれば、ヒューマンエラーや工数が減り、社員のストレスも削減できるため、結果的に無駄なコストが消えて利益が増えます。
また、サプライヤーの立場でも「バイヤーが無意識に求めている体験価値」(例:帳票の分かりやすさ、レスポンスの早さ、問い合わせ対応の的確さ)を意識するだけで、選ばれる確率が上がります。
〜現場対話・ユーザーの声第一主義で設計を〜
どんなに優れたITベンダーやシステム会社でも「現場で本当に使われるかどうか」は最後まで分かりません。
現場作業員との丁寧な対話、彼らの習慣や思考パターンの深い理解が、UX・UIの成功に欠かせません。
バイヤー・サプライヤー双方が「体験価値」を重視する時代へ
バイヤーを目指すなら「どんなUXを自社で発信できれば、サプライヤーや協力会社に選んでもらいやすいか」を逆算して考えましょう。
一方、サプライヤーの立場であれば「バイヤー担当者の業務負担・感情・内情」を想像し、先回りした提案やUI/UX寄り添いができれば、一歩抜きんでることができます。
例えば、「帳票の自動PDF化」「納期や品質問い合わせのチャットボット化」「FAQや操作動画の充実」など、体験価値で先手を打てる工夫がまだたくさんあります。
まとめ:UX・UI起点の競争力が、製造業の新たな未来を拓く
UX(ユーザーエクスペリエンス)の概念は、もはやIT企業や一部のメーカーの話ではありません。
昭和のアナログ現場にこそイノベーションの芽はたくさんあります。
現場の本音に寄り添ったUI設計をベースに、バイヤー・サプライヤーともに「体験価値」の提供者へとシフトしましょう。
それが、人材不足やグローバル競争、コスト削減といった課題を突破するための“新たな地平線”なのです。
現場で本当に役に立つUX、そして直感的なUIの実践。
それこそが、今後の製造業に求められる最大の競争力となるでしょう。
まずは目の前の小さな現場から、今日から取り組みを始めてみませんか?
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