投稿日:2025年6月18日

振動の基礎と振動試験の勘所および実用振動モード解析のノウハウ

はじめに:振動の基礎と製造業における重要性

振動は、製造業のあらゆる工程や製品品質に直接的な影響を与える重要な現象です。

自動車、家電、精密機器、または大型プラント装置など、あらゆる産業機械は振動の影響を受けています。

多くの現場では、振動によるトラブルは依然として昭和時代からの「経験則」や「勘」に頼る部分が多いですが、近年はデジタル技術の進展により、より科学的な根拠とデータ分析が強く求められています。

この記事では、現場視点の実践的な振動の基礎と、振動試験を適切に行うための勘所、そして実際のモード解析のノウハウについて、20年以上の実務経験から分かりやすく解説します。

バイヤーやサプライヤーの視点からみても、振動試験やモード解析を理解することは、商談や品質保証の面で大きな強みになります。

ぜひ最後までお読みいただき、現場改善やキャリアアップに役立てていただければ幸いです。

振動の基礎知識:なぜ振動が問題になるのか

振動とはなにか―現場で役立つ簡潔な理解

振動とは、「物体がその位置から周期的またはランダムに揺れ動くこと」です。

たとえば、モーターの回転部品のバランスがわずかに崩れるだけで、製品全体に微小な振動が伝わり、最終的には異音や部品の脱落、さらには製品寿命の低下にもつながります。

現場では、「この機械、なんだかいつもと違う音がするな」「組立てた後にネジが抜けやすくなるな」といった現象が実は振動の影響によることが少なくありません。

振動の影響―品質、耐久性、生産効率へのリアルなダメージ

振動の問題が発生すると、以下のような実害が出ます。

  • 製品や構成部品の疲労破壊や損傷
  • 組立後の緩みやガタつき、不良発生率の増加
  • 異音や共振による顧客クレーム、ブランドイメージの低下
  • 精密機器の位置ずれや誤作動
  • 生産ラインの停止やダウンタイムの増加

実際、私が工場長を勤めていた現場では、組付け工程後にわずかな振動が原因で、20万点の部品からたった一つでも品質事故が起きると、サプライヤー交渉も厳しくなり、納入停止のリスクにつながる経験をしました。

だからこそ、バイヤーやサプライヤー双方にとって、振動の正しい理解と管理は極めて重要です。

振動試験の勘所:昭和的な”勘と経験”から、データベース化への転換

振動試験の目的を明確にする

なぜ振動試験を行うのか、その「目的」を現場で曖昧にしたまま行われている例がとても多いです。

  • 稼働中の異音・破損のリスク評価
  • 出荷前の品質保証・納入先要求のクリア
  • 故障モード(FMEA)と連動した設計検証

特にバイヤーや品質保証部門では、「とりあえず仕様書通りの振動試験を…」となりがちですが、目的を具体的に設定することで、測定ポイント・加振方向・試験パターンなどが自ずと決まります。

試験条件の設定と落とし穴

昭和アナログ業界で多いのが、「JISやISO規格に沿えば安心」という思い込みです。

しかし、実際の現場・出荷先環境とは必ずしもイコールではありません。

たとえば輸送用機器なら「たった1回の海外輸送中の段差衝撃」で致命的な不具合になる事例もあるため、現場の使われ方やサプライチェーン全体を理解してカスタマイズすることが重要です。

計測機器とデータチェックのリアルなノウハウ

振動試験では加速度ピックアップ、FFTアナライザー、ロガーなど様々な計測機器を使用します。

現場ならではの注意点として、

  • センサの設置位置がわずかにズレても、結果が大きく変わる
  • ボルト固定や圧着が甘いとノイズ混入が発生しやすい
  • サンプリング周波数や取り込み時間の設定ミスが実データの見落としにつながる

こうした「うっかりミス」が、不良品流出や誤った原因特定の火種になります。

また、昭和的な職人肌の「手計算」や「耳」での音判定を補完する意味で、最新のIoTセンサーやAI判別技術を組み合わせることで、再現性と客観性が飛躍的に高まります。

実用振動モード解析のノウハウ ― 理屈だけで終わらせない活用術

振動モード解析とは何か、その現場的意味

振動モードとは、物体が固有の周波数で特有の揺れ方を見せる現象です。

よく「モーダル解析」とも呼ばれ、異常な振動や共振現象がどの部品、どの位置で起きるかを特定できます。

たとえば、設計段階ではOKでも量産品で突然「ある決まった回転数で大きな音が発生した」といったとき、モード解析はその原因を定量的に突き止められる強力な武器になります。

モード解析の実践的プロセス

現場で役立つモード解析の流れを解説します。

1. 計測ポイントの決定

素人ほど「計測点を増やせばOK」と考えがちですが、現場では「違和感を感じた箇所」や「過去トラブル箇所」を重点的に設けることが重要です。

2. 加振方法の選定

インパクトハンマーによる単発加振か、シャーカーによる連続励起か、製品用途や現場制約によって適切に選定します。

3. 形状データとの連携

CADデータや3Dスキャンデータとも組み合わせ、理論解析(FEM解析)とのギャップを埋めます。

4. 得られたモード形状を見極める

グラフやアニメーション表示だけでなく、「なぜここで最大変位が出るのか」を現場観察と照合しましょう。

5. 事例との突合せ

過去の不具合事例や評価データベースとの比較記録が、ノウハウ蓄積の鍵です。

現場指導と教育のコツ

アナログな現場にありがちな「数値は出たけど、何をどう直せばいいの?」という課題。

座学や技術書籍だけでなく、実際の不良現品を使ったOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)が効果的です。

例えば、「この振動モードだと、次の工程でどんな不良が多発するか」「加振方向を少し変えた時、どこにストレス集中が移るか」といったシミュレーションを、その場で全員が体感できる仕組み作りが肝心です。

バイヤー・サプライヤー双方に役立つ視点

バイヤーにとっての振動試験・解析の重要性

調達・バイヤーの立場では「QCD(品質・コスト・納期)」が最大のミッションです。

その中でも、振動試験やモード解析の知識は、以下のような実践的なメリットに直結します。

  • サプライヤーに対し、どのような耐久性要求・品質確認が必要かを論理的に主張できる
  • 振動による不良発生を早期発見し、リスク管理やPL(製造物責任)対策が取れる
  • 新規サプライヤー選定時、単なる見積もり比較ではわからない「技術力・対応力」の見極めができる

サプライヤーにとっての「バイヤーが求めていること」を知る

一方、サプライヤーの立場では、

  • 原因不明の品質クレームや仕様変更要求への適切かつ迅速な対応
  • 他社との差別化(データや改善実績の提示)による信頼獲得
  • 最終製品環境やバイヤー意図への深い理解を通じた提案型営業

が求められます。

つまり、お互いが「根拠ある振動管理」を共通土台にすることで、理不尽な値下げや責任の押し付け合いから一歩抜け出せるのです。

最新トレンドと今後の取り組み

振動管理のデジタル化と人財育成

IoT・AI技術の発展により、リアルタイムの振動モニタリングや、自動異常検知がますます普及しています。

<IoT振動センサー+クラウド技術>によって、人による判定バラつきを減らし、現場改善のサイクルが加速しています。

同時に、「これまで分析は外部業者任せ」としていた現場人材にも、基本的なデータ読解力やシステム活用スキルが必須になります。

現場系社員~若手バイヤーまで一体で学ぶことで、「分かる・できる・伝えられる」知識伝承が進みます。

アナログな現場文化とどう向き合うか

特に昭和型のアナログ現場では、「最新の機械やパソコンは苦手」という声も根強いのが現実です。

大事なのは、「新技術はあくまで現場のツール・武器であり、現場目線の工夫・気付き」と組み合わせてこそ真価を発揮するということです。

現場発のアイデアやカイゼンと、デジタル武器の相乗効果で、持続的なものづくり力を磨いていきましょう。

まとめ:現場の知恵と新技術で、振動トラブルゼロへ

振動の基礎知識から、現場で役立つ試験・モード解析の勘どころまで、実務経験をもとに解説してきました。

昭和時代の「勘と経験」も重要ですが、確かなデータと分析ノウハウの融合こそ、今後の製造業・調達購買・品質保証の現場で大きな差になります。

安全・品質・納期という永遠の課題に正面から取り組み、バイヤー・サプライヤー双方が「根拠ある対話」を深め、ともに業界を底上げする一助となれば幸いです。

現場の皆様の安心・安全、そしてグローバル競争力の向上を心から応援しています。

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