投稿日:2025年12月5日

他部署が理解しないまま開発を急かしてくる理不尽さ

他部署が理解しないまま開発を急かしてくる理不尽さ

はじめに:製造業の現場だからこそ直面する現実

製造業の現場に足を踏み入れて20年以上、調達購買、生産管理、そして工場長として現場の「リアル」を見てきました。
業界の発展、効率化、多様化が叫ばれて久しい中、今なお根強く残る“昭和的アナログ文化”と、時代に合わせて変化を求められる現場の間で、現場担当者やマネージャーは日々板挟みに遭っています。

中でも特に多いのが、「他部署が事情を理解しないまま開発を急かしてくる理不尽さ」です。
自社の設計、生産、調達、営業、品質…それぞれの部門が異なるミッションを担う中で、本当に「お客様に価値を提供できるものづくり」とは何なのか、現場目線で深堀りしていきます。

急かされる開発現場の苦悩:絵に描いた餅ではない現実

製造業の開発現場では、よく「〇月までに試作品を出してくれ」「来期の受注が取れるので早く量産体制を組んで」といった催促を受けます。
営業や企画からすると一日でも早く製品を仕上げて市場に投下したい、その気持ちは痛いほど分かります。

しかし、現場が懸念しているのは「その段取りに落とし穴はないか」「どこかで安全性やコスト、品質に無理な設計が含まれていないか」といった点です。
製品によってはサプライヤーとの調整に数週間、場合によっては数カ月かかる部材もあります。
QC工程表の見直しやFMEA(故障モード影響解析)、SOP(標準作業手順)の作成など、現場の地道な作業抜きにして高品質なものづくりはできません。

バイヤー目線で見た開発現場への圧力と葛藤

バイヤーを目指す方、あるいはすでにバイヤーとして活躍されている方にとって、現場や設計から「今すぐこの部品を手配してくれ」という無理難題は避けられない宿命です。
特に昨今の半導体不足や物流混乱など、外部要因による納期遅延が当たり前の時代にあって、サプライチェーン全体を見ながら安定調達する力量が問われます。

バイヤーとしてのジレンマは、上からの「急げ!」の圧力と、現場からの「ちゃんとしたものを確実に供給してほしい」という要請の狭間で意思決定を強いられる点でしょう。
この時に大切なのは、ただ右から左へ発注するのではなく、調達先の状況や製品特性を正しく把握し、時に他部署の担当者にも実態を「見せる」ことです。
こういった現場主義の姿勢が信頼を生み、災害やトラブル時にも融通が利くようになるのです。

なぜ他部署は現場の事情を理解しないのか?—組織の壁とその本質

多くの製造業に根深いのが「縦割りの壁」です。
技術や開発、営業、購買、品証、それぞれのKPIや目標がバラバラで、しかも経験値の浅いスタッフが多いと互いの舵取りがますます難しくなります。

経営層や営業部門が「新機種を立ち上げて売上を伸ばせ!」と号令をかけても、実際にそのボールは現場や調達担当、品質管理まで“タライ回し”されます。
各部門は自分たちの数値や納期達成に必死で、本来なら連携して進めるべきPDCAがうまく回りません。

特に、昭和から根付く「物量重視」「見かけ倒しの納期遵守」「現場の汗頼み」といった美徳は、デジタル時代には大きなデメリットにもなりえます。
この悪習を打開するのが、現場が自発的に他部署を「巻き込む」働きかけです。

現場から変える、他部署との本音のコミュニケーション術

現場の理不尽さは、言い換えれば「お互いを知らないこと」から生まれます。
そこで私が実践してきたのが、「現場見学ツアー」を他部署にも定期的に推奨することです。

たとえば、営業や設計に自ら現場を案内し、「いま何がボトルネックか」「どこまで進捗しているか」を見て、現場担当者とダイレクトに会話してもらうのです。
ただし自分たちの言い分を一方的に主張するのではなく、「ここでSTOPせざるを得ない理由」「今このプロセスを省くとどんな品質・安全リスクが増えるか」を、現場目線の資料や動画を使って能動的に伝えることも重要です。

この積み重ねが「他人ごと」を「自分ごと」へ、組織の壁を超えて一体感を生みます。

アナログ業界でも始まっている“新しい地平線”とは?

昭和型アナログ業界でも、2020年代に入って着実に変化の兆しが見え始めています。

一つは「現場DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。
IoTやモバイル端末を使い、現場の進行状況や仕掛品数、作業負荷を可視化できるようになり、他部署からもリアルタイムで状況把握が可能です。

また、調達購買の分野でもAIを活用した需給予測や在庫最適化、サプライヤーのリスク分析など、バイヤーの価値がより高度化しています。
従来なら「担当者の勘と根性」で判断していたリードタイムや注文タイミングも、客観的データで「見える化」し、社内会議で根拠ある主張ができるようになっています。

このように、アナログ文化の根強い現場ほど、一つでも二つでも「見せる」工夫、「数字や画像で理解できる」仕組みを取り入れることで、急かし急かされの悪循環から脱却しやすくなっています。

これからの製造業現場に必要な「横の知性」

製造業に必要なのは「技術」や「納期達成力」だけではありません。
これからは、「横の知性」—つまり、他部署やサプライチェーン全体を自分ごととして捉え、組織間の翻訳者となる知恵が問われます。

調達購買であれば、単に安く早く仕入れるだけでなく、サプライヤーの「現場目線」やリスクを把握した上で、最適な提案や納期調整を行い、それを現場へ正確に伝達する力が求められます。

工場現場では、自分たちが「急かされる立場」から、「他部署へ現場のリアリティを伝える立場」へと主導権を握るチャンスでもあります。
現場が「主体的に」他部署の知見や要望を取り込み、逆に現場の制約や工夫を社内外で発信していくことで、現場起点のイノベーションが生まれやすくなるのです。

まとめ:理不尽さを越えて「ものづくりの共通言語」を育てよう

他部署が事情を知らないまま開発を急かしてくる――この理不尽さは、現場の多くの方が共感するテーマではないでしょうか。
しかし、理不尽さに対して「仕方がない」と諦めるのではなく、現場から「共通言語」や「見える化」を積み重ねていくことで、徐々に流れは変わっていきます。

古い体質の会社であっても、一人一人が「現場目線での説明」「他部署との直接対話」「データを使った納得感の創出」という一歩を踏み出すことで、部署の枠を越えた「真のものづくり」が現実味を帯びてきます。

現場発の小さな行動がやがて大きな改革の波となり、製造業全体が競争力を高めていく。その未来をぜひ、一緒に切り開いていきましょう。

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