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曲げ順の再設計で板金割れを抑え再加工費を消し込むレイアウト術

目次
はじめに:板金加工の現場で起きがちな「割れ」と「曲げ順」問題
板金加工の現場で「曲げ順」の最適化が求められる理由は、単なる効率化や納期短縮だけではありません。
昭和の時代から続く“なんとなくこの順番でやってきた”という職人技の伝承や、過去の成功体験に縛られている工場も多い中、ちょっとした曲げ順の誤りが板金割れのような重大な品質不良を引き起こし、再加工・追加費用の発生、納期遅延といった悪循環を生み出しています。
この記事では、曲げ順再設計によって板金割れを抑制し、再加工費の発生率を劇的に低減するための「実践的レイアウト術」を現場目線で解説します。
これからバイヤーを目指す方や、サプライヤーの立場でバイヤーの要求を深く理解したい方にも役立つ情報を盛り込みながら、業界の慣行や古き良き知恵も活かした“未来志向”の記事を目指します。
よくある現場の失敗事例:曲げ順の最適化不足が招くダメージ
「従来通り」で起きる見逃し事例
板金加工の生産現場では、熟練の職人による暗黙知と、「昔からこの順番でやっているから大丈夫」という独自ルールが定着しています。
しかし、材料のばらつきや新しいハイテン材(高張力鋼板)などの採用が進む中、従来の曲げ順が通用しなくなるケースが増えています。
曲げ順が悪いと、「最後の1工程で突然割れが発生する」「局所的応力集中によって微小亀裂が広がる」「図面どおりには見えても、部品強度が下がる」など、表面化しにくいトラブルや隠れコストが発生します。
割れ防止を無視した工程設計の落とし穴
割れの多くは局所的な塑性ひずみ(成形時の板金への負担)が許容量を超えた結果として発生します。
例えば、「R曲げ→直角曲げ→フランジ立て」のような順番で工程を進める場合、R曲げ工程で材料に蓄積された応力が最終フランジ立ち上げ時に開放され、カドの部分にいきなりミクロンサイズの割れが入ることもあります。
特に現代のハイテン材・アルミ材は、旧来のSPCC鋼板より脆弱で、従来の工程が割れやすさを助長する材料に変わっていることを過小評価してはいけません。
曲げ順を「再設計」するとは? その意義と効果
“何をどう変える”のか――再設計の着眼点
曲げ順再設計とは、単なる工程の組み替えや順番の変更だけではありません。
最新の材料特性・製品要求品質・蓄積データなどを踏まえて、
1)割れ発生リスクの顕在化ポイントを事前に洗い出し、
2)板金全体のひずみバランスを考えながら
3)現行工程(設備・治具制約も含めて)で無理なく実現できる順番となるよう最適化する
――こうした一連の工程設計思考を意味します。
“安易な工程数削減”が失敗のもと
現場では「工程を1つでも減らしたい」「一発曲げで終わらせたい」という声も日常茶飯事です。
しかし、その発想が曲げ順の“王道”を外れ、むしろ追加費用の原因となっている場合が少なくありません。
目先の作業効率だけでなく、全体最適──すなわち「割れを発生させないための順番」「再加工や手直し、機械停止などのロス発生リスクを最小化する順番」を追求する発想が重要です。
再設計によって得られる“3大メリット”
曲げ順の再設計によって、工場やサプライヤーは次のような具体的メリットを享受できます。
1. 板金割れの発生率が大幅に減少、再加工コストが激減
2. 品質波動が減少し、不良流出や返品リスクを低減
3. 材料歩留まり向上、工程内滞留も減り、トータルでの生産性が上昇
これらの効果は単体ではなく、現場オペレーターのモチベーション低下防止、バイヤーからの信頼確保、ひいては会社全体の競争力向上につながります。
真の“曲げ順最適化”を見抜く3つの現場チェックポイント
1. ひずみ集中の分散を「目で見る」設計
先端的なCADやCAE(シミュレーション)を使えば、どこにひずみが集中しているか可視化できますが、実は“現物”現場主義こそが重要です。
割れの多発部位を現状の工程順ごとに写真、スケッチ、部品割れサンプルで「見える化」し、設計者やオペレーターを巻き込んで根本原因を共有します。
昭和的な工程会議でも、この「現物主義・見える化」の習慣化が突破口になります。
2. “最終曲げ”の条件と順番に妥協しない
板金割れが起こりやすいのは、必ず「最後に曲げる」部分です。
強度確保や寸法出しのために本来“最後に曲げたい構造部”が、実際には作業性や設備都合で中途半端な工程順になっていないか?
型割りや刃物の調整で「最終曲げ」の選択肢を増やせないかを検討することが、割れ防止に直結します。
3. 工程荷重・工具出力の「見積もり精度」を磨く
最新のベンダーや小型プレスでは、工程ごとの荷重管理や道具摩耗のシミュレーションが可能です。
こうした設備の解析値と、現場作業員の体感的な材料硬さ・曲げやすさの情報をつなぐことで、“この順番だと最終工程で荷重オーバーなのでは?”という予測精度を高め、事前の割れ防止対策が可能になります。
レイアウト術:割れを防ぐ曲げ順・工程設計の実践ノウハウ
“直角曲げ”の位置を見直す
設計段階でつい「一番複雑な形状の部位を先に曲げたい」という意図に引っ張られがちです。
しかし、現場では直角曲げの位置によって材料ひずみの蓄積具合が大きく変わります。
「90度→45度→フランジ」など、複数の角度が隣接する際、先に90度曲げを行った方が全体の剛性が増し、割れにくくなる場合もあれば、その逆もあり得ます。
現実的には、材料種別・板厚・外周形状・穴有無ごとに最適解が異なるため、必ず“現物トライ”による割れリスクの有無を確認する文化(試作フィードバックループ)が肝となります。
R部・コーナー部の「複合曲げ」は分割工程が有効
多くの割れは「R+フランジ立て」の組み合わせ部位に発生します。
一発成形ではなく、R部曲げ→中間リリース→フランジ立てのように“分割工程”にすることで、局部ひずみの開放ができ、割れを抑制できます。
逆に無理に一工程で完結させようとすると、材料限界を超えて割れが発生しやすくなります。この点は古来からの「匠の分割技」でも十分に裏付けられています。
同時曲げ・順不同曲げの「ロボット活用」
昭和時代には人海戦術だった複雑曲げも、現在は多軸ベンダーや協働ロボットによる“パラレル曲げ”が物理的に実現可能になっています。
ロボットによる同時曲げ順の最適化を進めることで、従来不可能だった順序変更・複合工程の同時化が叶い、割れや加工ひずみを効率よく分散することが可能です。
現場がアナログで止まっている会社でも「ロボット起点での工程順提案」は今後バイヤーからも強く評価されるポイントです。
バイヤーとサプライヤーの視点:曲げ順最適設計が与える付加価値
バイヤーが知っておくべき「潜在コスト削減効果」
バイヤー目線では、“割れ防止=品質向上”というだけでなく、実は見積りや発注コスト(再加工のロス込み)が大幅に下がることが大きなメリットです。
サプライヤーがきちんと曲げ順を考慮した工程設計をしているかを見抜く目を持つことで、安易な価格交渉以上の“なくせるコスト”に気付けるようになります。
また、納期遵守・トラブル未然防止の観点からも曲げ順最適化への投資は、お互いに“得”になる取り組みです。
サプライヤーは“現場目線の新化”が競争力を生む
サプライヤー(製造委託側)にとっても、曲げ順最適化を提案型で進めることで、従来の「御用聞き」や「言われたまま生産」から“バリュー提案型”への脱却が可能です。
現場由来の知恵・工程改善の事例を積極的に可視化・説明することで、バイヤーからの信頼も高まり、価格以外で“選ばれやすく”なる時代です。
まとめ:アナログ製造業の明日を切り拓く「曲げ順再設計」のススメ
板金加工の現場における曲げ順は、たかが順番・されど順番です。
材料や形状の多様化が進む現代では、従来の職人技や経験則だけに頼るのではなく、工程設計や設備選定、そして“見える化”を駆使した再設計が求められています。
割れリスクを劇的に下げ、品質向上と再加工費の消し込みを両立するためには、
1)現物主義による問題点抽出
2)最終曲げや荷重バランスへのこだわり
3)最新設備やロボットの適切活用
――こうした地道な現場改善の積み重ねが、事業全体の生産性向上とコスト削減、何より顧客と現場スタッフ双方の満足度を高める最大の近道です。
アナログの強みも活かしつつ、デジタルや新技術を取り込んで「曲げ順の再設計」にぜひチャレンジしてください。
製造業の未来をより良く切り拓くのは、現場のひと工夫と積極的な改善提案なのです。
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