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靴のソールがはがれにくい接着剤の選定と圧着条件の最適化

目次
はじめに:靴のソール接着は製造業の評価に直結する
靴のソールがはがれるという不具合は、消費者の信頼を一瞬で失うだけでなく、製造現場の技術力や品質管理体制そのものへの疑念を招きます。
特に、アパレルやシューズ製造業界では、ソールの脱落事故がSNSで拡散され、ブランド全体の価値低下に繋がるリスクも孕んでいます。
現場経験者として断言できるのは、ソールのはがれは単なる「運」や「偶然」では起こらないという事実です。
接着剤の選定、塗布・圧着条件、素材の相性、作業工程管理まで、すべての要素が複合的に絡み合い、その最適化が品質の根幹となります。
本記事では、昭和の手作業時代から続く暗黙知に加え、現代製造現場のデジタル化や最新技術動向も踏まえた「はがれにくい接着剤の選定と圧着条件の最適化」について、実践的かつ現場目線で解説します。
ソール接着の基礎――なぜ、はがれが起こるのか
1. ソール接着の基本構造
靴のソール接着では、アッパー(靴本体)とアウトソール(底材)の素材がまず重要です。
ここで代表的な組合せを見ると、以下の通りとなります。
– アッパー…天然皮革・合成皮革・布地など
– ソール…ラバー(天然ゴム・合成ゴム)、EVA(エチレン酢酸ビニル)、PU(ポリウレタン)、TPR(熱可塑性ゴム)など
それぞれ熱・湿度・衝撃・屈曲などへの耐性が異なり、同じ接着剤を使っても「うまくつく場合」と「すぐはがれる場合」が素材によって変わります。
2. はがれの主要因
ソールはがれの主な原因は、次の4つに大別できます。
1. 接着剤自体の選定ミス(素材・用途とのミスマッチ)
2. 接着面の前処理不足(油分、ホコリ、水分残留)
3. 圧着温度・圧力・時間の不適正
4. 経年劣化(加水分解など化学的な劣化)
現場では「作業員の感覚で貼った」「いつもこのやり方だから」という習慣も根深く、ルールは存在しても徹底されていないことが多く見受けられます。
接着剤の選定:相性と現場事情とのせめぎあい
1. 主要な接着剤の種類と用途
– クロロプレンゴム系(CR):最も一般的、ラバー・EVA・一部皮革に強いが耐熱性や耐加水分解性は限定的
– ポリウレタン系(PU):強力な接着力、合成皮革・PUソールに最適、耐油性や耐摩耗性も〇
– エポキシ系:一部補修や特殊用途向け(大量生産向けではない)
– ホットメルト系:自動化生産ラインに適応、接着スピード重視
現代はこれに加え、水性系接着剤や環境負荷低減型(ノンキシレン等)の開発も進み、生産現場の「作業環境改善」「匂い・有害VOC規制」への対応要請も年々高まっています。
2. サプライヤーとの協議と、現場での試験の重要性
書類上の「素材適合表」や「技術データシート」のみで決め打ちせず、必ず現場テストが必要です。
なぜなら、工場内の温湿度や、作業員の塗布量・圧着タイミング、さらには「妙なクセのついたジグ」など、現場独自のバラツキ要素が無視できないからです。
現場での「トライ&エラー」を通じて、サプライヤーと伴走しながら、「実際にはがれないか」という目で選定することが、購買・調達担当、品質管理担当、双方に求められる姿勢です。
接着工程の最適化:昭和の手作業からデジタル管理への進化
1. 圧着条件の最適化ポイント
圧着工程では以下の3要素がとても重要です。
– 圧着温度:接着剤や素材ごとの最適温度(一般的には70~130℃程度)
– 圧着圧力:適度な圧力(過大圧は接着剤のはみ出し、圧不足だと密着不良)
– 圧着時間:0.5秒~数十秒、ラインのサイクルタイムと相談
この3つは設備(プレス機など)の状態や型の精度、作業人員の熟練度によっても最適化が必要です。
2. 前処理――油断できない「当たり前」作業
素材の表面には離型剤や油分、場合によってはカビやムラがあります。
この除去を省略すると、どんな高価な接着剤も「無力」になりかねません。
– ケミカルワイプ、表面サンディング、プライマー塗布などをライン標準作業に落とし込むことが必須です。
昭和の頃から「まぁ大丈夫だろう」がはびこりやすい工程ですが、ここをキッチリ標準化できれば、歩留まり向上・リワーク低減は飛躍的です。
3. 工場自動化・DX活用の実践例
近年では自動塗布機・圧着プレス機にデジタル管理を組み合わせ、「圧力・温度・タイムのログ記録」を蓄積し、不良発生時のトレーサビリティ強化が進んでいます。
特に海外工場や多拠点同時管理では、IoTセンサーや画像AI検査を導入し、「人の感覚」から「データ主導」への転換に挑んでいる企業が増えています。
こうした自動化・DX化の推進ができている現場では、不良品によるブランド母体へのダメージリスクも着実に低減しています。
グローバル競争と、求められる新たなバリュー
グローバル視点で見ると、いまだに手作業の比率が高く、「昭和のやり方で十分」と考える日本製造現場が散見されます。
一方、中国・東南アジアの大規模工場では、⻑時間労働の削減・ロス改善・自動化投資が先行し、「品質で負けない、コストで勝つ」体制が急速に進んでいます。
また、ヨーロッパでは環境配慮(REACH規制、VOC排出規制)が標準となり、「安全で環境にやさしい接着剤」の選定ノウハウが重視されています。
国際取引の現場では「接着剤の選定理由」「圧着工程の標準化手順」の提示が求められるなど、調達・バイヤーに課せられる役割も高度化しています。
サプライヤー側としては「安さ」や「名前の知れたブランド」だけでなく、「工程トータルでの最適化提案」や「不具合が起こった場合の対応力」が売り込みの決め手となっており、バイヤー目線での「安心して任せられる要素」はますます多様化しています。
まとめ:発想の転換が不良ゼロへの近道
靴のソールがはがれにくい接着剤の選定や圧着条件の最適化は、決して単純作業の積み重ねではありません。
「過去からの習慣」や「コストダウン圧力」に流されず、現場ごとの現実を直視し、時にはラテラルシンキング(横断的思考)によって独自の最適解を導き出すことが大切です。
バイヤーを目指す方は「メーカー・現場の事情」も想像しつつ、適切な価格交渉や品質要求ができるバランス感覚を。
サプライヤー希望の方は、「表面的なスペック」だけでなく、「現場で本当に役立つ提案力」を磨いてください。
製造業の未来は、現場と調達、サプライヤーが互いに歩み寄り、失敗や成功を共有し合うことで初めて開けてきます。
何より「はがれ」という一見些細な不良に、業界全体の進化が集約しているのです。
あなたの一歩が、製造業全体の品質と信頼を高める原動力になることを願っています。
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