投稿日:2025年11月18日

シルクスクリーンで細線を再現するメッシュ数と乳剤厚の最適化

はじめに ― シルクスクリーン印刷の細線再現の重要性

シルクスクリーン印刷は、製造業の現場で幅広く用いられている表現技法の一つです。
特に電子部品や精密機器の製造においては、わずか数ミクロン単位の線幅・柄を正確に再現する必要があります。
しかし、兎角アナログな側面が色濃く残る製造業界においては、「細線再現性」は長年にわたる現場の知恵と工夫の賜物であり、今もなお試行錯誤が続く課題です。

この記事では、20年以上の現場経験と管理職としての立場から、細線再現において最重要となるメッシュ数の選定と乳剤厚の最適化について解説します。
また、昭和的な「現場の勘と経験」から一歩進んだ、論理的・合理的な指標設定やノウハウの標準化の考え方も掘り下げます。

サプライヤーとしてバイヤーの厳しい品質要求に応えたい方、製造業で工程改善やDX推進を目指す方にも、現場発の実践知をお伝えします。

シルクスクリーン印刷で再現できる「細線」とは何か

細線とは ― 業界ごとの要求ギャップ

「細線」と一口に言っても、その解釈には業界や用途ごとに大きな開きがあります。
例えばプリント基板製造の現場では、50μm(ミクロン)未満のライン幅が当たり前ですが、一般的な産業用パネルや電子部品マーキングでは0.2mm程度が許容範囲とされることも多いです。

ここで重要なのは「再現したい細さ」と「製造現場で安定して出せる細さ」のギャップを正しく認識することです。
バイヤー、エンジニア、オペレーターが共通認識を持ち、現場の限界値をベースに設計仕様や改善活動を行うことが肝要です。

細線再現が重要となるシーン

以下は、特に細線印刷の高精度が要求される代表的なシーンです。

  • 電子基板の配線やパターン形成(ファインパターン)
  • タッチパネル、FPC、ITOフィルムなどの薄膜回路形成
  • センサー用の微細電極印刷
  • 高級ブランド製品のロゴや細字印刷

こうした現場では微細なパターン欠損やうねり、インクダマリが即品質問題に直結します。
次の章で、実際の再現性を大きく左右するメッシュ(網目数)と乳剤厚の設計について解説します。

細線に適したメッシュ数はどう決めるべきか

メッシュ数選定の基礎 ―「細い線=細かいメッシュ」が鉄則

スクリーン印刷に使用するメッシュは、原則として「再現したい線幅の3~5倍以上の細かさ」が必要です。
たとえば、100μmの細線であれば、最低でも300~500メッシュ程度が求められます。

しかし、単純にメッシュ数を増やせば良いかと言えば話はそう単純ではありません。
メッシュ数を上げ過ぎると、インクの通過量が減り、結果として線幅が痩せてしまう・インク切れを起こすなどのリスクも高くなります。
現場では「ギリギリ抜けるが、線幅はデザイン値マイナス10%以内」を落としどころとします。

目詰まり・インクダマリとの戦い ― 特性ごとのメッシュ選定

メッシュ選定時に重要となる現場視点のポイントは以下の通りです。

  • 高速印刷や長時間連続印刷では、メッシュ目詰まりによる細線の欠けや太りを招くことが多い
  • 溶剤系やUVインク使用時は、乾燥(硬化)スピードに応じてメッシュ目詰まりのしやすさが変化する
  • 粘度高インクでは、通過性確保のためワンランク粗いメッシュを選択する方が安定することも多い

現場ではインク・乳剤厚・印圧・乾燥条件の全てをトータルで設計する必要があるため、「狙った細線がどの条件下でも再現できるメッシュ」を選定することが求められます。

乳剤厚は細線再現にどう影響するのか

乳剤厚の役割 ― インクの転写メカニズム

スクリーン印刷において「乳剤厚(エマルジョン厚)」は印刷精度を大きく左右する要素です。
乳剤厚が厚いほど、転写されるインク膜厚は厚く、やや太め・ぼてっとした線となります。
逆に乳剤厚が薄すぎると、線が途切れやすかったり、目詰まりや欠損が生じがちになります。

現場では「再現したい細線よりも、できる限り薄く均一な乳剤厚」を作ることが成功の鍵となります。
一方で、乳剤厚を極端に薄くするとピンホールや印刷ムラが発生するため、限界性能を見極めながらの微調整が不可欠です。

乳剤厚の最適化プロセス ― 再現性のあるバラツキ管理

乳剤厚は一般的に10μm前後が標準ですが、50μm未満の細線を再現する場合は、5μm~8μm程度まで薄く仕上げる必要があります。
この時、乳剤の種類やコーティング方法(1:1仕上げや2:1仕上げなど)、乾燥プロファイルの管理が品質を左右します。

また、量産時には「版ごとの乳剤厚バラツキ」が細線再現の再現性(安定度)に影響するため、現場での乳剤厚検査や管理記録の徹底が問われます。

細線再現率と“昭和流”現場改善の限界

昭和的な現場力の価値と課題

多くの工場では未だに作業者の勘や経験則、いわゆる「ベテラン技術者の手仕事」が品質を支えています。
この“昭和流”の現場カイゼンが大きな成果を生み出してきたのは紛れもない事実です。

一方で、「個人の手技とノウハウの属人化」は現代の多品種少量・短納期時代において大きなボトルネックとなっています。
細線印刷の再現性についても、特定オペレーターしか出せない・管理しきれない、といった声は後を絶ちません。

論理的アプローチの導入 ― データ×ノウハウの融合

本質的なプロセス安定化には、現場での“勘”を数値的指標に落とし込むことが重要です。
例えば以下のような工程管理が挙げられます。

  • 印刷物の線幅・線間を測定しヒストグラム管理
  • メッシュ・乳剤厚・圧力と印刷結果の相関データ化
  • 標準作業手順の文書化&教育サイクルの定着

この「数値化×現場ノウハウ」のハイブリッドによって、属人化からの脱却と生産性向上を実現できます。

現場目線の“細線再現”テクニック

ここでは20年以上現場で培ったコツをいくつか共有します。

1. スキージ圧の微調整で線幅制御

細線の潰れや断線は、スキージの圧力が強すぎたり弱すぎたりすることが起因する場合があります。
スキージの硬度選定や角度・速度の微調整は印刷現場での最大級のノウハウポイントです。

2. メッシュの張力管理

メッシュ張力が均一でないと、いくら高いメッシュ数でもピン抜けや線のうねりが発生します。
張力計による点検記録とメンテナンスサイクルの設定が肝となります。

3. 印刷環境の温湿度管理

特に細かいメッシュや早乾タイプのインク使用時は、印刷室の温湿度が不安定だと途端に線切れ・目詰まりが頻発します。
環境の安定化=歩留まり向上に直結します。

4. テスト印刷とフィードバックループ

製品ごと・ロットごとにサンプル印刷を行い、狙いの再現ができているかを見極めながら、都度微調整する文化を根付かせることが大切です。

サプライヤー・バイヤー双方の歩み寄りが高品位化の鍵

現場での苦労や技術的限界、最適条件をサプライヤー側がしっかりと把握していることは大前提です。
同時に、バイヤー側にも「理想」と「現実」のギャップや現場でのやりくり事情を正しく伝えることができれば、納得感ある仕様決定・品質管理につながります。

かつてはブラックボックス視されがちだった現場ノウハウも、データ化・文書化によって共通言語化すれば互いの信頼関係も深まります。

まとめ ― 細線再現は「現場×知識×論理」のかけ算で

シルクスクリーン印刷における細線再現は、単にメッシュ数や乳剤厚だけで成立するものではありません。
それらに加え、現場作業や環境管理、データに基づくPDCAの積み重ねが高品位化・安定化の鍵となります。

昭和的な現場知と現代の論理・データ思考のハイブリッド。
そこにこそ、アナログ業界から一歩抜け出す真の競争力が宿ると私は考えます。

現場で「本当にできる細さ」にフォーカスし、サプライヤー・バイヤーの壁を越えた最適化をぜひ実践してください。
それが製造業のモノづくり力を底上げし、業界を次のステージへと導いていくのです。

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