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航空宇宙用軸受部品の軸受鋼/AISIM50鋼の生旋削加工のベストプラクティス

目次
航空宇宙用軸受部品の軸受鋼/AISIM50鋼の生旋削加工のベストプラクティス
はじめに
航空宇宙産業は、地上の延長では語りきれないほどの厳密さと最先端の技術が求められる分野です。
その中でも軸受部品は、航空機の安全性とパフォーマンスを直接左右する重要な機能部品です。
特に、軸受鋼やAISIM50鋼のような高耐久・高精度素材の生旋削加工は、生産現場における技術力の試金石といっても過言ではありません。
本記事では、20年以上の現場経験を持つ筆者が、昭和から令和へと続くアナログ思考と最新技術の融合、そして厳しい品質要件のもと生産現場で磨かれてきた軸受鋼・AISIM50鋼の生旋削加工について、ベストプラクティスを解説します。
軸受鋼/AISIM50鋼の基礎知識と航空宇宙用部品の特殊性
軸受鋼とは何か
軸受鋼は、主に優れた耐摩耗性と強靭性、高負荷下でも形状変化を抑える耐久性能が求められる特殊鋼です。
一般的な代表例としてはSUJ2(JIS G4805)が有名ですが、航空宇宙業界では更なる高性能を目指し、クリーン度(不純物の少なさ)、均一な組織、厳しい化学組成管理が必須となります。
AISIM50鋼の特徴
AISIM50鋼は、M50とも呼ばれる高速度工具鋼です。
特徴は、
– 高い硬度
– 抜群の耐摩耗性
– 高温下でも機械的特性が維持される(高温強度)
といった点にあり、ジェットエンジンやガスタービンの軸受部品に多用されます。
優れた機能性が求められる一方で、難削材として知られ、生産工程における技術のハードルも相応に高くなります。
航空宇宙向け部品に求められる要件
航空宇宙用部品は、
– ミクロンレベル以下の寸法・形状精度
– 表面粗さ(Ra0.2以下など厳しい規格)
– 一貫した材質品質とトレーサビリティ
– 極めて高い信頼性(ローコストよりもまずクオリティ重視)
といった厳格な要求が付きまといます。
量より「質」。
“お客様=エンドユーザーの命を守る”という意識が、現場全体に深く根付いています。
生旋削加工とは〜焼入れ前のメリットと課題〜
生旋削加工(soft turning)の基本
生旋削加工とは、焼入れ(熱処理)前の比較的柔らかい状態で素材を切削加工する方法です。
航空宇宙分野の軸受部品では、材料コストと加工工数の観点から、この生旋削工程が多用されます。
主なメリットは以下の通りです。
– 刃物寿命が長く、工具コストが低減
– 切削抵抗が低く高能率な加工が可能
– 素材応力が低く、歪みが少ない
– 後工程(焼入れ後研削)の歩留りが確保しやすい
いっぽう、デメリットも存在します。
– 焼入れ後の歪み変形を予測しにくい
– 切削時の熱・刃物摩耗による寸法変動管理の難しさ
– チップ破損による突発的な不良
これらをクリアし、安定した品質を実現するには、現場ノウハウの蓄積と最新技術の両輪が必要不可欠です。
【ベストプラクティス1】現場で培った最適な切削条件の見極め
「数値データ+職人勘」の融合がカギ
AISIM50鋼の生旋削加工では、まず基本となる切削条件のマトリクス(回転数、送り速度、切込み深さ、使用工具材質)を作りこみます。
近年は切削シミュレーションや加工現場のIoTデータ利用が進んでいますが、最終的には「現場での微細な音・振動」「チップのカケ具合」など、職人の経験値が大きくモノをいいます。
デジタルデータと職人勘の両輪をうまくミックスすることで、「異常発生前に先手を打つ」ことが可能です。
最適化のためのポイント
– 工具選定:コーティング超硬(TiAlN系)、セラミックスなど実機検証を怠らない
– クーラント量&切りくず処理:被削性にバラつきが出やすい航空材料ほど、切粉の流れを観察すべき
– 機械剛性・チャックの振れ:微細な振れ・ビビリが最終精度を左右するので、基礎メンテナンスは徹底
こうしたポイントを地道にカイゼンし続けることが、航空品質への近道になります。
【ベストプラクティス2】工程設計と後工程へのフィードバック活用
加工・熱処理・研削まで「ワンパス」で考える
旋削工程が最良でも、焼入れ・研磨工程を挟むと寸法がズレる—これは航空業界でよくある現象です。
したがって、生旋削工程で“完成品寸法”に追い込むのではなく、
– 焼入れ変形
– 残留応力
– 研削時の肉厚確保
までをセットで設計・フィードバックする体制が求められます。
PDCAサイクルの現場実践例
実際の現場では「この焼入れ炉ならこの方向に歪みやすい」「この工具メーカーの規格品なら誤差は○μmまで」など、ムダにデータを溜め込むよりフィードバックループを速く回すことが肝です。
現場の“勘”と工場の“データ”が交差する瞬間、進化が生まれます。
【ベストプラクティス3】不良ゼロ実現への取り組み
昭和的アナログ技術の強みをあえて活かす
航空宇宙製品の現場は、自動化・デジタル化が叫ばれながらも、手作業による微細な検査や段取り作業が今なお主役です。
人の目でしか拾えない「表面の微かな傷」「異音」、あるいは「クセのある材料ロット」を見分けるベテランの力量が、今でも現場品質を支えています。
これは“昭和的アナログ技術”の再評価ともいえるでしょう。
品質管理の「三現主義」
不良ゼロを実現するには、
– “現場”に直行し
– “現物”を五感で観察し
– “現実”を記録して基準に反映する
といった、ごくシンプルな三現主義の姿勢が欠かせません。
近年はAIによる異常検知も普及し始めていますが、人による最終品質保証の意味は今後もしばらく残り続けるでしょう。
【ベストプラクティス4】現場と設計・調達の緊密な連携
バイヤー・サプライヤー間の“空気”の共有
バイヤー(調達担当)は“ものづくり現場”を肌で知るべきです。
軸受鋼・AISIM50鋼は調達難易度も高く、サプライチェーンの不安定さが製造リードタイムに直結します。
部品図面だけを見て簡単にサプライヤーを切り替えるのではなく、
– “なぜこの寸法公差なのか”
– “なぜこの材料指定があるのか”
– “生産現場で何が起きているのか”
まで理解しておく必要があります。
サプライヤー側から見れば、バイヤーの要求品質の深層(本当に求めているスペック、価格交渉だけではない現場目線)を知る努力が重要です。
双方の“空気感”の共有が、突発的な納期遅延・不良流出のリスクを減らします。
さいごに~未来を見据えた新たな進化と課題
AI・自動化と人の技能の融合
軸受鋼・AISIM50鋼の生旋削加工は、未だに人の熟練技に頼る工程が多いのが現実です。
しかし、今後はAIによるリアルタイム加工条件最適化、IoTでの設備状態把握、また自動研削への工程移管などが進むでしょう。
それでも変わらないのは「現場で考える」という姿勢です。
無人化が進もうとも、最後に製品を守るのは現場の力にほかなりません。
新時代へのチャレンジ
航空宇宙産業の未来は、脱炭素材料や次世代エネルギーへの移行も含め、これからさらに高いハードルが待ち受けます。
昭和から令和へ受け継がれてきた現場目線の知恵と、データドリブンな新しいものづくりの融合が、次の時代の「ベストプラクティス」を創出するのです。
軸受鋼・AISIM50鋼の生旋削は、その象徴ともいえます。
確かな品質と技術力で、航空宇宙の空を、そして日本のものづくりの未来を、共に切り開いていきましょう。
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