投稿日:2025年10月21日

靴下の毛玉を防ぐ混紡糸比率と仕上げ加工温度の設定

はじめに:靴下の毛玉、その「なぜ?」に迫る

靴下は日常生活において極めて身近なアイテムですが、長く使っていると気になるのが「毛玉」の発生です。
一見した小さな問題に見える毛玉ですが、実は顧客満足度やブランドイメージ、さらには繊維業界の競争力にも大きく関わってきます。

製造現場やバイヤーとして「なぜ毛玉ができるのか」「どうやって減らせるのか」を理解することは、高品質な製品づくりや効率的なサプライチェーンの構築に必要不可欠です。
そこで本記事では、靴下の毛玉発生メカニズムを科学的に掘り下げ、「混紡糸比率と仕上げ加工温度」がどのように毛玉防止に寄与するか、現場視点と業界最新動向を交えながら、深く解説します。

1. 靴下に毛玉ができる基本的メカニズム

1-1. 毛玉とは何か

毛玉とは、繊維の表面に残った余剰繊維や、摩擦によって抜け出した繊維が絡み合い、ボール状に固まったものです。
摩擦、洗濯、着用による擦れが主な発生要因となります。

1-2. 繊維素材と毛玉発生率の関係

一般的に、アクリルやポリエステルといった合成繊維はコットン(綿)に比べて毛玉ができやすい傾向があります。
化学繊維は強度が高いため、抜け出した後でも繊維が切れず絡み合いやすくなるためです。
一方で、天然繊維やウールは比較的毛玉ができにくいものの、風合いの変化や強度に弱い一面もあります。

2. 混紡糸比率による毛玉防止効果

2-1. 混紡糸とは何か

混紡糸とは、異なる種類の繊維を一定の比率で混ぜ合わせた糸を指します。
たとえば、コットン70%・ポリエステル30%というような比率が典型的です。

2-2. なぜ混紡糸比率で毛玉発生が変わるのか

コットンのような天然繊維は繊維の摩擦によるダメージをやわらげ、一度表面に出た余分な繊維も比較的脱落しやすいため、毛玉になりにくい傾向があります。
一方で、ポリエステルなどの合成繊維が混ざると、繊維自体がしなやかかつ強靭なため、そこから発生した繊維が表面で固着しやすくなり、毛玉としてとどまりやすくなります。

つまり、混紡糸の比率を変えることで「毛玉の発生リスク」と「製品としての耐久性・コスト」のバランスを取ることができます。

2-3. 最適な混紡比率の考え方

現場でよくある例として、
・コットン80%:ポリエステル20%
・コットン70%:ナイロン30%
のような比率が毛玉対策として有効だと考えられています。
60%以下にコットン比率が下がると、合成繊維由来の毛玉が目立ってくる傾向があります。

試験結果や現場ヒアリングを重ねると、「70〜80%の天然繊維+20〜30%の合成繊維」という組み合わせが、毛玉発生率と耐久性のバランスに優れているというのが実感値です。

2-4. 業界の定番と最新動向

昭和後期から平成にかけてはコスト重視で合成繊維比率が高い靴下も多く見られましたが、近年は「長く使える品質」や「メンテナンス性」を訴求するブランドが増え、コットン比率を高めに設定する傾向が復活しています。
また、環境配慮型のリサイクル混紡糸や、特殊な抗ピリング(毛玉抑制)加工を施した新素材も登場しています。

3. 仕上げ加工温度と毛玉の発生抑制の関係

3-1. 仕上げ加工とは

仕上げ加工とは、編み上げた靴下を定形・定寸・風合い付与の目的で高温で処理する工程です。
蒸気仕上げや乾熱仕上げなどさまざまな方式があります。

3-2. 温度設定の重要性

仕上げ加工時の温度は、繊維同士の絡まりかたや表面のフラットさに大きな影響を与えます。
温度が低すぎると繊維の表面が整わず、摩擦で抜け出す繊維が増え、結果として毛玉が発生しやすくなります。
逆に温度が高すぎると繊維が傷み、耐久性が損なわれたり、極端に縮むリスクがあります。

3-3. 適正加工温度と現場のノウハウ

一般的に、コットン混紡靴下の場合、仕上げ加工温度として130〜150℃程度が設定されることが多いです(蒸気仕上げの場合は110〜130℃)。
この範囲であれば、繊維表面がつややかになり抜け出しにくく、表面の余剰繊維も落ちやすくなります。

重要なのは、「混紡比率×仕上げ温度」による最適バランスを現場で経験的に見極めることです。
素材ごとに吸放湿性や収縮率が異なるため、小ロットごとにサンプル試作し、「毛玉発生の比較」「生地厚、収縮、風合いの変化」を確認することが求められます。

4. バイヤー・現場担当が知っておくべきチェックリスト

職場で「毛玉で返品・クレームが増えた」「ブランド価値を守りたい」という方も多いでしょう。
どのようにして実践的な毛玉対策を推進すべきなのでしょうか。

4-1. 素材選定時のポイント(バイヤー向け)

・混紡糸の原料証明や成分分析結果(比率の裏付け)
・抗ピリング加工(毛玉抑制)や防汚コーティングの有無
・ラボ試験での洗濯摩擦回数テスト結果
・サプライヤーの「フィードバックループ」体制(クレーム事例と対応力)

4-2. 製造現場での運用ポイント

・投入素材ごとの加工温度・時間の標準化・工場内での現物比較トライアル(年に数回は客先仕様にあわせてPDCAを回す)
・検査担当者の「見落とし防止」ツール整備(ipadで画像記録、スラブ抜き取りテストなど)

4-3. サプライヤー・バイヤーの連携

・毛玉発生要因について、納入現場・最前線が定期的に情報交換する体制
・現場主導の「問題共有→早期是正」サイクル強化
・ロット間の品質バラツキの見える化(クラウド共有、AI画像解析など最新技術の活用)

5. 昭和由来のアナログ現場と最新技術の融合

毛玉対策と一口に言っても、実際には多様な現場事情や経営判断ポイントが絡みます。
アナログ現場では伝統的な経験値・手感覚にも価値があります。
一方で、新たな時代には以下のような変化が求められています。

5-1. 定量データ活用による品質安定化

・AI画像判定や自動摩耗試験機の導入で人為的ミスを削減
・クラウド活用でサプライチェーン一体となった品質管理を推進

5-2. サーキュラーエコノミー対応混紡糸開発

・再生繊維、中空繊維、セルロース繊維混紡など新技術による毛玉低減策
・新素材の実用性評価実験とフィードバック

昔ながらの「顔が見える関係」と、最先端の「データ・最新技術による業務改善」は対立するものではなく、融合し合うことで靴下製造業界の新たな地平線が開けます。

まとめ:毛玉対策の本質 ―「混紡比率」と「仕上げ温度」の掛け合わせで差をつける

靴下の毛玉問題は単なる見た目の問題ではなく、繊維選定・工程設計・バイヤーの品質管理・顧客満足度に直結する課題です。
「混紡糸比率」と「仕上げ加工温度」を的確に設定し、それを現場で継続的に検証することが、今後の製造現場やサプライチェーンの競争力向上に不可欠です。

また、アナログな経験則とデジタル技術の融合、新素材の活用、現場主導のPDCAサイクルの徹底が、靴下産業のさらなる発展へとつながります。

毛玉の少ない高品質な靴下をつくるために、そしてメーカーもバイヤーもお客様も満足できるものづくりのために、ぜひ本記事の知見を現場で役立てていただければ幸いです。

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