投稿日:2025年7月30日

ブロック線図PID制御アルゴリズム最適調整ExcelPIDチューニング

ブロック線図とPID制御アルゴリズムの基本

ブロック線図とは何か

製造業の自動化や制御システムの現場では、「ブロック線図」という用語は頻繁に登場します。
ブロック線図とは、制御システムの各要素を「ブロック」として図式化し、それぞれの入出力関係を視覚的に示す図です。

現場で設備のトラブル解析や新システムの導入を行う際、このブロック線図を描くことは非常に重要です。
なぜなら、個々の制御要素、センサー、アクチュエーター、それらを繋ぐ伝達関数の関係を明確にできるからです。
この「見える化」は、原因追及や最適化、さらには現場教育に大きな威力を発揮します。

PID制御アルゴリズムの概要

製造ラインの温度・圧力・流量制御など、プロセス制御の現場で古くから不動の地位を誇るのがPID制御です。
PIDとは、Proportional(比例)、Integral(積分)、Derivative(微分)の頭文字です。

比例(P)制御は偏差(目標値と現在値の差)に追従し、積分(I)制御は偏差の蓄積(時間積分)を補正、微分(D)制御は変化量の予測補正を行います。
各制御要素の「ゲイン」を調整し、最適な制御出力を実現します。

現場技術者にとって、「安定した設備運転」や「品質のバラツキ最小化」、「省エネ制御」を実現するうえでPIDパラメータの最適調整は避けて通れない課題です。

昭和から続くアナログ手法――なぜ今も現役なのか

近年、AIやモデル予測制御(MPC)など高級な自動制御技術が登場していますが、実際の製造現場ではいまだに「PID制御」が圧倒的なシェアを誇っています。

それはなぜでしょうか。

最大の理由は「応用範囲の広さ」「安定性」「運転・保守の容易さ」そして、何より「現場技術者がその動きを直感的に理解できる」からです。
つまみやパラメータの数値を調整したときに、どうラインが反応するか。
現場肌感覚で理解できる「強み」こそが、PID制御が普及の根強さのワケです。

PID制御チューニングの現場ノウハウ

「良いパラメータ」とは何か

PID制御を最適化するには、P、I、D各パラメータをシステムごとに調整する必要があります。
ここで考えたいのは「何をもって最適」とするかです。

一般には以下の評価指標が利用されます。

・定常偏差:目標値と実際の値のずれ
・オーバーシュート:目標値を一時的に大きく飛び越える量
・立ち上がり時間:目標値に達するまでのスピード
・揺れ(ハンチング・発振):安定性の悪さ

皆さんもライン立ち上げで「早く目的値に達したいが、品質や安全性を考えればオーバーシュートはNG」「できるだけ安定させたい」など、現場ならではのトレードオフで悩んだ経験があるのではないでしょうか。

伝統的なチューニング手法の落とし穴

従来は試行錯誤でP、I、Dをいじり、動きを見ながら最適値を見つける手法が主流でした。
代表的な手法としては「Ziegler-Nichols法」「Cohen-Coon法」が有名です。
ですが、これらの手法は
1. 短時間のシステム応答をベースに計算される
2. システムのモデルやクセ(非線形性、遅れ)を加味しきれない
3. 現場で頻発する「負荷変動」「経年劣化」に対応しきれない

といった課題があります。

実際の現場では、同じ値で安定していたはずの設備が「別の日」「数ヶ月後」になると急に狙った制御ができなくなるといったトラブルも多発しています。

「現場改善型」PIDチューニングの新潮流

最近の現場改善では、従来のような「職人技」に頼った調整だけでなく、もっと情報武装した科学的・論理的アプローチが増えてきています。

例えば
・生データのロギング(設備データを1秒ごとに蓄積・分析)
・ExcelやPythonの活用による再現シミュレーション
・Excelの「ソルバー」機能で誤差最小化計算
・解析ソフト(Wavelet解析等)による異常兆候の早期発見

など、データドリブンな現場運用が現実味を帯びています。

そのカギを握るのが「Excel PIDチューニング」といえるでしょう。

Excelを活用した現場密着型のPIDチューニング

Excel PIDチューニングのメリット

Excelは、現場に最も普及している分析ツールです。
特別なプログラミング知識がなくとも、データの可視化・分析から最適化計算まで対応できる力を持っています。

現場データをExcelで解析すれば、従来の「直感」だけに頼るのではなく、最適値に近いパラメータ探索を効率的に行うことができます。
設備停止や生産ロスを最小に、失敗のリスクを下げる施策として定着しつつあります。

実践:ExcelでPIDアルゴリズムをシミュレートする

ここでは、実際にExcelで簡易的なPIDシミュレーションモデルを組む方法をご紹介します。

(1)収集した制御対象の履歴データを時系列でExcelに入力
(2)各時点での偏差(目標値-現在値)を計算
(3)P=偏差×Pゲイン、I=偏差の累積×Iゲイン、D=偏差の変化量×Dゲイン
(4)これらを合算し、擬似的制御出力を算出
(5)得られた制御出力で、システムの応答(出力値)を次時刻の入力とする
(6)この反応が理想的な挙動(オーバーシュートがない、早く収束する)に近いパラメータをソルバーや手動試行で探す

現場担当者が「なぜこのゲイン調整が必要か」を身体で納得できるのがExcelシミュレーションの大きな強みです。

Excel最適化(ソルバー)の活用法

Excelには「ソルバー」というアドイン機能があります。
これは、評価指標(例えば最小二乗誤差、過不足の二乗和)を目的関数として、制御パラメータを自動で最適値に調整してくれるツールです。

・目的関数セルには「目標値とシミュレート値の絶対値の総和」などを入力
・変数セルにP、I、D各値を設定
・「制御指標を最小化」としてソルバーで最適パラメータを探索

この方法により、「現場での調整回数そのものを大幅に減らす」ことができ、属人的な職人芸からの脱却に繋がります。

現実的な落とし穴と対処法

もちろん、「PIDチューニング=Excelで解決」というわけではありません。
実設備は、応答遅れ、大きなノイズ、干渉要因(外部揺らぎ)など現場特有のクセが山積みです。

そのため、
・一度のチューニングで完璧にすることにこだわらず「小さな仮説→現場適用→再分析」とPDCAを繰り返す
・異常値や外れ値はデータクリーニングで適切に除去
・制御出力が現設備の限界値を超えないようパラメータ範囲に制限をかける

といった、実践的な知恵が求められます。

バイヤー・サプライヤーに伝えたい「現場目線」の視点

バイヤーが知っておきたい制御システムの核心

工場設備の調達・購買担当者(バイヤー)は、設備仕様書やカタログ性能だけでなく、現場の「真の使い方」に目を向けることが求められます。

例えば、
「新設ラインでも結局は現場要員がPIDパラメータ調整で苦労している」
「納入後の調整・立ち上げ支援にどこまでベンダーが付き合ってくれるのか」
「現場が求めているのは『万能な自動制御装置』よりも、扱いやすさ・保守性・現場ノウハウの言語化」

こうした「仕様には出てこない、運用における本質」を理解し、設備選定や要求書作成に生かすことが、結果的にライン安定化・生産性向上に繋がります。

サプライヤー視点:バイヤーのニーズを「現場レベル」でひも解く

サプライヤー側は、バイヤー・ユーザーの現場苦労を自ら検証・体験し、「チューニング性のしやすさ」「パラメータ調整のサポート体制」「トライ&エラーしやすい環境」まで含めた提案が求められます。

例えば、
「Excelシミュレーションモデルを納入パッケージに同梱」
「PID調整のeラーニング教材の提供」
「設備納入後の初期調整サポートを『1年無料』で」

といった、バイヤーの“現場からの改善要求”に一歩踏み込んだソリューションが差別化ポイントとなるでしょう。

まとめ:昭和から令和へ、現場力を磨くデジタル活用

PID制御は“アナログの香り”が色濃く残る制御技術ですが、いまその現場力とデジタル活用が融合し、大きな進化を遂げつつあります。
Excelなど馴染みやすいITツールを活用し、「なぜこの調整が必要か」を現場技術者自身が理解・納得する。
「ブロック線図」でシステム全体を俯瞰し、「現場×デジタル」の相互補完を実践する。
昭和・平成の“勘と経験”から、令和流の“見える化・共有化・データドリブン”へ。

バイヤー・サプライヤー双方が「現場の困りごと」「調達時点で押さえておくべき本質」をよく理解して、より良い制御システムと現場成長に貢献していきましょう。

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