投稿日:2025年7月29日

軽量化・高機能化のための車体構造接着技術

はじめに:次世代自動車開発と車体構造接着技術

近年、電気自動車(EV)やハイブリッドカーをはじめとする次世代自動車の開発が進み、車体の軽量化と高機能化は自動車メーカーにとって避けて通れない課題となっています。

この大きな流れの中で、構造接着剤を用いた車体接合技術が従来の溶接やボルト締結に代わる新たな標準として定着しつつあります。

現場目線でみると、「鉄と鉄を溶接するだけ」だった時代から、「異種材料をどうつなぐか」「コストと性能をいかに両立させるか」という、より複雑で高度なテーマにシフトしていることを実感しています。

本記事では、現場の経験と最新動向の双方を交えながら、車体軽量化と高機能化を支える構造接着技術について、できるだけ実践的な視点で深掘りしていきます。

車体構造接着の基礎知識

従来工法との違いと接着技術の優位性

車体の構造接合には長年にわたりスポット溶接・アーク溶接・ボルト締結が主流でした。

しかし部材の多様化、特にアルミ合金やCFRP(炭素繊維強化樹脂)など軽量・高強度素材の採用拡大を背景に、これら従来工法では達成しづらい「異種材接合」や「応力分散」「防錆性能」などの観点から、接着剤工法が注目されています。

構造接着剤は接合面全体で荷重を受け止めるため応力集中を緩和し、剛性を高めながら耐久性の向上も図れます。

さらには水密・気密性を高め、異種金属の電食(ガルバニック腐食)を防ぐといった副次的メリットもあります。

接着剤の種類と主な用途

自動車分野で主に用いられる構造接着剤は、「エポキシ系」「ポリウレタン系」「アクリル系」などが代表的です。

現在、最も普及しているのはエポキシ系接着剤で、耐熱・耐久・機械的強度に優れています。

特にホワイトボディ工程(塗装前車体)で使われるホットキュアエポキシは主要工程の自動化にも適合しています。

また、アクリル系は加工性の良さ・低温硬化など、作業性を重視した現場で重宝されています。

車体軽量化のための高度な材料接合:なぜ接着が有効か

異種材料の複合化と接着技術

自動車の骨格設計は従来、100%鋼板同士の溶接が基本でした。

現在は、1台の車体内で鋼材、アルミ、樹脂、CFRPなど複数材料を用途によって最適配置(マルチマテリアル化)する時代です。

このとき、鋼とアルミ、アルミと樹脂のように、従来の溶接では結合が困難な組み合わせが発生します。

現場では溶接+リベット+接着剤を「ハイブリッド接合」として使い分けることで、耐衝撃性や剛性アップ、接合部の肉厚低減=軽量化に繋げています。

材料メーカー・自動車メーカー・接着剤メーカーが三位一体で技術開発を推進している現状は、まさに自動車業界の変革を象徴するものです。

車体強度・耐久性を高めながら、いかに軽くするか

接合方法選定の現場では、単純な強度試験だけでなく、「長期耐久」「部分剥離」「防錆性」「生産タクト」などさまざまな条件をクリアする必要があります。

最新の高機能接着剤は、耐熱性・耐水性・耐油性・耐溶剤性などの性能をもち、塗装焼付け工程の高温下でも安定して硬化できるよう設計されています。

また薄板化・肉抜き、補強メンバーの省略による軽量化と共に、衝突安全性能やボディの防音・振動性能の向上にも貢献しています。

アナログ業界でも避けられない「脱・昭和」~現場が知る調達と製造課題~

品質保証・標準化の壁

昭和~平成初期の製造現場的な感覚では、「接着剤は信頼できるのか?」という疑念や、「溶接されていない接合部は不安」といった声が根強く残っています。

しかし、グローバル競争にさらされる自動車業界では、客観的なデータに基づいた標準化・品質保証体系の構築が喫緊の課題です。

信頼性の可視化と安定生産へ移行するため、接合部の強度検査・耐久試験・他工法との併用実績(ハイブリッド工法)など、データドリブンの取り組みが加速しています。

調達力とサプライチェーン強化の実践ポイント

新しい構造接着技術の導入では、原材料調達・メーカー選定・品質要求水準など、購買担当者も厳しい選択を迫られます。

まず大切なのは、サプライヤーとの早期連携です。

設計段階から実用化に向けてベンダーと二人三脚で接合プロセスをブラッシュアップし、工法転換によるコスト増・オペレーションの混乱を最小化することがカギとなります。

また接着剤のロットブレや保管条件、賞味期限管理など、アナログな管理でも「ミスしない仕組みづくり」が求められます。

このような現場主導型の連携が、「昭和の品質保証」をアップデートする根本的な手法です。

これからの車体構造接着技術の展望

工場自動化・スマートファクトリー化への貢献

接着工法の導入は、工場自動化や製造ラインのスマート化にも直結します。

ロボットによる定量塗布、ビジョンカメラによる塗布面確認、硬化制御の自動化など、生産ラインの高度化と品質トレーサビリティ向上に大きく寄与します。

生産管理担当者の視点では、「再現性が高い」「作業者依存を排除できる」「省人化できる」など、現場変革のメリットも明確です。

SDGs・環境対応と車体分解リサイクルの進化

車体構造接着技術は、SDGs・環境負荷低減にも直結しています。

軽量化による燃費向上はもちろんですが、車体リサイクル工程における分解のしやすさ、VOC(揮発性有機化合物)削減、低温硬化によるエネルギー消費削減など、多面的な環境価値が生まれます。

リサイクルを想定した「剥離性接着剤」の開発や、環境配慮型材料への転換も今後一層進むでしょう。

バイヤー・サプライヤーに求められる新たな視点

バイヤーが接着技術導入で重視すべきポイント

購買担当者が留意すべきは、単なる単価比較や材料スペックだけでなく、「現場課題を一緒に解決できる開発力」「現場テストへの積極協力」「トラブル時の迅速な技術支援」といった、サプライヤーの“伴走型姿勢”です。

また貴重なサンプルでの信頼構築や、透明性の高い納期・在庫管理体制も重要視されます。

現場の細かな要望(例:硬化時間短縮・ライン改修コスト低減)を的確にくみ取り、実現できるメーカーは評価が高いです。

サプライヤーが身につけたいバイヤー目線

サプライヤー側は接着剤や副資材メーカーとして、調達側が何を重視しているか、どんな失敗・不安があるかを逆の立場で理解することが重要です。

例えば現場から「接着部が外れたらどうしよう…」と不安が出た際、そのリスクの本質をデータで解消する提案や、設計段階からの“共創型”サポートが価値を発揮します。

また「他社採用先の実績」「不具合時の再発防止策」「IoTと組み合わせたラインモニタリング提案」など、先回りしたバイヤー視点を持つことで、信頼構築に繋げることができます。

まとめ:現場を知るプロだからこそできる、車体構造接着技術の“本当の価値”発信

車体構造接着技術は、単なる軽量化・高機能化の手段にとどまらず、設計・調達・製造・品質保証・生産管理のあらゆる現場改革の起爆剤になりつつあります。

昭和型のアナログ的思考から脱却し、データを活用した品質保証、サプライチェーンの連携、工場自動化や環境負荷低減といった未来志向の取り組みを進めていくことが、自動車業界・製造業全体の成長に繋がります。

現場のリアルな課題感と新しい接合技術の可能性を、これからもより多くの方々と共有し、共に進化していきたいと願っています。

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