投稿日:2025年8月29日

輸送途中の港湾混雑による中継港滞留リスクを下げるブッキング戦略

はじめに:港湾混雑がもたらすサプライチェーンの落とし穴

長い歴史を持つ日本の製造業では、海外サプライヤーの活用やグローバル生産が常態化し、今や調達・購買業務において中継港や輸送ルートの正確な選定は死活的な重要性を持っています。

昨今、コロナ禍や世界情勢の影響を受け、港湾混雑(ポートコンジェスチョン)、いわゆる中継港での滞留が大きなリスクとなって浮上しています。

この混雑により輸送遅延が連鎖的に発生し、生産ラインの停止や多額の追加コストが現場を苦しめているのが現状です。

省人化、合理化が叫ばれる一方で、実際の現場には今なお昭和的とも言えるアナログなルール・商習慣が色濃く残っています。

この記事では、20年以上現場で培った経験・知見を基に、バイヤーが実践すべきブッキング(本船予約)戦略やリスク低減のリアルなノウハウを具体的にご紹介します。

サプライヤー視点でも、顧客であるバイヤーが何を考えているかをしっかりつかみ、提案力を高めていただく一助となれば幸いです。

港湾混雑による中継港滞留リスクの実態

港湾混雑はなぜ起こるのか?根本原因を押さえる

世界の主要港では、コンテナの取扱量増加に港湾設備や人員配置が追いつかず、貨物船の長蛇の列が常態化しています。

特にアジア・米国間の物流では、マレーシアのポートケランやシンガポール、韓国・釜山、カナダ・バンクーバーなどがボトルネック化しやすい傾向にあります。

要因としては次のような点が挙げられます。

– 世界的なeコマース市場拡大による荷動き増
– 緊急便・スポット需要の乱発
– サプライチェーン混乱による波及的な行列
– コンテナ不足・トラックドライバー不足
– 港湾ストライキや悪天候

これらが複合的に噛み合い、「本船は出港したが、中継港で足止め」「ターミナルに置き去り」などの事態が発生します。

滞留リスクが現場にもたらす致命傷とは

中継港での滞留リスクが現場のサプライチェーンに与えるインパクトは計り知れません。

– 生産計画の大幅な遅延
– 工場ライン停止による損失
– 追加輸送費・緊急便の手配コスト増
– 販売機会の損失や納期遅延での信頼失墜

「納期順守」という絶対条件を満たせず、取引先との関係悪化や受注競争での劣位に繋がるケースが増えています。

ですから、ブッキング段階での対応力・判断力が、バイヤー・サプライヤー双方に求められているのです。

リスクを下げるための実践的ブッキング戦略

1. 「最安」ではなく「最適」本船予約を目指す

コスト最優先の安値追求は大きな落とし穴です。

経験上、「予定通り着かない安い輸送」は、「追加コストと信頼低下」をもたらし、結果的に最も高い買い物になります。

重要なのは単なる「運賃比較」ではありません。

– 過去半年程度の寄港実績から、滞留件数や遅延傾向が顕著な航路・船会社・中継港をリスト化する
– サプライヤーまたはフォワーダー(乙仲)経由でリアルな「混雑情報」「今週の捌け具合」をヒアリングして当てにする

数字だけでなく現場の“肌感”を汲み取ること。

例えば、ある年の第四四半期、A港は同比2倍の滞留案件があった。そういった具体データは、最安値オファーのリスクを見抜く材料になります。

2. 替えが利く複数航路を確保する「マルチルート戦略」

主要港間では複数のルート・本船が存在する場合があります。

– 基本ルートA(定番だが混雑リスク高)
– 予備ルートB(少し高いが流れ良し)
– 緊急ルートC(費用高いが確実)

可能な限りオプションを用意し、受注量や納期余裕度に応じて「リスクヘッジの切り替え」ができる態勢を整えましょう。

ブッキング時に「マルチルート」の提案力を持った乙仲・サプライヤーを味方にできると、現場の安心感がまるで違ってきます。

3. 書面内示・契約で「混雑リスク分担」を明文化する

昭和的口約束・阿吽の呼吸が根強い業界ですが、港湾混雑といった不可抗力リスクに関して「誰がどの範疇まで費用・工数を負担するか」は、文書で内示・契約条項化しておくべきです。

– 想定以上の日数遅延発生時の追加費用負担
– 中継港滞留→迂回輸送の費用分担
– ブッキングから納品までの「万が一」想定表の交換

これらを事前に交わしておけば、いざという場面のトラブル回避や調整がスムーズになります。

4. 「アナログ&デジタル」両輪での現場監視体制

最新の物流管制システム(AISやIoT)を駆使した「リアルタイム可視化」も重要ですが、こと日本の製造業現場では、サプライヤー側の情報伝達速度や、乙仲担当者のベテラン感覚にまだまだ大きな差異があります。

– システムによる本船動静・遅延早期警告
– 乙仲主導の人脈・ネットワーク情報
– サプライヤー現場での身体を張った調査力

「デジタルで得た一次情報」と「ベテラン同士の生情報」の両方を各階層で集約・判断することが円滑なリカバリーを生み出します。

昭和的アナログと令和のICT、双方の強みを組み合わせることで、現場の先を読んだ本船ブッキング戦略を実現します。

バイヤーの視点とサプライヤーの協調センス

バイヤーにとっては、「最適な調達=納期・コスト・品質・柔軟性」の三位一体を求めることが仕事の本質です。

港湾混雑という外部要因にはどうしても無力な部分がありますが、「現場目線で先手を打つ姿勢」がベテランバイヤーの真骨頂だと言えます。

サプライヤーの立場では、

– どれだけ「現地での本当の状況」をキャッチアップできるか
– 事前アラートやブッキング段階での並走・提案力を磨けるか
– イレギュラー発生時に「追加工数」「コスト負担」の説明・交渉をいかに円滑にできるか

この「一歩先を行く情報発信」が、バイヤーからの支持を大きく左右します。

ともに「納期ファースト」の旗を掲げ、港湾混雑リスクという巨大な不確定要素に立ち向かう姿勢が、やがては長い信頼関係を築く基盤となるのです。

製造業現場の未来:ラテラルシンキングでリスク対応を再発明する

今後ますます不確実性が高まるサプライチェーンの中で、単なる「作業の効率化」だけでなく、「事象の構造そのものに問いを立てる」ようなラテラル(水平)思考も求められるでしょう。

– 港湾混雑の兆候段階でアラートをあげ、平準出荷日を計画的に前倒しする
– 仕入れ先国・生産国自体を多元化することで、本船・中継港依存度自体を下げる
– 代替部材やローカルソーシングのシナリオを策定し「もしもの時の逃げ道」を常に複数準備する

未来の製造業現場では、「混雑や滞留はあるもの」と割り切り、“遅延”そのものに強い現場体質と現場ネットワークを磨く必要があります。

まとめ:現場を守る「情報」「信頼」「工夫」がハイレベルなブッキングを生む

港湾混雑・中継港滞留リスクは、現場最前線のバイヤー・サプライヤー双方にとって避けて通れない現実です。

「リードタイムに余裕を持て」「多少高くてもリスク分散せよ」と言うのは簡単ですが、現実の製造業ではコスト競争・短納期化の制約が強まるばかりです。

そこで必要になるのは、

– 情報の正確な蒐集・共有
– サプライヤーとの信頼と透明性
– アナログとデジタルをハイブリッドで運用する現場力
– そして、既存の枠組みにとらわれない横断的“工夫力”

本当に現場に根付いたブッキング戦略・リスク対応ノウハウを日々アップデートし続けることで、想定外のトラブルを最小化できるのです。

日本の製造業を支える一人ひとりが、その手で次代のサプライチェーン像を創り上げていきましょう。

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