投稿日:2025年9月3日

CPTPP RCEPの原産地自己申告を活用して特恵取得率を高める証明スキーム

はじめに:製造業の国際競争力向上に寄与するFTAの活用

近年、世界の製造業はグローバルサプライチェーンの中で激しい競争にさらされています。
コスト削減だけではなく、スピードや品質、環境対応まで求められる中、国際取引での「競争優位性」の鍵を握るのが自由貿易協定(FTA)です。
とくにCPTPP(包括的・先進的環太平洋パートナーシップ協定)やRCEP(地域的な包括的経済連携)は、アジア太平洋を中心に広範な関税削減メリットを提供しています。
しかし、せっかくの特恵関税も、「原産地証明書の申告」がスムーズかつ正確でなければ利用率が高まりません。

本記事では、製造業の現場目線から、CPTPPやRCEPの「原産地自己申告」制度を使って特恵取得率を最大化するための実践的スキームと、その背景に根強いアナログ業界の動向を交えて解説します。

CPTPP・RCEPがもたらす特恵関税の価値と現実

FTAによるコスト競争力へのインパクト

CPTPPやRCEPの最大の恩恵は「関税の撤廃や削減」です。
これにより輸出価格の低減が可能になり、サプライヤーとして受注確率も上がります。
しかし実態として、日本の特恵関税の取得率は欧州諸国と比べて低く、「FTAがあるのに使われていない物品」が多く存在します。
現場では「証明書を取る手間が大きい」「制度が複雑」という課題が根強い要因です。

原産地証明の取得ハードル

FTA適用には、「原産性」を立証する必要があります。
従来の原産地証明書(Certificate of Origin)は、日本商工会議所等の公的機関での発給が必要であり、現場では書類作成や手続きに多大な時間とコストがかかっていました。
そのため、せっかくのコストメリットが事務コストで消えてしまう事態も起きていました。
この“負のループ”が、アナログ文化が色濃い製造業で根付いていたのです。

原産地自己申告制度とは何か

自己申告の特徴とメリット

CPTPPやRCEPでは、従来の「公的証明書」に加えて「サプライヤーや輸出者自身による自己申告」の仕組みが導入されています。
これにより、自社で「原産性を証明できる根拠(記録)」と「自己申告書」を作成し、輸出・輸入時に相手国の税関へ提出することが認められています。
この原産地自己申告方式は、調達購買や生産現場の運用を的確に組み立てれば、書類作成・取得のリードタイムが大幅に短縮するのがメリットです。
つまり、現場オペレーションを変革することで「特恵取得率UP=コスト優位の最大化」となるわけです。

自己申告に必要な要件

原産地自己申告を成立させるためには「客観的根拠資料」と「記録の保存体制」が不可欠です。
これは不要なコストを省略できる反面、誤った申告をすればペナルティリスクや遡及調査があり、ハードルも存在します。
製造現場の工程管理や調達履歴管理がアナログ(紙・Excel)中心では、証明スキームに穴ができやすいのも現実的な問題です。
昭和的な“帳票文化”から抜け出し、システム管理や意識改革を組み合わせることが求められています。

現場目線から見た原産地自己申告スキームの作りこみ

ポイント1:現場レベルでの材料トレース体制の構築

CPTPPやRCEPの原産地規則は、「品目ごと」「材料ごと」に細かく定められているため、現場では「どの材料がどこで生産されたか」「どの工程で加工されたか」をトレースできる体制が必須です。
そのための具体策として、下記のような構築が有効です。

・調達購買時にサプライヤーから「原産地証明書」「インボイス」等を電子データで収集・管理する
・生産時の使用部材・ロット情報を紐付けできる仕組みを作る(システム化がベスト、難しければ台帳でも開始可能)
・完成品への組込み履歴を一元管理する

これらによって「自己申告書作成時に必要な裏付け」をいつでも出せる状態に保ちます。

ポイント2:調達購買部門と生産管理部門の連携強化

アナログ製造業の現場では、「購買は購買」「生産は生産」と分断しがちです。
しかし、原産地自己申告の成否は「どの原材料を仕入れ、どのような原産地か」を購買部門が把握し、「どのように現場で加工したか」の生産管理部門が正確に記録連携することが不可欠です。
定期的な情報共有会議や原材料原産地リストの整備・改訂を進めることで、申告書記載内容の信頼性が高くなります。

ポイント3:工場自動化/デジタル化の活用

生産管理や材料履歴の記録・管理を「目視」「手書き」で運用するのは限界があります。
工場のIoT化、製造実行システム(MES)や生産管理システム(ERP)の導入により、リアルタイムで原材料や工程をトラッキングすることが可能になります。
バーコードやQRコードの活用は、現場負荷を増やさずにトレーサビリティを担保する現実的な対応です。

ポイント4:定期的な教育と内部監査体制

どんなに立派な仕組みを作っても、現場で理解されなければ運用が破綻します。
最前線の現場リーダーやベテラン作業員へ向けて、毎年のFTA制度に関する研修や、実際に自己申告書を作成する勉強会を開くことが現場文化の変革に重要です。
同時に、自己申告の証憑管理や運用状況について、内部監査や外部コンサルタントの定期的な点検を組み合わせることで、リスク低減と精度向上が図れます。

昭和的アナログ文化の壁と、現場での“溶かし方”

変革を阻む「慣性」の正体

製造業、とくに中堅・中小規模の現場では、「前例踏襲」「帳票重視」「IT化へのアレルギー感」が根強く残っています。
「今までこのやり方で問題なかった」「新しい制度が面倒だ」という抵抗が、FTA活用・取得率を著しく下げてきました。
この壁を乗り越えるには、「FTA特恵でのコストダウン=現場の経費削減・会社の生き残り」という“自分ごと化”と、「現場に合ったスモールスタート」で仕組みを始めることがポイントです。

現場の意識改革と巻き込み型の運用

・まずは「一部品目から」「特定の取引先から」など、限定したプロジェクトで運用を開始します。
・うまくできた事例を社内で横展開し、「あの現場でもできた」という成功体験を積み上げていきます。
・現場リーダーや職人層を巻き込み、「やらされ感」ではなく「付加価値向上」という新たなやりがいを共有していくことが有効です。

現場の実情に即した仕組みであれば、「やってみたら楽だった」「思ったより簡単だった」という声が広がり、FTA活用が常識となっていきます。

サプライヤー/バイヤーの立場から見る自己申告スキームの最適化

サプライヤー側が知っておきたいバイヤー視点

サプライヤーとしては、
・バイヤーから「原産地情報」「特恵適用可否」をしつこく求められる
・曖昧な場合は受注チャンスを逃す
という場面が多くなります。
しっかりとした自己申告と裏付けができていれば、他社との差別化が可能です。
また、「タイムリーな資料提出」「根拠付きの説明」が求められますので、平時からのデータ・書類管理体制構築が大きな武器となります。

バイヤー側が求める理想像

バイヤーはより安価かつ持続可能なサプライチェーンを求めています。
そのためには「サプライヤーから提出される自己申告の信頼性(再現性や説明性)」「監査対応力」などが重要な評価軸となります。
バイヤーとサプライヤーが「原産地証明の根拠共有」を密にすることで、突発リスクの低減や、長期にわたる良好な取引関係が築けます。

まとめ:FTA原産地自己申告の現場導入こそ、日本製造業の生き残り策

CPTPPやRCEPの特恵関税は、日本の製造業がグローバル競争で生き抜くための切り札となります。
しかし、何より重要なのは現場目線での「原産地自己申告スキーム」の着実な運用です。
現場の帳票文化に寄り添いつつ、トレースとデジタル化を組み合わせ、小さな成功体験を積み重ねることで、昭和的アナログの壁も徐々に溶かすことができます。
サプライヤー・バイヤー双方の信頼基盤を築き、特恵取得率を最大化すれば、サプライチェーン全体の利益と競争力が大きく高まります。

今こそ、現場改革とFTA活用による“日本製造業の未来地図”を、一人ひとりの現場から描き始めましょう。

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