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ブランド表記と意匠・商標の取り扱い:OEM契約の注意点

目次
はじめに:OEM契約が製造業にもたらす新たな地平線
日本の製造業では、近年OEM(Original Equipment Manufacturer)契約が以前にも増して重要となってきました。
特に、ブランド価値の向上やコスト削減、新たなビジネスチャンスの追求の観点から、OEMは「自社生産」から「協働によるモノづくり」へのパラダイムシフトを促しています。
しかし、OEM契約には多くの専門的注意点が潜んでおり、中でもブランド表記、意匠権、商標権の取り扱いは、営業面・法務面双方で特にトラブルが起こりやすい領域です。
この記事では、現場の実態を踏まえつつ、OEM契約におけるブランド表記と意匠・商標管理の重要なポイントを解説します。
製造現場に根付くOEM契約の現状と課題
昭和から続く“持ちつ持たれつ”の商習慣
製造業には、いまだ厳しい上意下達や系列主義、口約束に基づく商習慣が色濃く残っています。
現場の担当者が「うちはOEMで作ってあげている。だから、先方のブランドを表記するのは当然だ」という意識のまま、正式な契約やブランド管理を十分に確立せずに進めてしまうケースも多く見受けられます。
このような“昭和的な”体質が残る限り、ブランドや知的財産のリスク管理は置き去りにされがちです。
バイヤーとサプライヤー、意識のすれ違い
バイヤー(発注側)は、製品が自社ブランドのものであることに強いこだわりを持っています。
一方、サプライヤー(受託側)は「どこまでブランド表記して良いのか」「作業着やパンフレットに自社の名前を出しても問題ないのか」といった迷いを抱えることが多いです。
この溝をきちんと埋めておかないと、後のトラブルや信用失墜の元になります。
ブランド表記の基本:OEM契約における立ち位置の明確化
ブランド表記のガイドライン整備が不可欠
OEM契約の最大の特徴は「製品はサプライヤーが作るが、バイヤー(発注側)のブランドで市場に出る」という点です。
したがって、どこに誰の名前やロゴが入るか、明確なガイドラインが必要になります。
現場のあるある事例として、納品伝票や製品パッケージ、取扱説明書にサプライヤーの企業名が意図せず記載されていたため、エンドユーザーが混乱したり、バイヤーからクレームが入るといった問題があります。
これらを未然に防ぐには、契約段階で以下の点を明確にしておくことが重要です。
- ブランド名・ロゴのどこへの表記を許可するか(製品本体・パッケージ・説明書・HP等)
- サプライヤー名をどこまで製品や資料に記載するか
- 共同開発や協業の場合のブランド表記ルール(連名表記や別ブランド立ち上げなど)
契約書で押さえるべきブランド表記のチェックリスト
契約書には必ず、ロゴやブランド表記に関する条項を盛り込むべきです。
たとえば「サプライヤーは発注者の書面での事前承諾なしに、発注者のブランド名・ロゴまたは類似する表示を使用しないこと」と明記します。
また、同じ工場ラインで他社ブランド品も製造している場合、各ブランドの統一感や管理も重要になります。
OEM契約の主軸:意匠権・商標権の実務的注意点
意匠権のグレーゾーンに潜むリスク
意匠・デザインは後工程で発生するトラブルの温床です。
バイヤーから「型(デザイン)はうちのオリジナルだから他社へ転売禁止」と言われていたのに、サプライヤーが類似形状の製品を作って別ブランドで販売してしまい、訴訟沙汰になる事例も後を絶ちません。
意匠登録出願をバイヤーが行っているか、設計段階でどちらの知財とするのか、契約段階から明確にし、誤解や無意識の二次利用を防ぎましょう。
現場では「似た製品を作ってくれ」と言われることも多いですが、“ちょっと変えれば大丈夫”という安易な判断は絶対に禁物です。
商標権・ロゴ使用:あいまいな運用に警鐘
商標権は、ブランド価値の根幹です。
OEMの現場で、「ラベルにちょこんと自分のロゴも入れさせてくれませんか」という申し出がしばしばありますが、バイヤー側から厳しく指導されることも多いです。
もし追加利用を希望する場合は、必ず事前に書面で許諾をもらいましょう。
また、OEM供給者の展示会やWebサイトなどで納入実績としてバイヤーの商標・ロゴを掲載したい場面もよくあります。
これも契約に明記し、公開範囲・媒体・期間をしっかり定め、事後トラブルを避けることが大切です。
現場発想のラテラル思考でOEMの“攻め”と“守り”を両立
ブランド共創:サプライヤーの差別化戦略
OEM=下請け、という発想から抜け出し、サプライヤー側も「技術力の高さ」や「デザイン提案力」をブランドとして訴求し、共創型OEMを目指す流れが出てきています。
たとえば、あえて「共同開発ブランド」として新しいブランドを立ち上げたり、販路拡大を共同で行う戦略的パートナーシップが急増中です。
この場合も、ブランド表記や知財権限の分担、どちらの商標を主体とするか、契約で細かく取り決めておく必要があります。
品質保証書・カタログ・Webでの“発信”のしかた
OEMで製造した製品が高性能・高品質であることを、どのようにサプライヤーがアピールするかも大きな論点です。
品質保証書やカタログ、Webサイトで「○○社ブランド品を製造しました」と示したい場合、情報公開ルールは契約で制限されることが多いです。
無断で事例紹介すると、情報漏洩や信頼低下の原因となるため要注意です。
一方で、近年はサプライヤー側も積極的に「自社がOEM供給している信頼のおけるメーカー」としてプレスリリースやWebで発信する流れが出ています。
この際は、バイヤー側との協議・合意形成のプロセスをしっかり踏んでいくことが信頼醸成のカギです。
昭和型から脱却する契約交渉術:トラブル防止の現場ポイント
口約束から書面化へ:「言った・言わない」をなくす
いまだに「昔からの付き合いだから大丈夫」という根拠のない信頼で、ブランド利用や意匠・商標に関する重要事項を口頭で済ませてしまう現場は少なくありません。
しかし、現代は法的トラブルや株主・当局への説明責任が重く、必ず契約書(NDAや個別の取り決め書)を交わしましょう。
契約締結までのプロセス標準化
ブランド表記や知財権限に関わる項目は、標準化したチェックリストで一つひとつ確認するのが有効です。
現場担当者・営業・法務・知財部門がチームとなり、契約業務を標準プロセス化することで、ヒューマンエラーや感情的衝突を防ぐことができます。
まとめ:製造業の未来は“知的財産マネジメント”にあり
OEM契約は、単なる「受託生産」ではなく、ブランド価値や知財を協働で高め合うパートナーシップの舞台へと進化しています。
現場目線では、「お互いの立ち位置の明確化」「契約事項の明文化」「問題発生時の速やかな協議体制構築」が、ブランド・意匠・商標トラブルを防ぐうえで不可欠です。
昭和から脱却したデジタル&グローバル時代の製造業にこそ、現場力と知財リテラシーを融合した“新しいものづくり”の在り方が求められています。
バイヤー・サプライヤー双方が“攻め”と“守り”を両立し、より良い時代を築いていきましょう。
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