投稿日:2025年8月23日

単価の内訳を工数材料副資材設備償却へ分解し交渉の狙い所を定める

単価分解の重要性と現場目線での真価

製造業の現場では、商品の単価がいかにして決まるかを正確に把握することが、調達購買担当やバイヤーの力の見せどころです。
単純に「もっと安くしてくれ」という交渉は一見強気に映りますが、サプライヤー側も現実的な限界を見据えて価格を決めています。

現場感覚に立ち返ると、単価そのものを“ブラックボックス”のまま扱っている交渉は、結果的に信頼関係やイノベーションすら阻害しかねません。

そのため、単価を「工数」「材料費」「副資材」「設備償却」などの要素に細かく分解し、どの部分で交渉余地が大きいのか――つまり“狙い所”を理解する視点こそ、これからの調達・調達業務では欠かせません。

この考え方は、サプライヤーにもバイヤーにも役立つ共通言語となり得ます。

単価構成の基本:4つの要素

量産品でも試作品でも、製品の単価は大きく分けて「工数」「材料」「副資材」「設備償却」の4要素から成り立っています。
この4要素の概略を理解することで、表面的な安値交渉に終始せず、もっと建設的なコストダウン策や価値創造につなげやすくなります。

工数:ヒトの力と時間の価値

工数とは、製品1個あたりの製造・組立・検査などに必要な現場作業時間とその賃金コストです。
日本の製造業では、いまだに人の手作業が多く残る現場も少なくありません。

例えば、旧態依然とした工場では作業の標準化が進んでおらず、ベテランの勘やノウハウに依存しがちです。
そのような場合、工数削減のための自働化や作業手順の見直し提案は、たんなる値下げ要求よりも遥かに前向きな交渉となります。

材料費:調達力と製品設計力のせめぎ合い

次に重要なのが材料費です。
これは素材(鉄、アルミ、プラスチックなど)の購入費や、部品調達費が含まれます。

材料費は世界的な市況に左右されがちですが、設計段階で「代替素材の提案」や「共通部品化」を進めれば、サプライチェーン全体のコスト低減が実現可能です。

バイヤーであれば、その一歩手前で「どこまで材料費が分解可能か」をサプライヤーに粘り強く聞き出すのが肝です。

副資材:見落としがちな隠れコストを可視化する

副資材には、ねじ・ワッシャー・潤滑油・治具など「製品単位では小さいが、積み重なれば大きくなる」ものが多いです。

副資材コストは意外と見逃しがちですが、定期的な見直しによって「相場よりも高く発注していた」「不要なものを習慣で使っていた」などのムダが浮き彫りになることも珍しくありません。

たとえば、現場の“なんとなく”で使われ続けているスペックオーバーな副資材は、バイヤーと現場の対話を通じて整理し、コストダウンの起点にできます。

設備償却:イニシャルコストと量産のバランス

設備償却とは、製造装置や金型などを導入する際の初期投資を、製造数で割り戻して単価に組み込む費用のことです。

とりわけ少量多品種の工場では、「金型の初期コストが重しになる」ため、設計段階での作りやすさ、段取り換えの容易さ、汎用性の高さが重要となります。

バイヤーが設備償却費を細かく分解して質問できると、単価交渉がより合理的かつ納得感のあるものになります。

現代バイヤーに求められる「単価分解力」

単価分解の力は、単なるコストダウンだけでなく「サプライヤーと共創して価値を高め合う」ための武器となります。
ここからは、実際の現場目線で、どのように交渉の“狙い所”を見極めていくべきか、その実践知について解説します。

現場を見てデータと勘の両方を磨く

単価交渉が机上論になりやすい最大の理由は、「データが整っていない」「現場を知らない」ことに起因します。

現場に足を運び、実際の作業やサプライヤーの工場設備のオペレーションを観察することで、「なぜこんなに工数がかかるのか」「自動化や治具化の提案は可能か」など、“勘”も交えたリアルな議論ができます。

昭和時代の「現場百遍」とも共鳴しますが、現実に工数削減や副資材の見直しアイデアは現場から生まれる事がほとんど。
積極的に現地を訪れることで、本当の“狙い所”を掴みやすくなります。

サプライヤーとの信頼と情報開示の推進

分解交渉がうまくいかない場合、多くが「情報隠蔽」に起因します。
“利益まで全部公開しろ”という無理筋な交渉は敬遠されがちですが、コスト要素ごとに「ここまでは開示できる、ここは難しい」と線引きを話し合うことが重要です。

双方が対話を積み重ね、たとえば材料費は透明性高く公開、しかし工数や償却費は経営判断で開示度を調整、という柔軟なやりとりこそ、「Win-Win」の単価決定を支えます。

コストダウンから価値競争への転換

単価分解のアプローチには、副次的なメリットがあります。
たとえば、「この工程だけコストが高いなら設計仕様を変えてみよう」あるいは「パートナーと共に新技術(簡易自動化やIoT化)を導入できるのでは?」といった建設的なディスカッションにつながります。

現代の製造業は、単なるコスト競争に陥るよりも、設計―生産―調達の全プロセスで価値を競い合う時代です。
単価分解力は、この価値競争時代の必須スキルなのです。

これからの単価交渉:レガシーの壁とデジタル化の突破口

昭和から続く製造業の現場は、いまだにアナログな調達・交渉風景が色濃く残っています。

紙伝票、口頭確認、曖昧な見積根拠…。
業界変革の足かせとなっているアナログ慣習を打ち破るには、「単価分解」を起点としたデジタル化への取り組みが理にかなっています。

見積フォーマットの標準化とデータベース化

エクセルや専用ツールを活用した「単価分解項目の標準化」は、サプライヤーごと・部品種ごとに単価の見える化と蓄積が容易にでき、部門横断的な知見共有にも役立ちます。

この動きを「見積情報データベース」の構築へと進化させることで、沈黙していた隠れた“改善ネタ”の発掘や、AIによるコスト予測精度向上も視野に入ります。

バイヤー・サプライヤー双方の「現場同士のつながり」強化

さらにデジタル化時代には、「現場同士がオンラインでもつながる」ことも武器です。
現場間オンライン会議で「この副資材の使い方を変えれば工数とコストが同時に削減できる」など、物理的距離に縛られない合理化が現実味を帯びてきました。

この現場志向×デジタルの知恵は、脱・昭和の処方箋といえるでしょう。

まとめ:単価分解でバイヤーもサプライヤーも強くなる

単価交渉を「工数」「材料費」「副資材」「設備償却」へと分解すればするほど、単なる値引き要求では得られない、生産現場起点の発見と納得感のあるコストダウンが可能となります。

このアプローチは、調達担当やバイヤーのキャリアアップにも不可欠です。
なぜなら、“分解力”が身につけば、現場への提案力とサプライヤーとの共創力をセットで磨けるからです。

そして、工場や現場を熟知している強いサプライヤーサイドにこそ、「バイヤーはどこを見て、なぜその交渉を仕掛けてくるのか?」といった本質を知っていただきたいと切に願っています。

昭和的泥臭さと、令和的デジタル活用が共存する現代のモノづくり現場。

単価分解による“狙い所”の見極めは、製造業の豊かな未来への第一歩となるでしょう。

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