投稿日:2025年12月1日

不具合報告書が作業の大部分を占める品質保証の実務

はじめに:製造現場のリアルな「品質保証」

製造業において、品質保証部門の役割は年々、その重みを増しています。
なぜなら、顧客満足度の向上やクレーム対応、コンプライアンスといった観点から、品質の信頼性は事業継続の根幹をなすからです。
しかし現場では、大きな時間と労力を「不具合報告書」の作成に費やしているのが実情です。

本記事では、20年以上にわたり現場で培ったノウハウをもとに、品質保証の実務と現場のリアルに迫ります。
また、不具合報告書がどのように日々の業務を支配しているのか、アナログから脱却しきれない現場だからこその課題や、日本の製造業に特有の事情も踏まえて、具体的な改善策や未来へのヒントを提示します。

品質保証部門の本来の役割とは

「品質保証」と「品質管理」の違い

まず整理しておきたいのは「品質保証」と「品質管理」は似て非なる職責である点です。
品質管理は主に現場レベルでの製品や工程の維持・改善を担当します。
一方、品質保証部門は経営品質や顧客との約束(保証)、リスクアセスメントといったマネジメント視点を持つ必要があります。

理想的な品質保証の姿

品質保証とは「クレームゼロ」を形式的に追いかけることではありません。
トラブルが発生した際に、その原因を深く掘り下げて再発を未然に防ぎ、企業としての信頼を確立することが本来の使命です。
顧客要求や法規制を正しく読み解き、サプライヤーとも連携しながら品質の担保を実現するのが理想の姿です。

実態:不具合報告書に追われる日々

多くの時間を奪う「報告書づくり」

実際の品質保証部門では、不具合が発生するたびに「報告書」の作成が発生します。
報告書には原因調査、再発防止策、是正処置の履歴、検証記録など膨大な資料が求められ、その入力・集約・管理に1日の大半を費やすことも珍しくありません。
例えば、1枚の部品にわずかな傷が発見された場合でも、「現品確認」「関連工程のトレース」「作業者ヒアリング」「原因特定」「是正案策定」「検証」と少なくとも6工程以上の業務が発生します。

現場の声:「本来やるべきこと」に手が回らない

現場の声としてよく耳にするのが「数字を埋めること」「資料を整えること」が目的化し、純粋な現場改善や自分たちの知見を活かす“攻めの品質活動”に手を出す余力がないという意見です。
特に昭和から続く多重チェック・紙文化の現場では、同じ情報を手書き、エクセル、印刷、手渡しで回す非効率が温存されているのが現状です。

「なぜ報告書文化は続くのか?」業界特有のジレンマ

製造業やそのサプライチェーンを取り巻く国内外の環境では、「過去の失敗を確実に再発させない」ことが、極端なまでに重視されています。
日本企業に根強い「あいまいさを排除する」「責任の所在を明確にする」文化、業界全体を覆う横並び意識や働き方の保守性が、膨大な報告書文化を温存しています。

バイヤーが品質保証に求めるもの

サプライヤーへの視線:バイヤーの本音

バイヤー(購買担当者)は何よりも「不具合原因が明確か」「再発防止が確かか」を重視します。
そのため詳細な報告書や改善計画の提出を要求しますが、これが現場にとって“報告書づくりのための報告書”を増やす負担ともなります。

一方でバイヤーは「根本原因の特定〜即応性」「類似トラブルへの予防展開」「トレーサビリティ」の確立を高く評価します。
つまり、単なる“対策済”よりも“未然防止できる仕組み”への期待が大きいのです。

付加価値の高い品質保証とは

バイヤーが真に喜ぶのは、報告書の分量が多いことではなく、“誠実かつストーリーのある再発防止策”と“現場で自律的に改善が回っている実態”です。
数値や表現だけでなく、その裏にある現場の知恵・工夫をきちんと可視化し、将来的な安心を証明するのが、プロのサプライヤーに求められる品質保証の姿です。

デジタル化の進展とアナログ文化の狭間で

現状の多くの現場が抱える課題

今なお多くの工場では、紙の帳票や手書きのサイン、エクセルファイル、現物確認を重視する運用が生きています。
この背景には、現場の熟練者の知見や「記憶に残るように手を動かす」ことの習慣が根強く、単純なデジタル化では文化醸成が追いつかない現実があります。

「昭和的手法」から脱却できない理由

昭和的な手法——たとえばハンコ文化や“転記作業”——は、形式的には時代遅れのようでいて、実は業務プロセスの担保や属人的判断の抑制、抜け漏れ防止という長所も持ち合わせています。
その半面、非効率や情報伝達の遅延、若手や多国籍スタッフへの教育面では明らかにハンデです。

最適なバランスの模索:ラテラルシンキングで考える

今後導入したいのは、単なるペーパーレス化やシステム化ではありません。
現場の知恵=“暗黙知”を形式知化しつつ、「どの情報をデジタルで、どのプロセスをアナログで管理するか」を現場と一緒に熟考することが重要です。

たとえば、原因調査や現場ヒアリングはデジタル化しにくい一方、工程履歴や不良率の集計、報告書ドラフトの共有はデジタル化で大幅な短縮が可能です。
それぞれのメリットを生かし、「攻め」と「守り」のバランスを取ることがカギとなります。

これからの品質保証に求められるスキルとマインド

コミュニケーション能力と仮説検証力

不具合報告書は単なる記録ではなく、サプライヤーとバイヤーの信頼関係を築くためのコミュニケーションツールです。
「現象の記述」「事実の整理」「適切な解釈」「仮説立てと裏付け」など論理的な思考力だけでなく、現場の作業者や管理者、時には顧客と向き合う対話力も不可欠です。

“業務の自動化”と“人間の介在価値”を両立する

RPAやAIによる不具合報告書の自動生成、定型業務の自働化は徐々に拡大しています。
一方で、現場を歩いて五感で感じる異常、トラブルの背後にある“現場の本音”は、人間の感性でしか拾い上げることができません。
新旧の仕組み・技術・人の知恵を掛け合わせることが、これからの品質保証者には求められます。

まとめ:現場目線で「本当に意味のある品質保証」を目指す

品質保証の実務は、不具合報告書の作成に追われがちな“守り”の業務が大半を占めています。
しかし、これからの先進的な製造現場では、報告書文化の効率化やデジタル化を一歩進め、「考える時間」「現場を変革する力」をどう生み出すかが重要です。
業界全体の保守性や報告書重視を飛び越え、本来の品質保証の価値――製造現場が主体的に動き、顧客やサプライヤーと信頼を築く“攻めの品質保証”――を体現する仲間が増えることを願います。

製造業の現場で感じた悩みや葛藤、やりがいを胸に、これからも「品質保証」の本質を現場視点で伝え続けていきます。

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