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IoT領域での商品創出に向けた事業連携と新規事業共創

目次
IoT領域での商品創出が注目される背景
現在、製造業においてIoT(Internet of Things:モノのインターネット)技術を活用した商品創出の動きが急速に広がっています。
この潮流は、単なるITの活用にとどまらず、工場自動化、省力化、生産性向上、品質トレーサビリティ、さらには新たなビジネスモデルの構築にまで及んでいます。
なぜこのタイミングでIoT領域の商品創出が注目されるのか。
その理由はいくつかあります。
第一に、人材不足と熟練技術者の高齢化です。
従来の職人技術では維持が困難となるなか、データとテクノロジーで現場を補完する必要性が高まっています。
第二に、サプライチェーンリスク・BCP(事業継続計画)に対応するためです。
近年の新型感染症、自然災害、地政学リスクなどは、グローバルに連携した生産活動の見える化・即応性を求めており、その解決策としてIoTが期待されています。
第三に、お客様価値の転換です。
作った「モノ」を売るだけでなく、稼動データ・稼動状況を組み合わせて「コト(体験や継続サポート)」を提案する企業が増えています。
この流れの中で、IoTを活かした商品創出、そのための事業連携、新規事業の共創が、ますます重要となってきているのです。
事業連携によるIoT商品開発の意義
IoT領域は、その特質上かつての1社完結型(垂直統合型)ではなく、他社・他業種との連携が重要になっています。
なぜなら、IoT商品創出には下記のような多様な領域の知見が不可欠だからです。
専門技術の複合化
IoT商品は、センサーデバイス・無線/有線ネットワーク・クラウド基盤・AI解析・エッジコンピューティング・アプリケーション開発など、多くの専門領域を横断します。
例えば、多くの現場で採用が進む「稼働監視IoT」を例に考えます。
現場装置へのセンサ取付技術はFA(工場自動化)の強みに基づいています。
通信~データ収集の仕組みにはIT/通信系ベンダーのノウハウが不可欠です。
監視画面やアラート通知を開発するには、ソフトウェアやUI/UXに長けたパートナーが必要です。
このように業種を超えた横断的連携によって、はじめてユーザーが満足する商品が生まれるのです。
信頼と顧客体験
従来の「ハードウェア納入」で関係が終わるのではなく、IoTを活用したサービスでは「データ/状態を常時ともに見守る」という顧客体験への転換が必要になります。
つまり、開発側、バイヤー(購買)、サプライヤー(供給者)など関係者どうしがオープンにつながり、互いの強みと“弱み”を把握し合うことで、従来にない価値提供が可能となるのです。
アナログ業界に根付く現場マインドとIoT導入のリアル
IoTやデジタル化が声高に叫ばれますが、製造現場の多くは「昭和時代」的な管理手法が根強く残っています。
帳票の手記入とハンコ、ベテラン担当者による目視の暗黙知など、「アナログ=悪」とも言い切れない独特の現場文化も存在します。
IoT導入に立ちはだかる壁
導入初期は「そのデータが本当に役立つのか?」という根源的な疑念が現場から出ます。
たとえば、設備の稼働データを見える化しても「結局ラインの止まる理由は現場でないとわからない」「IoTなんて高価なオモチャじゃ意味がない」「現場の勘所にはかなわない」という“デジタル懐疑論”が生まれやすいのです。
ですが、この現場マインドを否定するのではなく、“デジタルの力でアナログな現場の良さを延命・拡張するため”という文脈でIoT導入を進めることが、現実的な解決策となります。
現場起点で価値共創を仕掛けるポイント
IoTを推進するときバイヤーや現場管理職が念頭に置くべきことは、
– 現場の悩みに直結した「小さな用途」にこだわる
– 導入効果をいきなりROI(投資対効果)だけで判断しない
– データが現場従業員の評価になるといった“不安”を吸収し、安心感をつくる
– 現場の“困った”や“こうすれば助かる”を細かく拾い上げる
– まずは一部工程・一部機械で試して“成功事例”を積み上げる
ことです。
これをバイヤー、サプライヤーの連携で着実に回していくことが、IoT市場で勝ち残る鍵となります。
IoT領域共創のための新パートナーシップ戦略
IoT時代のビジネスモデルは、従来の「売って終わり」から「継続的な共創」へ移り変わっています。
バイヤーに求められる眼力
バイヤーは自社の課題を深く解像度高く認識し、
– どこにIoTの効用ポイントがあるか
– どんな成果を本当に追い求めているのか
– 社内外のどの現場から取り組むのが最適か
を冷静に(情熱的に)見極めることが求められます。
また、個々のサプライヤー例えば工場ITベンダー、センサー仕入先、システムインテグレーターなどの間で、「モノ」をつなぐだけではなく「現場を一緒に変える仲間」としての関係性を築くことが極めて重要です。
サプライヤー側で強化すべき視点
サプライヤーは自社技術“だけ”を売り込むのではなく、“われわれの力でどう顧客現場に寄り添えるか?”という顧客体験視点が不可欠です。
また、IoTソリューションは導入後も改修・拡張が繰り返されます。
そのため、運用・メンテナンスまで視野に入れたサービス体制や、ユーザーとのコミュニケーション体制(フィードバックループ)が新たな“差別化要因”となります。
現場で実際に起きているIoT共創事例
ここでいくつかの、実際に私自身経験した現場起点の「IoT共創」事例をご紹介します。
1. 樹脂成形工場×システムベンダーの歩み寄り
昭和から続く手書き日報で成形条件や不良情報を管理していたある工場。
「射出機からの生データ取出し→ダッシュボード化→データに基づく不良解析」というシステムベンダーとの共創を、3工程だけでトライアル開始しました。
最初は「新しいしくみなんて現場の邪魔」という声が多かったが、
– 生産トラブル時の原因解明が“言い争い”でなく“データ”で語られる
– 「どうせ稼働グラフを見るのは本社だけ」と思っていたが、現場も“傾向値”に気付き始めた
という変化が起こり、2年後には生産ラインの半数以上で定着。
今では新設備の選定基準にもデジタル対応状況が加わるようになりました。
2. エレクトロニクス企業のサプライヤー連携
高精度組立を行うA社。
サプライヤーから毎日届く部品精度のばらつきで悩んでいました。
A社はIoTモニタリング装置開発のベンチャーと連携し、サプライヤー工場に条件付きでセンサを設置。
「納品される部品の加工履歴」「加工機の温度・振動パターン」をリアルタイム共有する“透明性”を作りました。
結果、「サプライヤー側も自工程課題が見える」「A社も不良解析のスピードが早まる」とWin-Winの関係になりました。
最初は情報共有に警戒心が強かったサプライヤーも、「どうせやるならA社向け以外のラインでもIoT化しよう」と意識を変えました。
今後の展望と、製造業の未来像
IoT領域の共創は、業界の枠にとどまらず、異業種間のオープンイノベーションを加速させています。
また近年は、IoTに「AI(人工知能)」や「量子コンピューティング」「ローカーボン」などの要素が加わることで、現場の課題解決力はさらに高まるでしょう。
それでも、根底にあるのは「現場の困りごとを解決するリアリズム」と「協業による価値創造」です。
日本の製造業がアナログ時代の良さをIoT/デジタルでアップデートし、世界で勝つためには、現場発の気付き×多社協業によるラテラルシンキングの力を、今よりもさらに強めていくことが大切です。
IoTでの商品創出は「ただのデジタル導入」にとどまらず、お客様、開発現場、バイヤー、サプライヤー、すべてが学びあい、高めあう“共創の場”です。
これからバイヤーを目指す方は、自社の内外をつなぎ合わせる“ファシリテーター”としての役割を担うことが期待されます。
サプライヤーの立場の方は、IoT導入が“売り物”以上の“価値共創”であることを理解し、現場に寄り添った提案・運用を心がけてください。
IoT市場は、俊敏な変化が求められる一方で、本質的な現場起点の目線が最終的な競争力となります。
今こそ、現場の知恵とIoT×新パートナーシップの掛け算で、製造業の新しい未来をともに切り拓きましょう。
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