投稿日:2025年6月26日

防災用品と循環型ビジネス拡充を実現する事業連携アイデアと市場開拓ポイント

はじめに:製造業×防災用品の市場が広がる背景

昨今、日本国内では地震や台風、大雨など自然災害が頻発しており、防災用品市場は年々拡大しています。

一方で、SDGsやカーボンニュートラルへの取り組みが求められる今、使い捨てを前提とした防災用品から、循環型ビジネスモデルへの転換が大きな注目を集めています。

昭和の時代には「備蓄」で終わっていた防災用品も、時代のニーズに合わせてリサイクル・再利用・回収までを視野に入れた新たなバリューチェーン構築が急がれています。

本記事では、20年以上製造業の現場を知る筆者が、調達購買や生産管理といったバイヤー視点、そしてサプライヤー・メーカーの双方向の立場から、循環型防災用品市場の本質と事業連携モデル、市場開拓の実践ポイントについて深掘りします。

防災用品分野における従来の課題とは

1. 備蓄在庫の廃棄問題

多くの企業や自治体では、防災備蓄品を定期的に更新します。

しかし、まだ使用可能な備蓄品が、賞味期限や耐用年数を理由に大量に廃棄されてしまうケースが後を絶ちません。

この「もったいない」はCO2排出や廃棄コスト増大など、時代に逆行する大きな課題となっています。

2. 防災用品バイヤーの調達観点

調達担当は、コストダウンや品質確保だけでなく、サステナブルな商品調達も強く意識するようになっています。

ESG投資やCSR方針の一環で「調達ガイドライン」刷新が進んでおり、防災備蓄品にも“環境意識”や“再利用性”が強く求められ始めています。

3. サプライヤーとバイヤー間の断絶

サプライヤーは「良いモノを作れば売れる」というプロダクトアウト思考が強く、ビジネスモデル型防災用品(循環型サービス提供・回収型サブスクリプション)へ転換できていないところがほとんどです。

この意識ギャップの解消と、Win-Winになるような事業連携が今、強く求められています。

循環型ビジネスを実現する防災用品の新潮流

1. サーキュラーエコノミーを基盤とした防災用品の設計

脱炭素社会に向けた動きの中で、「ヒトとモノの循環」がキーワードとなっています。

単なる“物品のリサイクル”から一歩進め、「使用⇔再調整・再生産⇔再配備」の仕組み化こそ、真の循環型ビジネスの形です。

例えば、災害食や保存水、簡易トイレのメーカーは、賞味期限が近い備蓄品を回収してフードバンク、被災地、福祉施設などへ横流し(フードロス対策)したり、残渣やパッケージを原材料に再投入するサイクルを実現しています。

2. サブスクリプション型ビジネスとの連携

備蓄品を「定期的なレンタル契約」とし、メーカー側が期限前に回収→新品を再配備→回収品はメンテナンスしながら2次利用市場または寄付販売に展開。

これにより、自治体・企業は最適な備蓄水準を維持しつつ廃棄コストを削減。

メーカーも継続的な収益を得つつ、ESGに配慮したブランド価値を高めています。

3. IoT・デジタル化と抱き合わせた防災管理

在庫状況・使用期限を自動監視するIoTセンサーや、RFIDタグによるトレースビリティシステムの活用が進みつつあります。

これにより、備蓄品の「最適化」「見える化」「再流通経路」の開拓も含め、データに基づいた運用が可能です。

調達部門だけでなく、情報システム部門や物流部門とも連携しながら“全社最適”を実現することが、今後の標準となるでしょう。

多層的な市場開拓のポイント

1. サプライヤー視点:顧客起点の商品企画・サービス化

これまでの「製品一発勝負」ではなく、バイヤーニーズに即した課題ドリブンな商品開発が必要です。

たとえば「小ロット多品種備蓄の要望」「業種ごとの特記事項(アレルギー対応、ハラール対応、ペット防災)」にもきめ細やかに対応する姿勢が不可欠です。

「定期交換+回収+再利用」パッケージを一気通貫で提供できれば、サプライヤーは差別化につながります。

2. バイヤー視点:ガイドライン刷新と評価基準の多様化

従来は「価格」「性能」「納期」が選定ポイントでしたが、SDGsの観点で「リサイクル率」「供給チェーンの環境負荷」「回収・再利用プラン」など新しい評価軸が急増しています。

購買部門も、経営層やCSR部門との連携を強化し“会社全体の方針”として防災用品選定基準の見直しを進めましょう。

また、持続可能なサプライヤーかどうか、認証制度(エコマーク等)も積極活用するとよいでしょう。

3. 産官学連携と共創マーケティングの推進

自治体からの大口案件・共同購入を狙う場合、「単独受注」では限界があります。

メーカー・卸売業・物流業・NPO法人・システム会社が一体となり、新規バリューチェーンを組成することで、市場開拓のスピードと広がりが劇的にアップします。

さらに、産学官連携で研究開発~社会実装の仕組みを整えれば、補助金や助成金を活用したPoC(概念実証)も行いやすいのがポイントです。

製造業における具体的な事業連携モデル

1. 多業種複合連携によるソリューション提供

たとえば、自動車部品メーカーが持つ金型・材料技術を、スタートアップの防災用品開発プロジェクトと組み合わせ、新素材軽量カートリッジ型保存食を開発。

物流会社と提携し、回収と配送も含めたワンストップサービスを実現する事例も増えています。

このような「分業・連携の設計力」は、成熟した日本の製造業だからこそ発揮できる強みです。

2. バイヤー・サプライヤーデータ共有による最適化

サプライチェーンが多層化・複雑化する中で、データ共有による共同在庫管理・予兆管理の仕組みが重要です。

AI需要予測システムを活用し、防災用品の「需要平準化」と「過剰備蓄の抑止」を両立させる動きが広がっています。

各ベンダーの情報をオープンにすることは競争力を損ねる危険もありますが、信頼関係に基づく“共創型サプライネットワーク”の構築は、これからのスタンダードです。

現場・マネジメントからの教訓と未来への提言

製造業者が新しいビジネスモデルを受け入れるには、現場起点の「小さな実証」と「意識変革」が不可欠です。

管理職や工場長は従来の“生産量ファースト”から、「廃棄ゼロ・再利用ファースト」への思考転換が求められます。

現場スタッフのアイデアこそ、無駄のない仕組みや新技術導入の原動力になります。

「失敗から学ぶ→次回に活かす」現場力の蓄積こそ、実は競争優位性の本質です。

また、若手バイヤーや現場ベテランが垣根を越えて学び合う場(社内ワークショップ、他社交流勉強会)なども積極的に取り入れましょう。

まとめ:今こそ防災用品×循環型ビジネスの主役に

防災用品における循環型ビジネスは、古くて新しい発想です。

「メーカーが売る」「バイヤーが買う」という一往復の関係だけでは、持続的発展は難しい時代となりました。

事業連携とデジタル化、環境・社会要請を力強く取り込むことで、自社のみならず産業全体を活性化させることができます。

すべての製造業関係者が工夫し、学び合い、小さくチャレンジする――

まだまだ昭和の空気が残る業界だからこそ、変革の本丸は現場と現場をつなぐ「新しい連携力」にあるのです。

共に知恵を持ち寄り、次代の防災・循環型ビジネスを世界に発信しましょう。

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