投稿日:2025年6月24日

事業化プロデューサー養成講座:新規事業開発に必要な専門人材の育成法

はじめに:変革期の製造業に求められる「事業化プロデューサー」

製造業は今、大きな転換点を迎えています。
少子高齢化やグローバル競争、SDGs/ESG経営への対応、さらにはデジタル変革の波など、従来のモノづくりの枠組みを超えた新たな価値創造が求められています。
その要となるのが、「事業化プロデューサー」の存在です。

事業化プロデューサーとは、新規事業の発想・構想から具体的な製品やサービス化、事業の成長まで一貫してリードできる人材を指します。
製造現場、調達、品質管理、営業やマーケティングなど、分野横断的なスキルと現場感覚、さらには組織を動かす推進力が不可欠です。

昭和時代から続くアナログ主義や縦割り組織では、新たな事業創出はなかなか実現しません。
一方で、現場での知恵や泥臭い経験こそが、他社との差異化や成功確率の向上に直結します。
本記事では、大手メーカー勤務歴20年以上の筆者が、製造業の現場で身につけた知見も交えながら、新規事業を牽引できる「事業化プロデューサー」育成のための実践的なアプローチを解説します。

事業化プロデューサーに必要なスキルセットとは

分野横断の知識:調達から生産、品質、営業まで

新規事業開発においては「点」や「部分最適」の知識では不十分です。
調達購買、生産管理、品質管理、工場自動化(FA)、サプライチェーンマネジメント(SCM)、営業・マーケティングなど、製造業のバリューチェーン全体を理解する必要があります。

例えば、調達現場で「なぜこのコスト構造になっているのか」「なぜその部品が需給リスクを孕むのか」といったリアルな背景を把握していれば、サプライヤー戦略や市場投入タイミングの判断が格段に的確になります。

また、品質管理部門で培われる科学的な問題解決アプローチは、開発初期段階のリスク評価や技術検証に大きく役立ちます。
営業との協働経験があれば、「モノを売る」局面のリアルな顧客ニーズを的確に把握でき、机上の空論に終わらない価値提案が可能です。

推進力とリーダーシップ:現場を説得し協力を引き出す力

新規事業の推進は多くの場合、既存の枠組みや組織の壁とぶつかります。
特に工場現場では「前例重視」「失敗回避」の文化が根強く残っています。
事業化プロデューサーには、各部署の利害や立場を調整し、現場との信頼関係を構築しながら率先して動かす「巻き込み力」と「突破力」が求められます。

これは単なるカリスマ性だけでなく、「現場経験」「業務理解」「泥臭さ」があってこそ効果を発揮します。
製造業で求められる「現場で汗をかくリーダー」が典型です。

デジタル時代に必要な知見:DXやデータ活用の素養

近年はIoTやAI、ビッグデータ活用による生産プロセスの見える化、工場の自動化(スマートファクトリー)など、デジタル変革(DX)が加速しています。
事業化プロデューサーはこれらデジタル技術を自らが手を動かして開発する必要はありませんが、その可能性・価値を「言葉として説明できる」レベルで理解し、現場に促す必要があります。

ロジカルシンキングだけでなく、ラテラルシンキング

論理的思考(ロジカルシンキング)が必須であるのは大前提ですが、それに加え「斜め上の発想力=ラテラルシンキング」がイノベーションには不可欠です。
調達のプロが知る価格交渉テクニックから脱却し、サプライヤーとの共創で新サービスを立ち上げる発想。
品質保証部門の規制対応ノウハウを応用し、SDGsやカーボンニュートラル対応事業につなげる。
このように「今までの常識」を超越する柔軟さも重要な武器です。

昭和から抜け出せない製造業の課題と動向

非効率な縦割り組織と情報分断

多くの日本の製造現場では、「設計部門」「生産技術」「調達」「生産管理」「品質保証」など縦割り構造が根強く、部署間のコミュニケーション不足や全体最適の視点の欠如が見受けられます。
またデータ管理も紙ベースやExcel管理が多く、情報が「見える化」されていない現場も少なくありません。

このようなアナログ体質から脱却するには、プロジェクトベースで複数部門を横断する推進人材が不可欠です。
つまり、「事業化プロデューサー」がそのカギとなります。

属人的な技術伝承とOJT依存

熟練工やベテラン技術者頼みのOJTや「背中を見て覚えろ」という風土も、まだ各所に根付いています。
新規事業開発となれば、従来の個人技やアドリブ以外に、型化されたノウハウや、再現性ある教育体系が求められています。

保守的な意思決定とリスク回避性向

現場レベルでは「冒険より安定」の意識が強い傾向にあり、リスクをとったチャレンジがなかなか評価されません。
また、評価制度自体が新規事業の失敗を許容する設計になっていない場合も多いです。

こうした業界特有の背景を理解した上で、現場を納得させるストーリー作りや、評価・報酬設計の見直しもまたプロデューサーの重要なミッションといえます。

新規事業プロデューサー育成の具体的アプローチ

現場ローテーションとOJTの再設計

現場感覚を持ち分野横断で動けるプロデューサーを育てるには、実務を通じた「部門横断型ローテーション」が有効です。
調達、技術、生産、品質、営業などを持ち回り、各部門での仕事を経験することで、全体視点と部門間コミュニケーション力を養うことができます。

また、単なるOJTではなく、「課題解決型プロジェクト」を若手~中堅人材に与える仕組みを設計します。
たとえば「工場内歩留まり5%改善PJ」や「新規供給網開拓PJ」、さらに「未来工場の構想策定」など、部門の枠を超えたリアルなミッションにチームで取り組ませると経験値が飛躍的にアップします。

「経営視点」のインストール:PL/BS思考の教育

部分最適に陥らないためには「PL/BSで事業全体を見るトレーニング」が不可欠です。
売上・コスト・利益構造、ROI(投資収益率)、キャッシュフロー、といった数値で考えるトレーニング。
プロダクトアウト(作りたいものを作る発想)から、マーケットイン(社会・顧客のニーズ起点)の発想への転換も必要です。

若手のうちから小規模でもいいので「事業企画」「収益計画」の経験を与えることが現実的かつ極めて有効です。

外部知見との接点づくり:「社外の風」を積極的に吸い込む

調達購買部門でサプライヤー選定時に「アライアンス型共創」を強化したり、スタートアップ、IT企業、DXコンサルなど異業種交流を積極的に推進することが推奨されます。
他社や他業界の成功/失敗事例に触れることで、社内だけでは見えない発想や手法を自社流にカスタマイズできる素地がつきます。

サプライヤー側の立場であれば、バイヤーの新規事業志向を理解し、「御用聞き」から「共創パートナー」へのポジショニングを目指すと自身も成長できます。

「失敗」を評価し、再挑戦文化を根付かせる

新規事業開発には失敗がつきものです。
むしろ「失敗からリスクを見つけ、ノウハウを言語化・型化」できる人材にこそ大きなチャンスが生まれます。
多くの製造業では「失敗=減点」ですが、「リスクテイク・スピード・再挑戦」を称賛する評価制度への一部切り替えが重要です。

現場管理職や工場長クラスが自ら「実験台」となってチャレンジし、失敗事例を積極的に公開する組織カルチャーが根付くかどうか、これが大きな推進力となります。

デジタル人材×現場人材のハイブリッド育成

デジタル専門人材と従来型現場人材のハイブリッド育成も不可欠です。
デジタル人材向けには現場研修・カイゼン活動の参加を、現場人材にはデータリテラシー・DX基礎教育を合わせて設計します。
両者が「ものづくりの現場」と「最新技術」の橋渡し役となれば、これまでにない事業創出が実現します。

まとめ:製造業の未来は「現場発×プロデューサー型」の人材にかかっている

製造業の強みは「現場力」にあります。
しかし、それだけでは持続的な成長や新規事業の創出は難しい時代です。
「横断型の知見」「現場をまとめるリーダーシップ」「デジタル感度」「失敗を許すカルチャー」「外部との連携力」など、高度な専門性と現場軸を併せ持つプロデューサー型人材こそがこれからの主役です。

一朝一夕で育つものではありませんが、小さなプロジェクトや既存業務の枠を超えた経験の積み重ね、経営陣の意識改革、評価制度の改定など、できることから変革を始めていくことが肝要です。

現場で悩み、挑み、突破してきた皆さんには必ず「他社にない強み」「独自の仕事観」が備わっています。
ぜひその価値に自信を持って、次世代の事業化プロデューサーとして、新たなイノベーションの潮流を現場から起こしていきましょう。

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