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売上規模と経営の自由度が比例しない理由

目次
はじめに──製造業の「規模」と「自由」のジレンマ
「大きな会社ほど、経営者は好きなことができるのでは?」
製造業で働く方の中でも、そう考えている方は多いのではないでしょうか。
実際、「巨大企業=経営の自由度が大きい」といったイメージが、昭和の時代から根強く残っています。
しかし、現場を知る立場から率直にお伝えします。
売上規模が拡大すればするほど、経営の自由度は必ずしも高まるわけではありません。
むしろ、自由度が下がるケースも多々あります。
今回は、製造業歴20年超、現場から経営の中核まで経験した筆者が、
「売上規模と経営の自由度が比例しない理由」と、
その先にある“本当にしなければならない決断”について、現場目線+最新トレンドを交えて深掘りします。
売上規模拡大のメリットとその裏側──アナログ時代との決定的な違い
1. なぜ「規模の経済」は経営者を縛るのか
かつての日本製造業は、「とにかく大きくすれば強くなる」「売上が増えれば、自由に意思決定できる」と信じられてきました。
理由は明快です。
規模の経済によって原材料コストが下がり、販促費も効率化できる。
資金繰りも安定し、新工場や新規事業への投資も自由度が高くなる──。
こうした好循環を、バブル期の製造業経験者は身をもって体験しています。
もちろん、これは今でも真実の一部です。
しかし、令和の現場は大きく変わりました。
「大きな船ほど小回りがきかない」「投資判断が重くなる」
こういったジレンマを、現場・調達・生産・品質・経営の各部門で強く感じているのです。
2. 巨大組織=意思決定プロセスの煩雑化
規模が拡大する最大の“副作用”は、意思決定のスピードダウンです。
特に、調達購買や生産管理の現場を見れば一目瞭然。
例えば、少量多品種生産や、新素材の採用など、小さな会社なら経営者の一声で即決・即実行できる事でも、
大企業になると
・現場担当者
・事業部長
・購買部門長
・管理部門
・経理、法務、リスク管理部門
といった多段階の「承認」が必要になります。
各部門のプロが、それぞれの“リスク”をゼロに近づけるため、慎重に分析し、議論を尽くす。
これは品質保証などでは重要ですが、生の市場のスピードにはどうしても追いつけません。
社内会議で決済される頃には、競合が先に顧客を獲得していることも珍しくありません。
昭和型の“えいや!”と判断できる自由度は、売上拡大と反比例して失われる構造なのです。
3. 経営ガバナンス強化とリスクマネジメントの影響
さらに今、大企業には「ガバナンス強化(=統治・ルール厳格化)」への圧力があります。
・不正会計やコンプライアンス違反の社外露見
・株主や金融機関、取引先からの監査強化
・ESG(環境・社会・ガバナンス)経営への要求
これらが重なり、もはや現場発の独断専行──いわゆる「現場の都合で一気に進める」自由度は、激減しています。
経営者は売上規模が大きいほど、
「会社全体のブランド、株主価値、社会的責任、法令順守」を多面的に睨みながら、
リスクを取るか、引くかのシビアなジャッジを求められるのです。
売上拡大の弊害──ノウハウ共有・人材活用・現場力の鈍化
1. 組織のサイロ化と“情報の壁”が成長を妨げる
中堅・大手メーカー現場を歩いていてよく遭遇するのが、「他部門との情報共有が進まない」という声です。
小規模企業では
・調達バイヤーと開発設計者が日常的に意見交換し
・品質課題もすぐ共有
・トップも現場と膝詰めで議論
できるため、現場課題のスピード解決が期待できます。
しかし、数百億・数千億の売上規模になれば、各部門ごとに目標KPIや評価制度が縦割りに設定され、
・「調達部門のコストダウン優先」
・「開発部門は納期死守」
・「品質管理はリスク回避重視」
と、それぞれが“自部門最適”に走りがちです。
結果、部門同士でノウハウを出し合ったり、「ちょっと話を聞いてほしい」と言える環境は希薄になります。
この“壁”は、デジタル化が進んでも、ウェブ会議やチャットだけで簡単に崩れるものではありません。
2. 「人材の流動性低下」と「現場力」弱体化のジレンマ
もう一つ、売上拡大と同時に忍び寄るのが「人材の流動性」「現場力」の弱体化です。
従業員が多ければ、人的リソースの調整がしやすいと思われがち。
しかし、大組織では
・役職ごとに職務権限がガチガチに固定化
・他部署への異動や越境チャレンジがハードル化
・トップダウンとボトムアップの“すきま”に現場の声が埋もれてしまう
このような現象が起こります。
中規模工場や、現場主導の自働化(自動化+改善活動)が優れていた企業が、
規模拡大とともに「現場の自律的な改善提案が減った」「若手が埋もれて目立たなくなった」
という嘆き声も多いのです。
人材の成長=現場のチャレンジ・裁量権で育ちます。
売上拡大の影で、その土壌を狭めてしまうのは、まさに「自由度」が減る最たる例です。
サプライヤーとバイヤーの“自由度”を決める新しい要素とは
1. 取引先の多様化と「選ばれ続ける力」
以前は「規模の大きい会社=良い取引先」「大手のバイヤーに選ばれる=安定」といった価値観が主流でした。
しかし現代は取引ネットワークが格段に広がり、
・中小優良サプライヤーが、ネットを通じてグローバル案件を獲得
・大企業側も、柔軟で特徴のあるサプライヤーを積極的に発掘
という流れが加速しています。
この背景には、“お互いの自由度”を高める必要性があります。
バイヤーも、売上規模の大きいサプライヤーだからといって、必ずしも自由に取引できるわけではありません。
むしろ柔軟性のある“現場提案力に優れたパートナー”を求めています。
また、サプライヤーから見ても、
大手バイヤーの無理難題を「お得意様だから」と唯々諾々と受け入れるのではなく、
「あえて自身の強みを絞り、適切な自由裁量を確保する」
戦略が、長期的なビジネスの安定につながります。
2. デジタル化・自動化で“現場力”を解放する
売上規模が拡大するほど自由度が下がる、というジレンマ。
この壁を突破する“新しい地平線”が、デジタル活用による
・現場の負担軽減
・情報共有の自動化
・全社横断での意思決定プロセスの自動化・可視化
にあります。
例えば、調達購買プロセスを
・EDI(電子データ交換)やSaaSによる契約・発注・納期管理
・需要・供給バランス最適化のためのAI需要予測
・IoTによる生産ラインの見える化
といった手段で“自働化”すれば、承認ルートや情報の壁を大幅に短縮できます。
結果、本来は人間が決断しなければならない「新規取引」「新製品開発」「危機対応」などのコア業務に、
より多くの時間と裁量=自由度を割り振れるのです。
実際、昭和型の「勘と経験と根性」に頼り切る現場ではなく、
データと最適化されたプロセスを武器にした“新しい現場力”こそが、
売上規模の制約を乗り越えるために不可欠です。
売上規模に依存しない「真の自由」とは?──現場と経営の未来像
1. 「小さくても強い」組織に学ぶ自由度の本質
筆者が知る中小製造業では、売上数億円規模でも
・現場主導のスクラム体制
・意思決定のスピード、現場裁量の広さ
で大企業にはない「強み」と「しなやかさ」を発揮しています。
そして、大企業でも
・社内ベンチャー
・分社化やカンパニー制
・現場発の改善提案制度
こうした「小さく強い組織運営」に舵を切ることで、売上規模の重力に縛られない自由度を得ています。
2. バイヤー・サプライヤー双方が求める本質的な価値
バイヤーになりたい方、
またサプライヤーの立場でバイヤー目線を知りたい方にもお伝えしたいのは、
・組織規模や売上が“自由”を生み出すのではなく
・現場の課題発見力やスピード、柔軟性、“本質を見抜く力”
こそが、これからの時代の市場競争力だということです。
高い自由度を保つためには「選ばれる理由」を不断に問い直し、
大小にかかわらず「今までの延長」を疑い、現場目線で“新しい打ち手”を見出す。
それこそがこれからの製造業の成長に直結します。
まとめ──「規模拡大だけが正解ではない」経営の次なる地平へ
「売上規模が増えれば、経営者は好きなことができる」という時代は、もはや過去のものです。
これからの製造業では、
・規模の拡大によるメリットと、自由度低下のトレードオフを冷静に見極め
・現場力、“現場の知恵”を生かした新しい組織運営やプロセス改革
が強く求められます。
昭和から続くアナログ的な“常識”にとらわれず、
深いラテラルシンキングで「何を変えるべきか」を問い続けることが、
本当の自由度──そして新しい競争力を生む第一歩です。
バイヤー志望の方も、サプライヤーの立場でバイヤー目線を学びたい方も、
ぜひ“自由度の本質”をもう一度、自らの現場、組織、思考に照らしてみてください。
それが製造業の明日を切り開く大きな原動力になるはずです。
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