投稿日:2025年12月21日

可動部近傍のケーブル部材が損傷しやすい理由

可動部近傍のケーブル部材が損傷しやすい理由

はじめに:工場現場で多発するケーブル問題

製造業の現場では、機械の可動部近傍に設置されたケーブルやハーネスが損傷するトラブルが後を絶ちません。
ライン停止や予期せぬ生産ロス、不良品の発生につながるため、この問題に頭を悩ませている現場担当者やエンジニアも多いのではないでしょうか。

昭和から続くアナログ的な現場改善活動でも頻出する、ケーブル損傷の原因。
しかし、その現象を“摩耗”“断線”とだけ片付けず、本当の根因や背景に切り込むことで、より本質的な解決策が見えてきます。

本記事では、可動部近傍のケーブル損傷がなぜ起きやすいのか、現場での経験を交えつつ、バイヤーやサプライヤーに求められる視点も織り交ぜ、実践的な内容を解説します。

1. ケーブル損傷の主な原因~現場観察から見える事実~

製造現場でケーブル損傷が発生する箇所は、ほとんどの場合可動部近傍です。
その背景には以下のような物理的・機械的ストレスが集中していることが多くあります。

1-1. 繰り返し曲げ応力と屈曲疲労

ロボットアーム、可動棚、搬送コンベアの駆動部など、機械が動作するたびにケーブルが曲げられたりねじられたりします。
この繰り返し応力によって、銅線が内部で断線したり、被覆がひび割れたりする「屈曲疲労」が蓄積していきます。

1-2. 引っ張り・圧縮ストレス

設計上ケーブルの取り回しに余裕がない、または固定が甘い場合、動作時にケーブルへ不規則な引っ張りや圧縮の力が加わることがあります。
たった0.5mmのたわみやストレスでも、数万回の繰り返し動作では大きな弱点となります。

1-3. 擦過摩耗

可動部近傍はスペースがタイトになりがちです。
狭いダクトや他の部品と擦れ合うことで、ケーブル被覆が短期間で摩耗します。
金属製のエッジやねじ頭が、意外な“刃”の役割を果たすこともあります。

2. 損傷が発生しやすい実際の現場シーン

現場目線でよく見られるシーンを紹介します。

2-1. ロボットアームの根本部での断線

多関節ロボットでは、制御信号や電力供給のためのケーブルがアームの可動範囲に沿って引き回されています。
特にロボットの根本部分は回転・屈曲頻度が高いため、屈曲疲労が集中しやすいポイントです。

2-2. ドア・可動パネルヒンジ部でのハーネス損傷

制御盤や保守用カバーの開閉部に配置されたケーブルも、ヒンジ動作にともなう曲げ応力で断線しやすくなります。
設置スペースが限られているため、ケーブルの最適ルートが確保されていない場合が多々あります。

2-3. ケーブルチェーン(ケーブルベア)内でのトラブル

近年は複雑な動作範囲を持つ装置で、ケーブルチェーンを使って配線するケースが増えています。
しかし、選定ミスや剰長不足、誤った固定方法によって、チェーン内部でねじれ・擦れが発生し損傷につながることがあります。

3. なぜアナログ業界に根深い問題なのか

なぜこの問題が“昭和から変わらず”解消されないのでしょうか。
その理由は、古くからの現場文化や設計思想、生産現場の特性に起因しています。

3-1. 「動かせればいい」の設計思想

機械設計段階で「ケーブルなんて消耗品」という発想が根強く残っている現場は少なくありません。
本体機構の設計が最優先され、配線設計が後回しになりがちです。

3-2. ショートカットされやすい「配線作業」

設置工数削減やメンテナンス性を理由に、つい短い距離・直線的なルートで取り回そうとする傾向があります。
しかし、それが結果的に柔軟性の余裕や追従性を奪い、繰り返し応力の集中を招いています。

3-3. レガシー機器と新技術のギャップ

オートメーション化が進み、ロボットやAGVなどの最新設備では高耐久・高柔軟ケーブルのニーズが急増しています。
一方、設備全体の大半が20年前と同じ配線素材・設計で稼働しているというギャップも、根本課題を難しくしています。

4. サプライヤー・バイヤーに求められる視点

この問題を乗り越えるため、サプライヤー・バイヤーが持つべき視点とアプローチを解説します。

4-1. サプライヤー側での提案型アプローチ

可動部用高耐久ケーブル(ロボットケーブル)の積極的な提案が不可欠です。
例えコストアップになっても、ライフサイクルコストや設備停止リスクを定量的に示し、“投資効果”として訴求することが重要です。

また、設計時点から曲げRや繰り返し周波数、取り回しルートなどもメーカーとして積極的にヒアリングし、応用事例の引き出しを増やすことも大切です。

4-2. バイヤーとして品質・技術的観点を持つ

バイヤー(調達担当者)は、単なる価格比較だけでなく、現場トラブルの履歴や設備停止リスクを定量評価し、サプライヤーと伴走する形で購入判断を行うべきです。

調達時には
・屈曲耐量(○万回保証)
・適正な曲げ半径
・環境耐性(油・熱・火花・薬品など)
といったスペック基準を明確にし、必要なら現物サンプルで現場実装テストを実施することをおすすめします。

4-3. データの“見える化”とメンテナンス設計

近年はIoTを活用し、ケーブル損傷部位の“見える化”を進める現場も増えています。
損傷が発生しやすいルートや応力が集中するポイントを履歴データとして収集・分析し、次回以降の設計に生かす取り組みが重要です。

また、現場メンテナンスの観点からは、容易にケーブル交換ができる構造設計や、予防保全のための予備配線の導入も有効です。

5. 問題解決に向けた新たな発想

ラテラルシンキング的発想で現状を打開するためには、単なる材料置き換えだけではなく、以下のような新発想が必要です。

5-1. 機械設計目線での根本解決

「可動部にケーブルを通す」という前提自体を疑うことも検討に値します。
たとえば、無線給電や無線通信技術を採用すれば、可動部に有線ケーブルを必要としない仕組みも現実味を帯びてきました。

5-2. 板金・樹脂部品との一体設計

ケーブル保護カバー・ガイド・ルート確保部品を既存フレームや機構部品と一体設計し、摩擦や曲げ部分を減らす設計思想が今後一層重要になっていきます。

5-3. 現場の技能習得・啓発の強化

現場オペレーターやメンテナンス担当の「正しいケーブル取り回し技術」「配線ルール」の習熟度こそが、損傷削減のカギとなります。
点検時に軽視されがちなケーブルの“手当て”を標準作業に取り込み、文化として根付かせることが肝要です。

まとめ:業界の未来へ、課題解決を担う現場力

可動部近傍のケーブル損傷は、現場の“あるある”で済まされてきた宿痾ともいえる課題です。
しかし安全・品質・コスト競争力がますます問われる今日、根本からの見直しや新たな発想が求められています。

サプライヤー、バイヤー、現場エンジニアそれぞれが、素材・設計・運用の視点からこの課題を見つめ直し、ラテラルシンキングで新たな地平線を切り拓く。
それこそが、変化激しい製造業において企業価値を高める近道ではないでしょうか。

本記事が、現場改善・バイヤー教育・サプライヤー提案力アップの一助となれば幸いです。

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