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長期包括契約に上限下限レンジを入れて値戻しリスクを抑える

目次
はじめに:製造業における長期包括契約の難しさ
製造業において、調達や購買業務は会社の競争力を大きく左右する重要な役割を持ちます。
特に、サプライヤー(供給業者)との間で結ぶ「長期包括契約」は、安定した供給とコスト管理の両立を図るためには欠かせません。
一方で、昨今の原材料価格の乱高下や為替変動を背景に、長期間固定した価格で契約を締結すること自体が極めて大きなリスクをはらんでいます。
今回は、そういった契約に長らく悩んできた現場目線から「上限下限(レンジ)」を設ける契約手法、その活用メリットや現実的な運用ポイントについて解説します。
長期包括契約の現場課題
従来の包括契約のメリットと主な落とし穴
長期包括契約とは、部品や原材料などの調達品について、一定期間の価格・納期・数量などをあらかじめ決めてサプライヤーと合意する取引手法です。
これにより、バイヤー(購買側)は安定調達による生産計画の確実性とコストの平準化、サプライヤー側は安定した売上高と設備投資計画のしやすさといったメリットがあります。
しかし、数年にわたる契約期間中に
– 原材料価格が高騰した
– 急激な円安や円高が発生した
– サプライヤー側の経営状況が悪化した
など、外部環境が劇的に変化すると
– サプライヤーが赤字覚悟で納品せざるを得ない
– バイヤーが市場価格と比べて不当に高いコストを払い続ける
– 双方に大きな「値戻し」交渉が発生し、不信感が拡大する
といった問題が多発します。
実際、昭和の高度成長期はこうした「業界慣行」で長期据え置きが成立しても、近年のグローバル化と市場変動下では一度結んだ契約が重荷となる事例が後を絶ちません。
コロナ以降の激化する需給変動
ここ数年、原油や半導体材料を始めとした原材料価格の乱高下を目の当たりにした方も多いはずです。
コロナ禍によるサプライチェーン混乱、戦争や地政学リスクの台頭、輸送費の高騰——。
先読みできないこれらの変化は、従来型の長期契約では到底カバーできなくなっています。
「昨年結んだ価格で納品できません」とサプライヤーから泣きが入り、契約再交渉で現場が疲弊した経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
レンジ設定(上限値・下限値)による新しい長期契約の考え方
レンジ付き契約とは何か
こうした時代背景をふまえ、長期の包括契約に「上限・下限価格(レンジ)」を設定する手法が注目されています。
レンジ付き契約とは、例えば「部品Aの価格を2024年4月〜2026年3月まで1個100円で据え置く」ではなく、
「基本価格を1個100円、ただし原材料市況が大きく変動した場合には下は90円、上は110円まで調整を行う」
と事前に価格の変動幅=レンジを取り決めておく考え方です。
これにより、一方的な値上げや値戻し(価格修正)交渉のリスクを抑えつつ、契約の安定性と柔軟性を両立できます。
メリット
– サプライヤーにとっては「これ以上赤字にならない」最低ラインが保障され収益リスクが下がる
– バイヤー側も市場異常時に法外なコストアップを防ぐ上限が定められる
– 双方事前合意のもと、価格調整ルールが明確となり、交渉にかかる労力・不信感の発生を抑えられる
– 景気変動が多い昨今において「共存共栄」の取引関係を築きやすい
留意点
一方で「どうやってレンジを決めるか」「調整タイミングや根拠は明確か」など、現場での実装には注意点もあります。
特に、「レンジの幅が広すぎる・狭すぎる」「市況連動の根拠が曖昧」と、かえって後々のトラブルの火種ともなりかねません。
実践的なレンジ設定・運用のコツ
レンジ幅の決め方:現場での知恵
レンジをどこに、どの程度持たせるべきか。
これはまさに現場バイヤーの腕の見せどころです。
一般的には、
– 原材料比率が高い(鋼材・樹脂など素材コスト依存度が大きい)
– 変動が激しい(海外市況連動品など)
– サプライヤーの企業規模や財務体力・下請構造
これらをふまえ、過去数年分の価格推移・市況データと今後の見通しをもとにレンジ幅を設計します。
例えば、過去5年で年最大±8%変動した部材ならば「±10%」のレンジとするのが一般的です。
リスクを鑑みてやや余裕を見ても良いでしょう。
ただし、レンジ幅が狭すぎると契約の柔軟性が損なわれ、広すぎると安定性が失われます。
サプライヤーとの事前協議・情報交換が不可欠です。
調整ルールは「第三者指標」など客観性重視
「調整のタイミング」も非常に重要です。
典型的には、
– 半年ごとの原材料価格改定
– 一定幅(例:5%)以上の変動が市況で発生した場合のみ再交渉
– 業界紙や商社が公表する指標(例:日経鉄鋼価格指数など)をベースに計算
といった第三者的な客観指標を使うのがおすすめです。
「実際の納入価格改定」をめぐりバイヤー・サプライヤー双方の解釈や思惑がぶつかるのを防ぐには、エビデンスとして納得感のある指標選定がポイントです。
場合によっては、契約書に「原材料価格が10%以上変動した場合は協議のうえ都度改定する」など、柔らかい文言もあわせて記載すると、長期的な試行錯誤がしやすくなります。
「損して得取れ」の精神も大切に
現場感覚として最も大切なのは、「自社にとって一方的に有利なルール」に偏らないことです。
昭和型の価格据え置き要求や、バイヤー優位の一方的値下げアプローチは、現代のサプライチェーンでは通用しにくくなっています。
時には自社が多少コストを被ってでも、サプライヤーの健全経営・継続供給を守る——
そうした「損して得取れ」のバランス感覚が、長い目で見れば事業全体の利益につながると私は考えています。
アナログ業界も今こそ「契約の進化」が必要
昭和型・過去の成功体験からの脱却
日本の多くの製造業界では、過去の商習慣や「なあなあ」の付き合い文化ゆえに、契約文言が曖昧なまま取引を続けてきた実態が存在します。
これまでは「阿吽の呼吸」や「長い付き合いで何とかする」ことが美徳とされてきました。
しかし、今や時代は変わっています。
グローバルサプライチェーンの活発化、多国籍企業との競争、法的リスクの増大という新しい地平が、われわれアナログ業界にも求められています。
バイヤーとサプライヤーが共に成長できる契約を目指して
レンジ付き契約は、サプライヤーに余裕を持たせ「死なない」価格を設定しつつ、バイヤー側も自社のコスト競争力を守る「納得の価格形成」を両立する画期的な方法です。
こうした「現場目線で、しかも将来を見すえた」契約手法がアナログ業界に定着すれば、お互いの競争力を高め業界全体の発展にもつながるはずです。
まとめ:新しい契約慣行の普及に向けて
– 長期包括契約にレンジ(上限値・下限値)を設けることで、急激な市況変動のリスクを緩和できる
– 双方で納得感のある根拠とルール設計が現場実装のカギ
– 契約文言の客観性・柔軟性を重視し、「業界全体の生産性向上」という視野で考えることが重要
– 昭和的な曖昧慣行から脱却し、Win-Winの契約文化を広める推進役となろう
日本の製造業は、現場からの知恵と粘り強い調整力でここまで発展してきました。
しかし、新たな時代の波に乗るためには「契約」という基本インフラからその現場力を進化させる必要があります。
これからの調達・購買を担う皆さんには、ぜひレンジ付き長期包括契約という新しい選択肢を、現場目線で考え・広めていくパイオニアになっていただきたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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