投稿日:2025年9月14日

購買部門が推進するカーボンニュートラル調達とコスト削減

はじめに~カーボンニュートラル調達が求められる理由

近年、企業のサステナビリティ志向が加速し、「カーボンニュートラル調達」という言葉を耳にする機会が増えています。

とくに調達購買部門は、企業のカーボンフットプリント全体の中でも大きな比重を占めるサプライチェーンの最適化を担う重要な役割を持っています。

これまで調達部門に課された最大の使命は「コスト削減」でした。

しかし、SDGs・ESG投資・グリーン成長戦略・炭素税の導入といったマクロの潮流を受け、「環境貢献」と「コストダウン」の両立が新たなミッションとなっています。

本記事では、約20年以上にわたり現場の購買担当や工場長として培った実践的な視点から、「購買部門が推進するカーボンニュートラル調達とコスト削減」について徹底解説します。

カーボンニュートラル調達とは何か

そもそもカーボンニュートラルとは

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにする取組みのことを指します。

例えば、工場の稼働で排出されるCO2を森林保全や再生可能エネルギーへの投資などでオフセット(相殺)するイメージです。

これを自社内だけでなく、資材調達・物流・仕入先の生産プロセスまで拡げるのが「カーボンニュートラル調達」です。

工場・調達の視点からカーボンニュートラル調達を捉える

昭和時代の日本型製造業は、「品質保証」と「コストダウン」を至上命題として、サプライヤーとの長期的な信頼関係を重んじてきました。

近年はこれに「カーボンフットプリント管理」や「グリーン調達ガイドライン」を加味する動きが急加速しています。

つまり、取引先に「環境情報の開示」や「グリーン対応」を求めるなど、従来の調達業務の枠組みを超えた業務へのシフトを迫られています。

カーボンニュートラル調達推進の裾野と課題

調達購買に求められる「Scope3」への対応

温室効果ガス排出量の算定にはScope1(直接排出)、Scope2(間接排出)、Scope3(その他サプライチェーン全体の排出)の3区分があります。

購入原材料やサプライヤー・物流起因の排出量「Scope3」は、自社のみでは把握しづらいのが現実です。

ここに調達購買部門が果たす役割の大きさがあります。

昭和から続くアナログ調達の実態と変革のギャップ

成長を遂げた日本製造業の多くは、「現場の顔を見て判断」「属人的な取引」「現物主義」といった“昭和的調達文化”が根強く残っています。

サプライヤーとの阿吽の呼吸で業務が進んでしまうため、カーボン情報の数値化・トレーサビリティ化・開示ルールの標準化は、現場の購買担当からみると負荷が高いのが現状です。

実践で活きる!カーボンニュートラル調達とコスト削減の両立方法

1.サプライヤー選定基準を再設計する

従来は「品質」「納期」「価格」が3大指標でしたが、これに「環境対応力(GHG排出量・認証取得等)」を盛り込むことが求められます。

例えば、LCA(ライフサイクルアセスメント)データやRE100認証、カーボンフットプリント情報の有無を評価項目に加えることが有効です。

そうすることで、安易なコストダウンのためだけに環境負荷の高い企業を選択するリスクを回避できます。

2.現場主導の省エネ・資源循環イノベーション

カーボンニュートラル推進の“外圧”だけでは現場は動きません。

製造現場の「歩留まり改善」や「リサイクル材利用拡大」「省エネラインの導入」といった地道な活動と掛け合わせることで、コストとカーボン削減のダブル効果を生み出します。

筆者自身が工場長として取り組んだ事例では、梱包資材のリユース化や段ボール規格統一、また工程間運搬の見直しなど、現場起点のアイデアによってコスト10%削減とCO2排出量20%カットを両立したこともあります。

3.デジタル活用によるトレーサビリティ強化

サプライチェーン全体の情報管理・コミュニケーションには、今やデジタルツールの導入が不可欠です。

調達部門が主導して、EDIシステムやサプライヤー向けのポータルサイト構築、CO2データ自動集計ツールの採用などを推進できます。

昭和型のアナログ業務から脱却し、データドリブンな意思決定を行うことが、これからの時代に求められています。

カーボンニュートラル調達推進の成功事例

大手自動車メーカーの事例

某大手自動車メーカーA社は、2030年に向けてカーボンニュートラルを掲げ、全てのサプライヤーに対してCO2排出量の開示義務を課しました。

AIを用いたCO2可視化システムを導入し、材料調達から製品完成までの排出量を一元管理できる体制を構築。

取引先にもLCAデータの提供や再生材比率アップを要請しています。

ただし、サプライヤー側に過剰な設備投資などの負担を強いず、費用対効果やパートナーシップを重視。

共存共栄型の戦略で、負担を抑えつつコスト削減と環境貢献を両立しています。

中小製造業ができる取り組み事例

中小企業でも、例えば「グリーン電力への切り替え」や「社用車のEV化」「クローズドループリサイクル(自社の廃材を原料化して再利用)」など、即効果の出やすい分野があります。

こうした取組みを調達・生産・開発チームと一体となって推進することで、限られたコストで最大限のカーボン削減と競争力の確保が可能になります。

バイヤーの視点:カーボンニュートラル調達とコスト削減の意図・戦略

現場の“本音”:なぜコストとカーボン両立が重要なのか

購入先からすると、「環境意識の高まり=コストアップ」を警戒する声が根強いです。

しかし、カーボンニュートラル調達の本質は「健全な調達網の維持」と「将来リスク(カーボン税やESG評価)の回避」にあります。

また、省エネ材料や生産革新の推進、冗長な工程や資材の見直しなど、コスト削減にも寄与できる部分が多い点も理解しておきたいところです。

逆境をチャンスに変えるサプライヤーの価値提案

サプライヤー側からバイヤーに「カーボンニュートラル材料」「再生材提案」などを能動的に打ち出すことで、他社との差別化・競争力強化につながります。

また、製造現場の“小さな改善(カイゼン)”を積み重ね、その実績を提案に盛り込むことで、購買担当者からの信頼を勝ち取ることも可能です。

カーボンニュートラル調達推進の「次なる地平」

異業界・異分野とのラテラル連携

たとえば、異なる業界と原材料資源の「共通化調達」や、「エネルギー地産地消PPA(電力購入契約)」の実現、IT企業との連携による環境データプラットフォームの標準化などが一層求められてきます。

調達部門がイニシアチブを発揮し、旧来の垣根を超えたオープンイノベーションを主導することも、今後のカーボンニュートラル推進の“ラテラル思考”につながります。

個人の意識変革が成否を分ける

最先端のツールやルール、仕組みを整備しても、最終的には「現場担当者一人ひとりが腹落ちするか」に全てがかかっています。

自分の業務が地球環境や社会課題と直結していることを実感し、小さな積み重ねが全体の大きな価値になることを現場全体で共有していくことが重要です。

まとめ~購買部門が創る、強い製造業の未来

カーボンニュートラル調達とコスト削減。

このふたつは一見すると相矛盾するゴールのように映ります。

しかし、現場主導の改善活動と、デジタル技術・異業種連携を通じて、それぞれが補完し合う“新しい調達モデル”を構築することができます。

常に現場から課題を発見し、本質的な価値創造をめざす調達部門こそが、これからの製造業における真の競争力源泉となるはずです。

カーボンニュートラル時代を生き抜くために、モノ・カネ・ヒトの枠組みを超えたイノベーションを、ぜひ一緒に生み出していきましょう。

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