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輸送中の船舶火災に備える貨物保険の担保範囲と通知期限管理

目次
はじめに:製造業のグローバル化とリスク
製造業はグローバル供給網の最前線に立ち、多様な国と企業との間で日夜、大量の商品や部材が輸送されています。
とりわけ現代は、サプライチェーンの複雑化・長大化により、貨物輸送中に潜むリスクが増大しています。
その中でも近年、特に注目されるのが船舶火災による貨物損失です。
この記事では、現場目線から、輸送中の船舶火災に対して何ができるか、貨物保険の担保範囲はどこまでなのか、そして保険請求時に不可欠な通知期限の管理について、実務的かつ最新の視点で解説します。
これからバイヤーを目指す方や、サプライヤーの立場でバイヤーとの関係を構築したい方にとっても、最適な実践知見を盛り込んでいます。
船舶火災がもたらすサプライチェーンへのインパクト
なぜ船舶火災が増えているのか
国際物流の主流を担うコンテナ船。
2020年代初頭から世界中でコンテナ船火災が頻発し、1件の事故で数百億円規模の重大損害が発生しています。
その背景には、リチウムイオン電池や化学品の積載増加、コンテナの大型化、積載効率重視による過積載、積荷申告情報の誤り、紙中心の現場運用など、アナログ特有のリスクが複雑に絡み合っています。
またコロナ禍以降、需要の急増による運航スケジュールの逼迫が、検品や安全管理の形骸化を招いた例も珍しくありません。
被害がもたらす現場への影響
船舶火災が発生すると、一夜にして数百個のコンテナや製品が消失するだけでなく、港湾の長期封鎖、輸送の全面ストップ、保険手続き対応に追われる事態となります。
代替生産や緊急輸送、顧客対応、調達部門とサプライヤーの調整など、現場は混乱に包まれ、損害額以上の“時間的損失”がビジネスに大きな爪痕を残します。
貨物保険が担保する範囲とは
貨物保険の基本と火災被害への適用
国際貨物保険(Marine Cargo Insurance)は、船舶・航空・陸路など各種輸送途上での事故リスクから、貨物の金銭的価値を守るための保険です。
その中でも最も広く利用されているのが「ICC(A)」というオールリスク補償タイプです。
ICC(A)は、外部からの急激・偶然な事故全般をカバーし、「火災・爆発」は明示された担保リスクの一つです。
つまり、船舶火災による積荷の焼失や損傷は、原則として賠償対象に含まれます。
ICC(A)で担保されないケースは?
ただしすべての損害がカバーされるわけではありません。
例えば、
– 保険契約者(=自社や従業員)の故意・重過失による事故
– 梱包不備や自然摩耗による毀損
– 保険価額の過大申告や事実と異なる積荷内容(虚偽申告)
などは担保外になります。
また、よく指摘されるのが「ゼネラルアベレージ(共同海損)」。
例えば大火災で一部の積荷や船体を意図的に投棄し(漂流防止など)、それに要した費用を全荷主で分担する場合、保険のカバー範囲や手続きが複雑になる点に注意が必要です。
担保範囲と通知条件を正確に理解する重要性
アナログ業界では「昔から変わらぬ慣習」の名のもと、曖昧な認識や口約束で保険手続きを済ませがちです。
しかし、現代の船舶火災事故の損害規模や、海外取引先との責任分担の厳格化を踏まえれば、自社がどの範囲まで・誰が・どの方法でカバーされているのか、調達各責任者や現場リーダーが正確に認識しておくことが不可欠です。
保険請求時の「通知期限」とアナログ現場の課題
通知期限はなぜ厳密に管理しなければならないか
貨物事故が発生した場合、保険会社には所定の期間内(通常は事故発生・発覚から7日~14日以内)に「事故通知」を行う義務があります。
この通知(クレームノーティス)が遅延した場合、保険金請求権そのものが消滅するリスクや、補償対象外となる恐れがあります。
現場から本社への報告が滞り、管理部門や保険担当への第一報が遅れたがために、1億円規模の損害請求が成立しない、といった“昭和のアナログ失策”は今も決して他人事ではありません。
現場×本社×保険会社の連携フローを再確認
【実践アドバイス】
– 輸送中の事故情報は、現場・受入部署だけで抱え込まず、即座に本社・調達責任者・保険担当の3者に同報告するルールを周知徹底しましょう。
– 事故発覚→証拠保全(写真・記録物)→正式な事故通知(フォームに基づく報告書提出)までをタイムスタンプ付きで記録し、関係者間で見える化することが肝要です。
– 保険会社の連絡先・担当窓口を作業現場にも明記し、いつ誰でもアクセスできる仕組みを整備してください。
バイヤー目線とサプライヤー目線のリスク分担
インコタームズで変わる「保険手配者」
貿易実務において最も誤解が多いのが「インコタームズ(国際商業会議所制定の貿易条件)」と貨物保険の関係です。
例えばCIF(Cost, Insurance and Freight)契約だと売主(サプライヤー)が自ら保険手配する義務があります。
一方FOB(Free on Board)は、買主(バイヤー)が本船積載後のリスク、すなわち貨物事故の責任を引き受けることになります。
自社がどこからどこまで貨物リスクを負うのか、現場の細部に至るまで意識することが重要です。
輸送リスクがバイヤー目線に与える影響
バイヤーにとっては、調達リードタイム・在庫戦略・代替ルート確保など、サプライチェーン全体でリスク耐性を持つことが極めて重要です。
保険でカバーしきれない「間接損失」(納期遅延による営業機会損失や、サポートコスト)は、契約交渉や調達方針に織り込まねばなりません。
サプライヤーが知るべき「バイヤーの本音」
サプライヤーとしては、バイヤーがどこまでを自己責任で、どこからをサプライヤーにカバーして欲しいのか、そのボーダーラインを常に意識する必要があります。
また、最近はSDGsやESG(環境・社会・ガバナンス)観点から、「リスク管理に積極的な取組み姿勢」が取引先評価にも反映されています。
貨物保険の内容やリスク対策状況を積極的に情報公開し、バイヤーの信頼構築に役立ててください。
デジタル時代の通知期限管理:現場主導の改善策
アナログからの脱却に必要なマインドチェンジ
「紙の帳票と伝言ゲーム」で回っていた昭和・平成型の情報伝達は、もはや現代の巨大リスクに対応できません。
現場主導でのDX(デジタルトランスフォーメーション)が通知期限管理の精度を大きく向上させます。
有効なデジタル管理ツールの例
– 輸出入管理システム(E2NやNACCS等)とERP連携で、貨物到着・異常時の自動アラート機能を付加する
– クラウド型プロジェクト管理ツール(Trello、Slack、Teams等)を用い、事故発生時の即時チャット通知、責任者へのエスカレーションフローを組み込む
– 損害報告テンプレートをWebフォーム化し、現場から即時にアップロード・共有・ログ管理を実施する
こうした仕組みは、紙やメールからの情報ブラックボックス化を防ぎ、通知漏れや遅延を未然に防ぎます。
担当者教育とルールづくりを徹底する
最先端ツールを導入しただけでは現場は変わりません。
定期的な研修、事故事例を用いたロールプレイ、万一の際の「模擬事故対応研修」など、地道な教育を通じて通知期限遵守の重要性を現場全体で浸透させましょう。
また、責任区分と決裁フローの明文化(RACIマトリクス等)も必須です。
まとめ:貨物保険・リスク管理こそ現場の競争力
輸送中の船舶火災は、製造業のグローバル化が推し進める現在、もはや例外事象ではなくなりました。
貨物保険が担保する範囲、通知期限という実務の「急所」の管理、バイヤーとサプライヤーの協調的なリスク分担、そしてアナログ体質からの脱却こそが、持続可能な調達・供給能力の要となります。
現場目線での備えと実践を積み重ね、製造業全体の底力を共に磨いていきましょう。
本記事が、現場・管理層・これからバイヤーを目指す皆様の羅針盤となりますことを願っています。
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