投稿日:2025年8月31日

輸送中盗難・ピルフェリッジ対策:TAPA/CTPAT/AEOを活かすセキュリティ設計

はじめに:製造業現場における輸送中の課題

日本の製造業界では、「高品質」「ジャストインタイム」「安定供給」が長きにわたり美徳とされてきました。
しかし、世界的なサプライチェーンの複雑化とともに、部品や製品の輸送過程で発生する盗難やピルフェリッジ(Pilferage: 少量盗難)が大きなリスク要因となっています。

特に近年は、国際取引が活発化し、物流経路が多様化したことで、従来のアナログ的な“信頼ベース”の対応だけでは限界が見えてきました。
現場人材やバイヤーが喫緊で求められているのは、国際基準のセキュリティ設計です。

この記事では、TAPA(Transported Asset Protection Association)、CTPAT(Customs Trade Partnership Against Terrorism)、AEO(Authorized Economic Operator)といった世界標準の輸送セキュリティ認証を参考に、現場目線で実効性のあるセキュリティ対策を深掘りします。
これからバイヤーや購買担当を志す方、現場でセキュリティに関わる方、またサプライヤーの方でも取引先企業の安全性要求に応えるヒントとしてご活用ください。

輸送中盗難・ピルフェリッジの現状:製造業が直面するリスク

グローバルにモノが飛び交う中、輸送中の盗難、ピルフェリッジは増加傾向にあります。
日本国内でさえトラック積み荷からのピルフェリッジ報告は少なくなく、海外、とりわけ新興国ルートでは被害はさらに大きく深刻です。

なぜ今、輸送セキュリティが問われるのか

1. サプライチェーンの分断と多元化
物流ルートが増えるほど“密室性”が高まる場所が多くなり、不正侵入や積み荷へのアクセス制限が弱くなります。

2. 高額部材や電子部品の小型化・高密度化
物理サイズは小さくても価格・供給価値が飛躍的に高い部品が増加し、盗難のリスクも同時に拡大します。

3. 顧客(OEMメーカーなど)の厳格なコンプライアンス要求
ISOやIATF規格だけでなく輸送時のセキュリティについても国際規格対応が求められる時代となりました。

昭和的”信頼ベース”からの脱却の遅れ

依然、日本の製造業の現場には“顔が見える関係だから大丈夫”“昔からの運送会社だから安心”といった暗黙の信頼主義が根付いています。
しかし、多重下請け構造や委託先の多国籍化により、そこにはもう綻びが生じ始めています。

グローバル基準となりつつあるTAPA・CTPAT・AEOとは

製造調達のプロフェッショナルを目指すならば、これら国際標準は避けて通れません。

TAPA(Transported Asset Protection Association)

TAPAは、主にハイテク・電子機器分野で導入が進む、物流における犯罪リスク低減のための自主管理認証です。
重点は“盗難リスク分析”“セキュリティ設計基準”“予防策の文書化と監査”で、実際の倉庫・トラック・輸送ルートの物理的な安全性確保が基軸です。

特にFSR(Facility Security Requirements:拠点セキュリティ基準)、TSR(Trucking Security Requirements:陸送セキュリティ基準)などが代表例です。

CTPAT(Customs Trade Partnership Against Terrorism)

CTPATはアメリカ発祥のテロ対策寄りのセキュリティ認証で、サプライチェーン全体の“透明性”や“ごまかしの排除”に主眼があります。
港湾~配送現場の全行程における危機管理や、パートナー企業の審査(監査)履歴、教育プログラムも重視されます。

AEO(Authorized Economic Operator)

AEOは関税当局から与えられる信頼あるサプライヤー証明で、日本でも導入が進み始めています。
輸出入通関時の簡略化や優遇措置も受けられる一方、“会社組織として輸送リスクを管理できているか”が証明されなければ承認は困難です。

実践!TAPA/CTPAT/AEO基準を考慮したセキュリティ設計の要点

在庫~輸送~納品までの“リスク地帯”マッピング

まずは対象となる部材や製品、物流ルートの実態を洗い出します。
特に工場現場・倉庫・物流拠点・積み替え地点・目的地納品先まで、どのポイントにどんな“脆弱性”があるかを明確にしましょう。

– 積荷情報(何が積まれているか)の秘匿方法
– 積み込み時と配送途中での封印(シール・テープ)の活用
– 許可されていない人物によるパレット・段ボールの開封防止策
– 監視カメラ設置場所/記録期間のルール化
などは初歩ですが実効性が高い施策です。

運送業者・倉庫事業者への“セキュリティ要件発注”

TAPAやAEO認証を取得済みの倉庫・運送会社を選定するだけでなく、下請けや再委託先にも独自監査やセキュリティ教育を要求しましょう。

現場レベルでは
– 積荷変更時の二重チェック
– GPS管理された車両の利用
– 鍵管理ルール(運転手・積荷責任者の識別)
– 異常時の連絡/報告体制と証拠保全
などをベンダー契約書や要領書に明記し、定期的に実地棚卸・監査を行うことが重要です。

サプライヤー・部品メーカー側でできる“バイヤー思考”のセキュリティ設計

「バイヤーはなぜセキュリティ基準をこれほど厳しく求めるのか?」を理解し、逆算で自社工程や配送仕様にも落とし込みます。

– 輸送パッケージの未開封証明(セキュリティシール等)
– 工場出荷~納品書管理まで一貫したトレーサビリティ番号管理
– “万が一発生時”の情報開示・迅速報告マニュアルの整備

サプライヤーも受け身姿勢から脱却し「自社がTAPA/CTPAT/AEO基準のどこまでに適合しているか」を自己説明し、最大のパートナー価値向上に務めましょう。

進む“デジタル化”と、現場社員の意識変革が成否を分ける

セキュリティは「モノ」だけでなく「情報」「人」の3点で初めて完結します。

今やIoTタグやGPS追跡装置、AIによる画像監視解析なども手軽になりましたが、どんな優れた仕組みも“現場社員の当事者意識”が伴わなければ形骸化します。

デジタル×現場力:昭和~令和へ、現場の変化とは

昭和式の「勘・経験・根性」だけでは、複雑化したサプライチェーンのセキュリティは維持できません。
ですが、一方で現場の“目配り・気配り”を無くすと、いくらデジタル管理していても漏れやごまかしが起きてしまいます。

– バーコードやRFIDによるピッキング・出荷検品の実効性
– 不審者・異常検知を現場が主体的に記録・報告する文化
– “見て見ぬフリ”を許さないライン管理者の役割再認識

この“ハイブリッド型”人材教育が、今後の日本型セキュリティモデルの新境地だと言えます。

まとめ:製造現場・バイヤー・サプライヤー三位一体のセキュリティ思想へ

グローバルな競争が激化するなか、“品質”と同じ次元で“セキュリティ”を語る時代が到来しました。
TAPA・CTPAT・AEOをはじめとする世界標準は、単なる書類づくりやアリバイ作りではありません。
どれだけ現場目線で実装できるか、社員ひとりひとりが自らの業務や工程レベルまで日常的に落とし込めるか――。
その総和が、顧客や取引先の信頼、ブランド価値、リスク最小化を実現します。

調達・購買を目指す方は、もはや「価格交渉」「納期対応」だけでなく、「サプライチェーンを安全に守るプロ」としての視座が必須です。
サプライヤーは、バイヤーやエンドユーザーの“期待を超える安心”を提案することで差別化が図れます。

現場発の知恵と、次世代基準の知識で、日本のものづくりセキュリティを共に進化させていきましょう。

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