投稿日:2025年8月21日

不良率の算定基準を巡り顧客と揉めたケースと明確化の仕組み

はじめに

製造業の現場において「不良率」は品質管理の最重要指標の一つです。

しかし、不良率の算定基準が明確でないと、顧客とメーカーの間でトラブルが起こることは決して珍しくありません。

特に、長年アナログ的な運用がされてきた昭和時代の慣習が色濃く残る業界や、担当者レベルで解釈が異なるような場合、現場は混乱し後戻りのできない損失を生むリスクもあります。

今回は、私自身の製造現場、バイヤーとしての立場、サプライヤー管理職といった多面的な経験から、「不良率の算定基準を巡ってトラブルになった事例」と「その予防・解決のための仕組み作り」について、深く掘り下げて解説します。

なぜ不良率の算定基準が揉めるのか

不良率の算定基準は案外明文化されていないことが多いです。

取引開始時点で「ISO9001取得済み」「検査合格品のみ納品」など品質要求事項は掲示されていても、実際の現場運用やデータカウントの方法までは契約時に明確化されていないパターンが散見されます。

その主な理由として、

  • ・過去の慣習・前例を踏襲して曖昧な基準のまま取引を始めてしまう
  • ・購買・品証・現場など関与部門のコミュニケーションギャップ
  • ・測定方法やサンプリング方法(全数検査、ロット単位など)の違い
  • ・再発見不良や使用環境で生じる不良の扱い

などが挙げられます。

この不明確さが「自社の基準ではOKとされるものが相手にはNG」、「現場では流してOKでも仕様書には違反」など双方の認識ズレとなり、不良率の根拠をめぐってクレームや信頼問題に発展します。

典型的な揉め事の現場事例

ケース1:ロット毎の不良基準と全体平均の乖離

例えば10,000個の部品納入で、「不良率0.5%以内」という契約があったとします。

サプライヤー側は「全体の0.5%以内ならOK」と解釈して、500ロット(1ロット20個)ごとにまとめて納品。

ところが実際には、あるロットでは0個、別のロットでは2個の不良が発生し、「不良率は全納入分で0.4%です」と回答。

しかし、バイヤー側は「1ロット単位で不良率0.5%以下でなければ認めない」という運用です。

その結果、

  • ・「一部ロットに不良が集中。現場での調達・生産遅延が発生」
  • ・「総量基準とロット毎基準の定義が違うじゃないか」とクレーム合戦

現場管理側や調達担当者が板挟みに遭う形となります。

ケース2:工程内不良か最終出荷不良か

工程内での加工不良は一部をNGとして排除して合格品のみを納品。

この場合、サプライヤー側としては「納品したものはすべて検査済だから不良率0%」という報告になります。

一方、顧客側は「実際にトータルでどれだけ不良が出ているか」を知りたいため、「工程内での除外分も含めて不良率を出して欲しい」と要求。

これもよくある食い違いです。

ケース3:クレーム対応時の不良定義ブレ

納品後に顧客現場で不良品が発見され、サンプル分析依頼。

サプライヤーでは「JIS規格内の寸法公差だから問題なし」と判断するも、顧客では「自社専用治具でNGが出た」「組立時にだけ発生する現象だから製品外」と主張し、責任の所在でもめることもしばしばです。

昭和的アナログ現場の落とし穴

特に歴史のある製造業界では、「昔からこうしてきた」「口頭・FAXでのやりとり」「ルールは担当者の経験則」など、アナログ文化が根強く残る組織も多いです。

こうした現場では、製品の仕様書や受け入れ検査基準は残っているものの、不良率の計算書式、サンプリング法、ロット間の揺らぎなどを文書化しておらず、担当者の経験・勘に依存するケースが散見されます。

特にベテラン現場長の「おれの目に狂いはない」「今まではこれで問題なかった」という思想が残っているため、世代交代や人の入れ替わりで突如ルールの曖昧さが表面化し、顧客と大きな齟齬を生むこともあります。

また、Excel集計や手書き記録のまま帳尻合わせが横行してしまい、不良率の追跡性やトレーサビリティも不十分になりがちです。

不良率算定基準の明確化が生むメリット

不良率算定基準を明確化し、双方で文書化・合意することで、以下のような多くのメリットが生まれます。

  • ・クレーム発生時に根拠を持った冷静な対応ができる
  • ・現場のデータ集計工数や調整作業が大幅に削減
  • ・属人的な判断が減り、ノウハウやナレッジとして蓄積できる
  • ・次世代への技術伝承もスムーズになる

また、「定量的指標に基づく改善活動」や「取引全体のガバナンス向上」が可能となり、サプライチェーン全体の信頼性向上にも直結します。

実践的な制度設計と進め方

1. 取引開始時・年度更新ごとに「不良率の定義」について協議

見積もり・契約・仕様確認段階で、以下の項目を明記した文書を用意しましょう。

  • ・カウント方法(全数検査か?ロット検査か?)
  • ・不良の判定基準(JIS規格・顧客仕様の明示・独自治具など)
  • ・工程内不良・選別分の扱い
  • ・納品後再発見・経時変化による不良の責任区分

2. トレーサビリティの強化

ITが苦手な現場でも、中小規模ならExcelやノーコードツールで「ロットNo・製造日・検査状況・不良数・発生原因」といった項目を必ず記録。

大手ならQMS(品質マネジメントシステム)やMES(製造実行システム)を導入し、ロット追跡・サンプリング記録を一元化しましょう。

3. 社内教育と多職種間連携

調達・品質管理・生産管理など、各部門が同じ「不良率指標」を理解・共有できるよう定例ミーティングや勉強会を開催。

サプライヤー様に対しても、品質監査や月例レポートを活用して、齟齬や疑問点をすぐ解消できるループを作るとトラブル低減に繋がります。

4. 契約文章や品質基準書のフォーマット化

不良率算定のテンプレート(集計例・LOT不良/全数不良の違い・判別フローチャート等)を整備します。

これを社内規程や契約書の別紙として運用することで、担当者交代や現場の引き継ぎ時にもスムーズにナレッジを繋げられます。

現場を知るバイヤー・サプライヤーの意識改革がカギ

「今まで曖昧にしてきた方が手間がなかった」「現場判断で何とかしてきた」と思っている現場も多いのですが、市場の変化とともにこうした昭和的なやり方では乗り切れなくなってきました。

海外拠点や複数工場をまたがる現代のグローバルサプライチェーンでは、少しの認識違いが大きなロスや損害につながります。

現場を知るバイヤー・サプライヤー同士が「ルールの明確化=自分たちの作業負荷減」「顧客との信頼向上」という現実的な価値を再認識し、小さくても一つ一つ仕組み化していくことが重要です。

まとめ:曖昧さを脱し、新しい製造業の地平を拓こう

不良率の算定基準を巡るトラブルは、「どこでもあること」「解決策がない」と諦めがちな課題かもしれません。

しかし、現場主導でしっかりと仕組み化・文章化していけば、必ず泥沼のクレーム・信頼損失・再発工数削減にもつながります。

バイヤーを志す方は「サプライヤー現場がどのように不良をカウントし、どこで迷い、どこで曖昧になりやすいか」という実情に寄り添い、サプライヤーの現場を支援する提案型のコミュニケーションを意識しましょう。

サプライヤー側も「現場目線での改善を進めつつ、顧客に納得感のある説明ができるようにする」意識が不可欠です。

今こそ、“ラテラルシンキング”により既存のしがらみを乗り越え、現場発の価値を新たな秩序として定着させていきましょう。

未来の製造業は、こうした地道な仕組み化と現場の知恵の融合によって、確かな進化を遂げていくはずです。

You cannot copy content of this page