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経営層の関与不足で現場任せになり停滞したDXプロジェクトの事例

目次
はじめに:DX推進で見落とされがちな「現場任せ」の落とし穴
長年製造業の現場に身を置いてきた経験から、DX(デジタルトランスフォーメーション)プロジェクトの成功には「経営層の本気度」が欠かせないと痛感しています。
近年、多くの製造企業がデジタル技術を活用した業務変革に着手していますが、その大半は「現場任せ」となりがちです。
特に昭和時代から続くアナログ主義の企業文化が根強い現場では、現場任せのDXは失敗に終わり、形だけのITツール導入に甘んじているケースが散見されます。
本記事では、実際の事例や業界動向を交えながら、なぜ経営層の関与が不可欠なのか、その視点を持つことの価値を掘り下げていきます。
そして、これからDX推進に関わる現場・バイヤー・サプライヤーにとって、どのような発想転換とアクションが求められるのかを、具体的かつ現場目線で提示します。
経営層が「DX=IT導入」と誤認した現場任せプロジェクトの実態
背景:デジタル化の波、昭和型現場文化とのギャップ
日本の製造業は長らく「現場主義」と「職人気質」が根付き、熟練者の勘や人海戦術に大きく依存してきました。
一方で、日本の多くの工場はグローバル競争の渦中にあり、生き残りをかけてDXが不可避となっています。
しかし、「とりあえず社内でIoTを取り入れてみよう」「ペーパーレス化を進めよう」といった号令のもと、立ち上げられたプロジェクトが経営層の関心事として続かず、各現場責任者やスタッフに丸投げされてしまう姿を多く目にしてきました。
現場で起きた失敗事例:ITツール導入が目的化した瞬間
ある大手部品メーカーでの事例です。
本社の指示で、調達業務の電子化と生産状況の可視化を目的としたDXプロジェクトが立ち上がったものの、経営層の関心はコスト削減の数字にのみ絞られていました。
その結果、プロジェクトの目標は「ITツールの導入」そのものになり、現場管理者は「新しいシステムをなんとか使えるようにしてくれ」と言われただけ。
現場では、従来の紙ベース運用を急に廃止され、手順や仕様書が電子化されたものの、肝心の情報設計や現場事情が考慮されておらず、
「入力の手間が大幅に増加した」
「必要な時に必要な情報が抽出できない」
「変革したはずが以前より非効率」
と現場から不満の声が噴出しました。
経営層からは「なぜうまくいかないのか?」と叱咤があるものの、根本的な業務見直しや継続的な支援はなく、現場には現場でのやりくりが求められるばかり。
やがて現場は、ITツールを“使っているフリ”をしてやり過ごす「帳尻合わせの文化」が温存され、やがてプロジェクト自体がなかったことにされてしまいました。
なぜ「現場任せ」になるのか-アナログ業界特有の構造
このような現場任せのDX停滞は、以下のようなアナログ業界ならではの構造的事情に根ざしています。
– DXを「経営層が現場に降ろす施策」と捉え、本質的な組織変革ではなく業務レベルの効率化に矮小化しがち
– 熟練の現場管理職が「これまでも自分たちで何とかしてきた」という過信や暗黙知の壁
– 新しいテクノロジへの心理的抵抗・不理解
– 定量的なKPIのみで評価し、現場が本当に困っている非定量的な課題を拾い上げられない
この構造が「DX = ツール導入、その後は現場にお任せ」になりがちです。
真のDXとは何か–「経営が現場をリードする」発想の転換を
現場主導だけではDXは“本当の改革”にならない
DXは単なるITツールの導入ではありません。
本来は、
「自社のビジネスモデルや業務オペレーションそのものを、デジタルを用いて抜本的に進化させる」
ことがゴールです。
ここで重要なのは、現場任せではなく、トップ自らが
「なぜやるのか」
「どこを変えるのか」
「そのために現場とどんな協働が必要か」
というビジョンと意志を示し続けることです。
現場がそのビジョンに共感し、「自分ごと」として変革に参画しなければ、どんなに優れたITツールも効果を発揮できません。
経営層の関与が生み出す現場の変化
実際、DXで成功した複数の製造業では、次の2つが共通していました。
1. 経営層が現場を定期的に訪問し、「なぜ今このDXが重要なのか」と自分の言葉で語った
2. トップや部門長が現場からのフィードバック(使いにくさ・運用課題・新たな要望)を「施策に反映」し、納得感の高いルールや運用体制にブラッシュアップしていった
現場は、その姿勢から「本気で変えようとしている」と感じ、自ら改善案や新しい使い方を模索し始めます。
やがて、
「このデータ化があれば多品種少量対応も素早くできそう」
「サプライヤーとの調達交渉がデータドリブンで進められる」
といった、自発的な業務革新につながっていきました。
ラテラルシンキングで課題に挑む–今後求められる新発想
デジタル化バイアスからの脱却:現場力 × デジタルの融合
しばしば、DX=最新ITの導入と誤解されがちですが、実はアナログ現場だからこそ持つ「現場力(人の気づき・ネットワーク・改善提案)」とデジタルの強みをどう掛け合わせるか、が問われています。
例えば、LINEや簡易チャットを活用したアンドン情報の即時共有や、現場担当者自らが業務フローを見える化してエンジニアと一緒にプロセス設計する、といった事例が増えています。
これらは現場目線の工夫がデジタルによって可視化・伝播・蓄積され、「知識が属人化しない」「全体最適化につながる」という、新たな地平を開きます。
バイヤー視点:サプライヤーとの協業を生む「シームレスデータ共有」
バイヤー(調達購買担当)がDXを推進する際も、経営層主導のビジョン共有は必須です。
取引先サプライヤー側からすると、「バイヤーは本当は何を考えているのか?」が最も知りたい情報です。
たとえば調達品の納期管理や品質情報、追加オーダーの調整履歴をデジタルプラットフォームで双方向的に共有することで、「現場止まりのトラブル」の見える化・早期発見が可能となります。
こうした「バイヤーとサプライヤーの間に現場目線のDXを通したシームレスな協業体制」は、日本のアナログ業界でこそ今後の競争力の源泉となるはずです。
経営層に求められるマインドセットの転換
繰り返しますが、経営層自身が「現場に任せればうまくいくだろう」という発想から、「自分の仕事は“新しい現場のあり方”を生み、現場の声を経営に生かすことだ」という軸足の移動が重要です。
この転換は簡単なようで非常に難しいものです。
しかし、自らが失敗も受容した上で現場とコミュニケーションを重ね、相互理解を深めていくプロセスこそが、結果的に現場も経営も強くしていくのです。
まとめ:DX推進は「本気の共創」でこそ拓ける
DXは、単なる最新ITの導入や業務のペーパーレス化に留まるものではありません。
現場力を礎にしつつ、経営層が「本気」で現場を巻き込み、互いの役割をアップデートしていく「共創」のプロセスこそが、真の競争力となります。
現場任せのまま進めるDXプロジェクトは、表面的な効果しか生まず、現場疲弊と停滞をもたらします。
これからDX推進に関わるすべての人、特に経営層・バイヤー・サプライヤーには、「現場と共に未来を創る」発想転換と、今ある現場力の活用・デジタルとの融合という新しい潮流へのチャレンジが求められています。
20年以上の現場経験から断言できることは、DXは「人と人をつなぐプロジェクト」であり、そこに経営の理念と現場の納得度が融合した時、初めて新しい製造業の可能性が花開くということです。
この一歩を、現場と経営が共に歩み出すことを強くおすすめします。
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