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契約文言の曖昧さが招いた瑕疵担保責任を巡る争い事例

目次
はじめに:契約の曖昧さが引き起こす現場トラブル
製造業の現場において、契約書は単なる形式的な書類ではなく、取引の信頼を支える土台です。
特に、瑕疵担保責任に関する文言は、現場でのトラブルや企業間の信頼失墜を防ぐ上で非常に重要な意味を持っています。
しかし、昭和時代から続く“なあなあ”の慣習や、曖昧表現による契約書の作成が未だに根強く残っている現状があります。
この記事では、契約文言の曖昧さが招いた瑕疵担保責任を巡る争いの実例を交えつつ、現場視点で「なぜこうした問題が起きるのか」「どうすれば防げるのか」、さらに最新の業界動向も踏まえて深く考察し、実践的なポイントを解説します。
瑕疵担保責任とは―現場ワーカーの視点で再定義する
瑕疵担保責任とは、納入された製品に見えない欠陥(=瑕疵)があったとき、その責任を誰がどこまで持つのかを定めるものです。
民法改正前後で細かな取り扱いに違いが生じていますが、現場の感覚としては「納入後に不良が見つかったとき、どちらが責任を持って対応するか」と置き換えると分かりやすいでしょう。
サプライヤーの立場だと、“余計な責任”を抱え込みたくないのが本音ですし、バイヤーは製品の品質確保が最優先です。
しかし、その思いが契約書にきちんと明文化されていない場合、後々のトラブルに直結します。
古き慣習がもたらす“大人の解決”への罠
多くの中堅・中小製造業では、まだまだ口約束や“前任者のやり方”に頼る現場が多く、契約書も雛型を使い回しただけのことがあります。
たとえば「外観不良は納入後1カ月以内に申し出るものとする」という文言。
一見無難に見えますが、どこまでが外観不良なのか、細かな定義が抜けていたり、「1カ月」という期間が実情と合っていなかったりします。
実際、以下のような争いが起きることも少なくありません。
【事例】曖昧な契約が招いた“どちらも譲れない”紛争
ある精密部品メーカーA社が自動車部品メーカーB社に部品を納入していました。
契約書には「納品後3カ月以内に発見された隠れた瑕疵については、A社が無償で対応する」とだけ記載。
実際には、B社が部品を組み込んでから約4カ月後になって不具合が発覚。
B社は「設計上明らかになりにくい瑕疵であり、責任はA社にある」と主張。
一方、A社は「発見されたのは契約期間を過ぎており、自社の責任ではない」と対応を断ります。
結果、関係性は悪化し、双方の経営層を巻き込む泥沼紛争に発展。
最終的には法的措置も視野に入れる事態となりました。
このように、契約書の“たった一行”の曖昧さが、現場・経営双方に大きな損失をもたらす恐れがあるのです。
なぜ契約文言は曖昧になりがちなのか?昭和から続く「忖度文化」
契約文言の曖昧さの背景には、日本の製造現場に特有の「阿吽の呼吸」や「忖度」の文化が根付いています。
現場担当者が「ここまでは分かりきったことでしょ」「あえて厳しくしなくても大丈夫」と暗黙の了解で済ませてしまうケースが多く、リスクへの感度が低くなりがちです。
また、法務部や専門部署が介入しないまま現場主導で契約が進み、文言の曖昧さが放置されるケースも少なくありません。
特に納期重視・コスト重視の風潮が強い小規模サプライヤーでは、「書類は二の次、早く形を整えろ」という圧力が強く働いてしまうことも事実です。
現場目線で考える、トラブル回避のための契約文言改善ポイント
このような曖昧さを防ぐには、具体的にどのような取り組みが必要か、現場で使える視点から整理します。
1. 具体的な「瑕疵」の定義を盛り込む
外観不良・寸法不良・機能不良など、それぞれの具体的な範囲や数値基準を仕様書とセットで明確に記載しましょう。
「不良品は納入後〇日以内に指摘」「重大な隠れた瑕疵については〇年保証」など、範囲・期間を明確に切り分ければ曖昧さを減らせます。
2. クレーム受付と対応条件の明文化
どのような手順で瑕疵を申し出るのか、どの時点で回答義務が生じるのか、再発防止策や補償金額の上限を含めて事前に合意しておくことが重要です。
「資料提出後〇営業日以内に回答」と期限を切っておくと、後で揉めにくくなります。
3. 変更・例外対応時の手続きルールを明記
現場では仕様変更や追加要望が日常的に生じますが、これが契約書に反映されていないと揉める原因になります。
「書面での合意なくしては例外対応しない」といった文言も加えておくと安全です。
4. 見えないリスクを洗い出し、チェックリスト化
現場視点では「こういう場合もあった」と想定外のケースがしばしば発生します。
実際に発生したクレームやヒヤリ・ハット事例を洗い出し、契約書の見直し時に現場チェックリストとして共有しましょう。
デジタル化・DX時代の契約管理―新たな動きとこれから
ここ数年、サプライチェーンのグローバル化とDX(デジタルトランスフォーメーション)の波が製造業全体に押し寄せています。
これにより以下のような新しい契約管理の手法が普及しつつあります。
電子契約の普及
契約締結そのものがWebベースで完結し、文言の標準化・テンプレート化が進んでいます。
これにより文言の曖昧さが減り、過去のクレーム事例やリスク情報も電子的に一元管理しやすくなっています。
AIによるリスクワード自動抽出
AIが契約書から曖昧な表現やリスクとなりそうな文言を自動抽出し、現場側と法務部が迅速な合議・修正が可能になっています。
ヒューマンエラー対策としても今後ますます活用が進む見込みです。
トレーサビリティとの連動
IoTやMES(製造実行システム)と契約管理システムが連動することで、製造・納入後の不具合発生時に原因究明や責任の所在を正確に追跡できるようになってきました。
サプライヤーも“バイヤー思考”を持つべき理由
これからのサプライヤーには、単なる「モノづくり屋」以上の価値が求められつつあります。
バイヤーの視点で「自分が買う側ならどこをリスクと見るか」を想像し、積極的に契約の曖昧さ解消やリスク低減を提案できるパートナーこそ、長期的に信頼される下請けとなります。
一方、バイヤーも昔ながらの「強い立場で押し切る」のではなく、お互いの立場や事情を理解し、Win-Winの協働体制を目指すことが競争力に直結します。
まとめ:契約の“1行”が未来を変える
契約書に記された文言――それは現場の誰かの努力や、未来の信頼関係の礎です。
「曖昧さ」こそが最大のリスクであると認識し、現場・法務・経営が一つになってしっかり“実践的な約束”を交わすことが、これからの製造業に必須となります。
デジタルの力も活用しながら、現場のリアルな課題を契約・合意という形で可視化する――それこそが、いまだに昭和のアナログ文化が根強いものづくり現場を、新しい地平線へと導く第一歩です。
製造業で働く皆さん、そしてこれからバイヤーを志す方、現場の経験を強みに変えて、ぜひ安全で風通しの良い契約文化を育てていきましょう。
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